千年祭も無事に撲殺魔っ
「皆の祈りが主の元に届き、開きかけていた地獄門もどうやら閉じたようだ」
わあああああっ!
「地獄門やて!?」
「あら、エリザさん知ってるんですの?」
「知ってるも何も、ウチの居た世界にあったんや」
そちらの世界にも?
「あの世へと通じる門で、普段はS級モンスター三冠の魔狼が守ってるって話やな」
あの世へと通じていて……しかもS級モンスター!? 濃い話ですわねっ。
「で、そのS級モンスター、ウチらの仲間なんや」
…………はい?
「エリザさんの、仲間?」
「そう、仲間。濃い話やろ?」
濃すぎますわっ。
「では、地獄門を閉じるのに陰ながら尽力してくれた者達を紹介する。聖女リファリスよ、前へ!」
わあああああっ!
大司教猊下に呼ばれ、壇上へと向かいます。
「その弟子達も前へ!」
それに続き、リブラ達も後ろに並びます。
「……ウチ、リファりんの弟子じゃあらへんで?」
「いいから、黙って付いて来て。大司教猊下の御命令なんだからっ」
「大司教猊下って、あのオッサンかいな」
オッサン!? 間違ってはいませんが、失礼ですわよ!
「大司教猊下は聖心教のトップなのよ! いいから付いて来て」
「聖心教? 何か怪しげな宗教やな」
…………はい?
「怪しげ、ですって?」
「あああリファリスの目が据わってるぅぅ」
「何を怒ってんねん?」
胸の谷間から聖女の杖を取り出します。
「撤回しなさい」
「は?」
「怪しげな宗教という言葉、撤回なさい。じゃなければ、実力行使しますわ」
するとエリザさんも盾を取り出し、ニヤリと笑い。
「上等や。売られた喧嘩は買うイデデデデ!?」
リブラが介入してエリザさんの耳を引っ張り、緊張しかけた空気が霧散しました。
「な、何すんねん!」
「リファリスは聖心教で聖女認定されてる程の、筋金入りのシスターなのよ! 怪しげ、なんて言われたら怒って当然じゃないの!」
「う……」
「貴女だって自分の主人を貶されたら怒るでしょ! それと同じよ!」
「た、確かに、その通りやな」
がららんっ
エリザさんは盾を手放し、わたくしに深々と頭を下げました。
「リファりん、ウチが間違ってたわ。許してぇな。堪忍な」
え? あ、はい。
「あー、二人共、取り敢えず場所を考えような」
「……あ」
モリーに指摘されて思い出しました。ここは沢山の信者様が集まられている、千年祭の会場だった事を。
大司教猊下と信者様方の優れたスルー力によって、わたくし達の紹介は滞りなく行われました。
「なあ、リファりん」
「はい?」
「何気にリジーは殉教者扱いされてたやん、ええんか?」
よくはありませんが……。
「致し方ありませんわ。実際に消えてしまったんですもの、そういう説明をせざるを得ませんわ」
ルディの発案により、リジーは「向こう側から門を閉じる為に残り、戻れなくなった」と設定になり、殉教者として聖人認定されました。
「今度から『聖リジー』呼ばなあかんのやろ? 本人聞いたら全力で嫌がるやろな」
間違いありませんわね、ふふ。
「それより、ウチも弟子なんか?」
「まだ決めてませんわ。貴女は嫌ですの?」
「嫌とか言う前に、ウチの意思は確認せえへんのか?」
「でしたら、今確認致します。わたくしの弟子になりますか?」
エリザさんはニッコリ笑い。
「ならへんわ」
そうですか、なりません…………はい?
「ウチは無神論者なんや。リファりんには悪いけど、宗教には興味あらへんな」
「ならば、一人で生きていくつもりですの?」
「いや、違うで。ウチにはウチにしか無い技能いうんがあるんや」
エリザさんにしか無い技能?
「ズバリ、メイドや」
メイド……ですか。
「生憎ですが、我が教会にメイドは必要ありませ」
「ウチを見捨てるんか? 異世界に放り出され、右も左も分からへんウチを見捨てるんか?」
へ!?
「聖女様言われとるんやったら、そないな非道な事、せえへんよな?」
うぐ……い、いえ。
「ざ、残念ながら、メイドを雇うような余裕は」
「三食ありつけて屋根下で寝れるんやったら、ウチは無給で構へんで」
うぐ……。
「いいじゃない、リファリス。置いてあげようよ」
リブラ?
「エリザが家事を受け持ってくれるんなら、私としては楽だし」
「そうだな……俺は掃除とかは苦手だから、やってもらえると助かるな」
二人とも……。
「分かりましたわ。エリザさん、これからよろしくお願いします」
「よっしゃ、これでウチも路頭に迷わずに済むわ! こちらこそよろしゅう頼むで!」
さて、家事を受け持って頂けるのでしたら……。
「リブラ、モリー。これからは家事に時間を取られない分、みっちり修行ができますわね」
「「え」」
あら、わたくしがお二人を楽させるとお思いでしたの?
「あっははははは! 二人とも、厳しい師匠持ちは大変やなあ!」
あら、貴女にも楽して頂くつもりはありませんわ。
「修行に付き合って頂く必要はありませんが、奉仕には参加して頂きますわよ?」
「ほーし?」
「まあ、掃除したりお手伝いしたり、ですわね」
「それくらい朝飯前や! どんどん使うてや!」
うふふ、決まりですわね。
「改めてよろしゅうな、リファりん」
「ええ、よろしくお願いしますわ……エリザ」
千年祭は滞りなく、いつの間にか終わっていました。
明日は閑話です。




