ターニングポイントのキツネ娘っ
「くぅぅ、いつまで湧いてくるんだ、この大量の魔物達は!?」
ガギィ!
「ぐぁぁ!」
「衛生兵、一人やられた! 衛生兵ーー!」
ギョギャ!
「ちぃぃ! また来やがった……何してやがる、衛生兵ーー!」
ギィン! ギャリリィ
「く……は、早く、手当てを……!」
ギャギャギャ!
ザクゥ!
「ぐふぅ」
「っ……よ、よくも仲間を!」
ギィン! ザン!
ギャアアア!
「た、隊長! もう戦線が保てません!」
「一旦撤退しましょう!」
「て、撤退できるか! これ以上戦線が下がると、祭場は目と鼻の先だ! 祈りを中断させられたら、本当に世界が終わるんだぞ!」
「わ、分かってはいますが」
「敵が多すぎ……ぎゃあああ!」
「ち、畜生! 団長は、聖女様はまだなのかあああ!」
ギャギャギャ……ギョ?
パアアアア……
「た、隊長? 魔物達が……」
「な……」
ギャ……ギョ……
パアアアア……
「き、消えていく……」
「魔物達が……魔物達が消えた!」
「か、勝ったのか!?」
「……祈りが完成したのか、聖女様が地獄門を浄化されたのか、よく分からんが……どうやら生き延びたらしいな」
「……地上ですわね……」
「地上が……凄く懐かしく感じるわ……」
「ダンジョン攻略あるある」
「そんなあるある、味わいたくねえ……」
外に出ますと、地獄門の入口が段々と薄れ始めていました。
カン、カラカラ
「あ、不幸のメダルが」
リジーが何か落としたようで、追いかけていきます。
「不幸のメダルって……要は呪具?」
「ええ。持ち主の幸運を吸って悪運に変えてしまう、かなり厄介な呪具です」
「……絶対に持ちたくないわね……」
「たまに流通している貨幣に混じっているのです」
「え、それって知らず知らずのうちに、自分の財布に入ってるって事?」
僅か一代で没落してしまった大金持ちの当主の財布に、あれが入っていました。大変優秀な方だったそうですから、没落の原因は十中八九あのメダルでしょう。
コロコロ
「待て待て待って~」
「……リファリス、あのメダルって、リジーにとっては幸運のメダルになるのよね?」
呪剣士の特性は呪いの反転らしいですから、そうなりますわね。
「なら、リジーにとっての幸運って……」
コロコロ……コトンッ
「やっと止まった」
コインは地獄門の入口で止まって……。
……シュウウウ……!
……地獄門周りの魔力が凝縮し始めて……ま、不味いですわ!
「リジー、すぐに離れなさい!」
「え?」
「地獄門が消えようとしています。つまり、ダンジョンが元の世界へ戻ろうと」
「え、え?」
「駄目ぇ! 早く離れ」
パアアアアアアン!
……トントン
サインした書類の束を整える。
「終わりましたわ」
「ご苦労様でした」
「喉が渇きましたわ」
「お茶の準備を致します」
「……お願いします」
キイ……パタン
メイドが決裁済みの書類を持って、部屋から出て行った。
「……ふあ~あ、肩凝るわぁ」
リファリス様の跡を継いで三年、ようやっとリフター伯爵夫人業にも慣れたんやけど……。
「毎日毎日椅子に座って書類の決裁……嫌んなるわ」
今では世界中を旅して回ってるリファリス様が恨めしいわ。
「ウチもまた旅してみたいわぁ。サーチんは今頃はどこに居るんやろなぁ」
昔が懐かしいわぁ……。
ブブ……ブブゥン
ん?
「何や?」
壁に立てかけてあった盾を持つ。何や、天井裏から奇妙な気配がするで。
「誰や! 出てきいや!」
ブウウウウウン……
「……あああ……」
……叫び声か?
ブウウウウウン
「ああああああ!」
ん? 聞いた事ある声やなあ。
パアアアアアアン!
「ひぃあああああああああ!?」
バリバリバリズドオオオン!
「な、何やぁ!?」
「痛々いイタタタ…………あれ、ここはどこ?」
「な、リジーやないか!?」
「え? …………エリザ?」
「そうや、エリザや。つーか、何でリジーが天井裏から降ってくるねん?」
「エ、エリザ?」
「だから、そうやって」
「……エリザが居る?」
「……居るで」
「で、私が居る」
「そうやな……って、何が言いたいねん!」
「え? も、戻ってこられた?」
「はあ?」
トン コロコロコロ
「不幸のメダル……そうか、私にとっての最大の幸運は……!」
「そのメダルがどうかしたん?」
「え? ああ、これは呪具のメダルで」
「じゅぐ? 何やそれ」
「あ、こっちの世界じゃ呪われアイテムか……」
「このメダル、何なん?」
ひょいっ
「あ、それは不幸のメダルで」
「不幸のメダルゥ!?」
「持った者の幸運を吸い取り、悪運に変換する」
幸運吸い取るって、何か無茶苦茶吸われとる感覚あるで!
「返すわ、こんなん!」
「ん……あれ?」
ズズズズズズズズズ!
な、何や、この真っ黒いの!?
「あ、穴、まだ閉じてなかった!?」
穴?
ズズズズズズ……!
「な、何や、引っ張られるで!?」
「まだ向こうと繋がって…………あ、エリザにとっての不幸は……!」
ウチにとっての不幸!?
「そんなん、リファリス様と逢えなくなる事に決まって」
ズズズズズズズズズ!
く、くう……! も、もう耐えられへん!
ズリッ
「しもた……ああああああああ!?」
「エリザ!?」
「あああああぁぁぁぁぁ…………」
ズズズズ……ズズズ……ズ……
「あ、穴が……閉じた……」
チャリィィン……バリン
床に落ちた不幸のメダルが真っ二つに割れ、やがて粉状になって消えていった。
リジー ←→ ???




