守護神と撲殺魔っ
「……あれが守護神の部屋」
リジーが指し示す先には、今までとは明らかに違う意匠の扉があります。
「ガーディアンを倒せば、ダンジョンコアがあるのですね?」
「そう。ダンジョンコアを壊せば、ダンジョンは死ぬ。つまり、モンスターが増えなくなる」
……世の終わりを回避できる、という訳ですね。
「リジー、ガーディアンと戦った事は?」
「ある」
「で、どのような相手ですの?」
「チビサイクロプス」
……はい?
「どのような魔物ですの?」
「サイクロプスのちっちゃいの」
「ですから、サイクロプスとは?」
「一つ目の人型モンスター。棍棒をブンブン振って暴れる」
一つ目、ですか。
「チビって事は、相当小さいんだな?」
「小さい。チビ。ミニマム」
でしたら、そこまで苦労はしないでしょうね。
「モリー、よければ貴女一人で挑戦してみては?」
「え? 俺だけで?」
「良い経験になると思いますわよ」
四人の中ではモリーが一番戦い慣れていません。ここは一人でガーディアンを撃退して頂き、レベルアップしてもらいましょう。
「…………分かった、やってみる」
わたくしの意図を汲んで下さったようで、モリーはナイフを両手に持つと、扉の前に立ちます。
「……良いのね?」
「ああ」
「大丈夫い?」
「大丈夫だ」
モリーの意志を確認した二人は、扉を開け放ちます。逆光で何も見えないガーディアンの部屋へと、足を踏み入れます。
「頑張って下さい、モリー」
「覚悟しやがれ、ガーディアン!」
グガァアアアア!!
「えっ、ちょ、ちょっと待てよ」
あら?
「いや、話が違うだろ。これがチビかよ!?」
ゴアアアアアアアア!
ズシィン! ズシィン!
「チビ……の足音ではありませんわね」
グガァアアアア!
ブゥゥン! ズギャアアン!
「うわわわわわ!? シャ、シャレになんねえって!」
グゴアア!
ブゥゥン! バガアアアン!
「うひぃぃぃ! か、勝てる訳がねえええ!」
タタタタ! ドンドンドン!
「開けてくれええ! こんなの、絶対に無理だっての!」
ガアアアア!
ブゥゥン! ズドドオオオン!
ガチャ!
「うひゃあああああ!」
ゴロゴロゴロー!
……パタン
文字通りに、部屋から転がり出てきました。
「お帰りなさいませ、モリー」
「シシシシシスター、何なんだよありゃ!?」
わたくしに聞かれましても。
「リジー、どういう事ですの?」
「モリー、ガーディアンの特徴は?」
「ひ、一つ目の巨人だよ!」
「なら間違い無い」
「だけど、あれのどこがチビなんだよ!」
「……どのくらいの大きさでしたの?」
「俺の三倍以上ある巨人だ!」
モリーの三倍って……充分に巨人ですわよ。
「いや、チビ、小さい、ミニマム」
「あれのどこがだよ!」
「本来のサイクロプスは、城並みに大きい」
…………はい?
「それと比べたら、充分にミニマム」
「城並みって……そんなのがお前の居た世界には存在してんのかよ!?」
「巨体なだけでノロマだったから、倒すのはそこまで苦労しない。せいぜいBクラス」
「嘘だ! 絶対に嘘だああっ!」
しかし、城並みではないにせよ、それだけの巨人は厄介ですわね。
「仕方ありません、全員で行きましょう」
「分かったわ。モリーが言う事が本当なら、相当に厄介でしょうし」
「嘘じゃねえよ!」
「そこまで苦労しない……筈」
綿密に作戦は練っておいた方がいいですね。一旦休憩し、話し合いましょうか。
「……行きますわよ」
「うん」
「準備オッケー」
「あ、ああ、大丈夫だ」
ギギギギギギ
グゴアア!
扉を開けたすぐに居ました! 確かに大きいですわね!
「ではわたくしから参りますわ!」
ですが巨体である以上、敏捷さには欠けますわ!
「天誅!」
バガア! ボキメキッ
グギャアアアアアア!
聖女の杖がサイクロプスの膝を砕き、動きを封じます。
「≪呪われ斬≫」
ザックン!
ギャアアアアアアア!!
巨大な棍棒を持った右腕を、リジーが付け根から斬り落とし、攻撃手段も封じます。
「とりゃあ!」
ビシュ ドスゥ!
ギャアアアアアアア!
先程は逃げ帰ってきたモリーも奮起し、投げナイフを大きな目の真ん中に叩き込みます。
「トドメよ! はあああああ!」
ズバン!
……ドサァン
最後にリブラが首を一閃し、頭を地面に落とします。
ブシュウウ…………ズズゥン!
首から大量の血を撒き散らしながら、サイクロプスの巨体は崩れ落ちました。
「ね、大した事ない」
「大した事あるっての! 俺みたいなチクチク攻めるタイプにはどうしようもできないだろ、あれ!?」
確かに、わたくし達のような一撃必殺ができないと、かなり厳しいでしょう。
「目を潰せば勝ったも同然。あんな大きな目なら、モリーに当てられない筈が無い」
「うっ! そ、それは、まあ……」
「但しトドメは刺せませんわ。つまり、モリーに厳しいという事実は変わりません」
「そ、そうなんだよ!」
「ですが、リジーの言う通り、目ぐらいは潰していてほしかったですわ」
「う…………わ、分かったよ……」
まあ、これはこれで良い経験ですから。
「それよりガーディアンを倒したのですから、本命のダンジョンコアですわ」
「ああ、そうよ。それを壊せば、今回の危機は脱するんだから」
「大丈夫、もうすぐ現れる」
ガゴン ギギギギギギ
リジーがそう言うと同時に、天井から何かが降りてきます。
ギギギギギギ……ズズゥン……
「これが……」
「ダンジョンコア……」
それは、禍々しい赤を纏った水晶玉でした。
千年祭編、佳境です?




