宝箱と撲殺魔っ
「滅殺!」
ジャララッ グシャボキャバキャア!
四階層降った辺りから、緑小人さんや豚さんが姿を消し、死体さんが現れるようになりました。
「こういう相手にはモーニングスターが最適ですわね」
近付かなくても対処できますし、ワラワラと湧いてきますから複数同時に攻撃できて便利です。
「ゾンビ嫌いゾンビ臭いゾンビあっち行け」
「……リジーの姉御は何をしてるんだ?」
「呪具はアンデッドには効きにくいから」
「ああ、成る程」
ゾンビさんをはじめ、アンデッドには聖属性が劇的に効果がありますが、逆に呪具……呪いの類はかなり効きにくいのです。
「アンデッドなんか居なくなってしまえ」
「…………へえ?」
「あ、リブラは対象外。リブラ以外居なくなってしまえ」
「…………へえ?」
「え? ええ?」
「妹さんもデュラハーンですわ」
「しづれいしますた!」
半泣きで謝るリジーに、氷属性の目からビームを発するリブラ。
「二人共、まだ敵の真っ只中ですわよ。手を休めないで下さいな」
「はいはい」
「ゾンビ嫌いゾンビ臭いゾンビあっち行け」
ザクザクザクン!
ザグングジャブヂィ!
「リジー、斬れ味鈍そうね」
「呪い効果鈍いのが影響して、斬れないい」
「え、呪いで斬れ味に影響が?」
「この剣、斬れ味が鈍い呪いがかかってる。だから呪い反転する私には、相性抜群だった」
「反転するなら斬れ味は逆に良くなるのね……今はただのナマクラか」
「ナマクラ言うなあああ!!」
そう言えばナイフがメインのモリーも、ゾンビは相性が悪い筈ですが……?
「だああっ!」
ブンブン ボフッ
グギャアアアアアア!
松明を振っていますわね……あれは、聖火?
「俺だってゾンビは嫌いだ。だから、対策ぐらいしているさ!」
それは感心しますが、松明でどうやって聖火を?
「ん? ああ、今は便利なもんがあるんだよ……ほら」
そう言ってわたくしに投げて寄越したのは……な、何ですか、これは??
「あ、聖火ライター?」
「モリー、そんな高級品よく持ってるわね」
聖火らいたあ?
「リファリス、そのボタンを押してみなよ」
え? あ、はい。
カチカチッ
ボッ
「せ、聖火の種火が、こんな簡単に!?」
聖属性と火属性の両方が使えないと聖火は使えません。種火を起こせるだけでも貴重ですのに、何故にこんなに簡単に……?
「それ、最新の魔道具でさ、魔力さえあれば誰でも聖火が起こせるんだ」
誰でも!?
「シスターもやってみなよ。俺の貧弱な魔力でも種火程度は起こせるから、絶対できるって」
わ、わたくしでも難しい聖火が、そんなに簡単に……?
「で、では、魔力を集中……」
…………ブゥ……ン
らいたあに、魔力を注ぎ、炎へと変換……。
……ボッ
聖火の感覚が……!
「……聖女の戒『浄』」
ゴオオオオオッ!
「うわ、あっつ!」
「た、種火なんてレベルじゃ……!」
ゴオオオオオッボボオオオオオオン!
「「「あっちぃぃぃぃぃ!!」」」
……プスプス……
「で、できましたわ……」
周りを囲んでいた魔物……モンスターは皆、灰となりました。
「凄まじいですわね、聖火ライターは」
あまりの業火で、わたくしの法衣も燃えてしまいました。
「ほ、本当に凄まじい威力ね」
「あら? リブラも燃えてしまいましたのね……服だけ」
「私だけじゃないわよ」
そう言われて振り返ってみますと、モリーもリジーも素っ裸です。
「流石は聖火。生ける者には何の害も及ばさないのですね」
「「「服燃やされた時点で、充分に害ですから!」」」
……それは確かにそうですわね……。
胸の谷間から予備の法衣を取り出して着替え、再び探索開始です。
「皆学習してんだな……」
「まあ……リファリスと一緒に居ると、剥かれる率が高いから……」
リブラとモリーも準備していたらしく、事無きを得ました。
「しくしくしく……」
問題は……リジーです。
「姉御、泣く必要は無いだろ」
モリーの言葉に、涙を流しながら反論します。
「呪具は一点物が基本! 一度浄化されたら二度と戻らない!」
「いや、呪具なんて無い方が良いだろ」
「なああああにいいいい!?」
モリー、やけに呪具を目の敵にしてますわね。
「俺は元盗賊だ。色んなお宝を見てきたが、呪具程忌々しいものは無い」
「なああああにいいいい!?」
「金貨十枚にもなる白金の大剣が、呪われてたせいで銀貨一枚にもならないんだぞ?」
「え…………」
「金貨百枚にはなるミスリルの鎧が、呪われてたせいで逆に銀貨を払わなくちゃならないんだぞ? 」
「そ、それは……」
「呪われてなければ一攫千金ってお宝に、俺は五回もお目にかからされたんだ。恨み事の一つくらい言っても、罰は当たらないだろ」
「う、うむ……」
「だから姉御、とっとと着替えて先行くぞ」
「は、はい……」
それだけ希少な呪具に巡り遭ってしまうモリー自体も、呪われているに等しいですわね。
「え……な、何で宝箱が?」
するとリブラが、不自然に置かれた宝箱を発見しました。
「ダンジョンにはよくある。人間をおびき寄せる餌」
「そんなんに寄ってくるのか?」
「ダンジョンの宝箱には希少な武器防具がよく入って」
ガシィ!
「姉御、それ本当か!?」
「え、本当だけど」
「いよっしゃああああ! 俺にもツキが回ってきたぜええええ!」
喜び勇んで先を行くモリー。
「……リジーにとっての希少な武器防具って、やっぱ呪具だよね?」
でしょうね。
宝箱の中身は、やはり呪具でした。
モリー「ふっふっふ、宝箱ゲーッツ!」
パカッ
ガブゥ!
モリー「暗いよー! 怖いよー!」




