聖女様の幕間っ!
あの日、未知の呪われアイテムの匂いに釣られたのが不運の始まりだった。
「呪われアイテム呪われアイテム……ここだっ」
がごんっ
「えっ」
突然開いた意味の分からない落とし穴にハマり。
「ひああああああああああっ!」
「リジー!?」
私は底の知れない、奈落へと落ちていって……。
「ひああああああああああっ!」
ドズゥン!
「あひゃ!」
ズズゥン!
「うひぃ!」
ゴロゴロゴロゴロ!
「ぎゃあ!」
ひゅーー……
「はびゃ!」
ビタァァァァン!
高い建物の何かにぶつかり、転がり、穴を空け、更に高い場所から落ちて地面に叩きつけられた。
よくよく考えたら、よく生きてたな、私。
ガタタ……バタンッ!
「何事ですの、こんな夜更けに!」
何か凄い音がして目が覚めたのですが。
「あ、あああ! 屋根があんなに傷んで…………ああああ! 穴まで空いてるじゃありませんの!」
これは、直すのも相当時間が掛かりますわね。
「はあ……明日の朝一番で修理の依頼を出さなくては……これは費用が嵩みますわね……」
只でさえ火の車ですのに……あああ、頭が痛いですわ……。
「と言うより、原因は何なんですの、これ……」
その原因は、現在シスターの斜め下で伸びておるのじゃがな。
「う……ううん……」
あ、頭が……。
「これは酔っ払いか?」
「だとしたら相当盛り上がったんだな。狐の付け耳なんか付けて」
つ、付け耳!?
「失敬な、この耳は狐獣人の誇り高き」
「はいはい分かった分かった。相当酔っ払ってるな、このべっぴんさん」
「一旦警備隊で保護するか」
「だーかーらー、私は狐獣人で、酔っ払ってなんかなーい!」
……とは言ってもここがどこだか分からないから、大人しく保護されて情報を得る方がいいかも……と思われ。
『ていうか、情報は大事よ。場合によっては、どんな武器にも勝るし、どんなポーションよりも効くんだから』
……ってあの人も言ってたしね。うん、そうしよう。
「ひっく、ういー」
「うわ、急に酔っ払い始めたぞ」
「滅茶苦茶棒読みだけど、ホントに酔っ払ってるのか!?」
「うぃー、ひっく、酔ってますよー、酔っ払いが酔ってるって言ってるんだから間違いないー、うぃー」
「……連れてくか。怪しさ大爆発だしな」
「……そうだな。と言うより、下手くそな演技で大爆笑だな」
「……で、私のところに連れて来たのか」
「はあ、私達の上司はとっくに帰宅済みで」
「現在、この警備隊詰め所で一番位が高いのは、諜報部隊長殿でありまして」
「で、私達は交代の時間でありまして」
「後を宜しくお願いします」
ギィッ バタンッ
「……こういうのを、押し付けと言うのだが……」
「私もそうだと思われ」
連れて来られた部屋には、如何にもくたびれた中年、というイメージピッタリの男が居た。
「まあ、押し付けられたのは事実だが、仕事は仕事なのでね……まずはその狐の付け耳を取ってもらおうか」
どうして付け耳と間違えるかな。
「付け耳違う。本物なりけり」
それを聞いたオッサン、苦笑い。
「分かった分かった。本当に酔っ払ってるのかな」
酔っ払ってないやい。
「どれどれ、ならば私が」
シュンッ
「取って上げよう……」
サワッ
……っ!
「触るなぁ!!」
ブンッ
「むっ!?」
わ、私に気配を悟らせず、私の耳を触った!
「引っ張っても取れない……まさか」
やっと気付いたか、本物って。
「接着剤でくっつけてある?」
「何でやねん。わざわざ付け耳を頭に貼り付ける意味ある?」
「……ですよねぇ」
オッサンは私の耳を触った手をニギニギしながら、何か考えてる。
「…………本物?」
「本物でござる」
「本当に、本物?」
「本物であーる」
「という事は……獣人?」
「獣人だよもん」
「獣人……つまり渡り人か!」
「渡り人なのです……渡り人?」
「平たく言えば異世界人、かな」
成る程、異世界人ね………………は?
「異世界人、私が?」
「そうなるね」
「ならば、貴方は異世界人?」
「まあ、君から見ればそうなるかな」
私から見れば貴方が異世界人、貴方から見たら私が異世界人。
「うむ…………はうっ」
「え、ちょっと!?」
そっと卒倒したと思われ。
「……はうっ?」
「……目が覚める時も『はうっ』なんだね」
こ、ここはどこ? 私は異世界人。
「で、ここは異世界」
「君から見れば、ね」
そうだ、私は異世界に来ちゃったんだ!
「どうすれば元の世界に戻れると思われ!?」
「ま、待ちなさい。まずは落ち着きなさい」
「落ち着きなさいと言われて、ふー……お茶飲んで一服……なんてできない」
「そこまで落ち着けとは言ってないっ」
ど、どうすれば、どうすれば。
「いいかね、君はこの世界には存在しないはずの獣人だ」
「そ、そうだ、どうすれば」
「物珍しさに君の見た目を合わせれば、良からぬ事を企む輩が居ないとも限らない」
「よ、良からぬ事?」
「それは……まあ……」
オッサンの口から説明されたのは、あまりにも月の光な内容だった。
「ス、ス、スケベェェェェ!!」
「私はあくまで可能性があると言っただけでっ」
「呪われ剣、来たれ!」
私の≪招き≫に応えて、呪われた折剣が現れる。
「なっ!?」
「≪呪われ斬≫!」
得意の剣技でオッサンに迫る。
「く……『加速』!」
すると、当たるはずだった折剣が空を切る。
「あれ?」
「ま、まさか唯一のスキルを使わされるとは」
スキル。
「……その素早さ、あの人には及ばないけど……速い」
「あの人?」
「だから、オッサン」
「オッサン……」
「雇って」
「は!?」
「これが、私が諜報部隊に加入した成り行き」
「意味が分からないですわよ!! と言うより、あの屋根の穴はリジーの仕業だったんですのね!?」
「し、しまったぁ!」
明日から新章ですので、高評価・ブクマを宜しくお願いします。




