地獄門と撲殺魔っ
ゴゴゴゴゴゴ……
「……いよいよですわね」
「どうやら、そのようですな」
自由騎士団が構える陣の中央で、わたくしと副団長様の会話が響きます。
「……静かですわね」
「皆緊張しているのです。無理もない」
確かに。前回の千年祭を知るわたくしですら、周りがどのような状態になっていたかは、実際には見ていません。
「伝え聞いた内容しか分かりませんが、教えしてあげましょうか?」
「……是非お願いします」
会場を中心に、天に向かって立ち上り続ける魔力渦を見ながら、静まり返った騎士団員達に声をかけます。
「皆様、わたくしの話を聞いて下さいまし」
「「「おう!」」」
あれだけ静かだった騎士団員達が、急に活気付いたような……?
「あのように魔力が渦を巻いて天を突きました。いよいよ千年祭も佳境です」
「「「おう!」」」
本当に威勢が良いですわね。先程までの静けさは何だったのでしょうか。
「あの魔力渦は、会場にいらっしゃる大司教猊下や枢機個猊下、ロードや司祭の皆様、牧師様、何より各地の信者様の祈りが形となり、あのような渦となって現れています」
「「「おう!」」」
……聞いていらっしゃいますわよね?
「やがて必要なだけ集まった魔力は一点に結集し、再び開こうとする地獄門を…………あの、皆様?」
「「「おう!」」」
「聞いていらっしゃいます?」
「「「おう!」」」
「……あの、副団長様?」
「あー、えーっと……私の口から言うのは憚れますので」
はい?
「そうですね……少し前屈みになって頂けますか?」
「は、はいい?」
「それでお分かり頂けるかと」
前屈み……こうですわね?
「「「ぴぎゃああああ!」」」
ぴ、びぎゃあ?
「聖女様、御身の格好を考えて下さい」
御身の格好と言われましても、久し振りの鎧姿なだけですが。
「団長、そのビキニアーマーは、絶賛女日照り中の団員達には……その……目の毒です」
えっ。
「そ、そうなのですか?」
「「「おう!」」」
……いつもの法衣に着替えてきます……。
「で、結論として、何が起きるのですか?」
「地獄門が再び開こうとしています」
「地獄門……ですか?」
「正直な話、わたくしもそれが何なのかは知りません。ただ、地下へと続く巨大な穴。そう伝わっています」
「……穴が……何か問題あるのでしょうか?」
「穴自体に問題がある訳ではありません。問題なのは、その穴から出てくるものなのです」
「出てくる……もの?」
「地獄門が開くと、そこからは数多くの魔物が溢れ出てくるのです」
「魔物が?」
「はい。しかもわたくし達がよく知っている、ゾンビ程度のものではありません」
「まさか…………伝説級の!?」
「はい。今となりましては書物や伝承でしか伝わっていないような魔物が、溢れんばかりに湧き出してくるのです」
「それは……確かに世の終わりと呼ばれるだけのものですな」
「千年祭による地獄門の再封印には、かなり時間を要します。その間に零れ出てきた魔物を狩るのが、わたくし達フリーダンの役目なのです」
「……皆の者、聞いたか!」
「「「おう!」」」
「まさに世の終わりがそこまで来ている!」
「「「おう!」」」
「それを防ぐ為の千年祭を滞りなく終わらせる為、地獄門から出てきた魔物を全て討つ事が我々の使命!」
「「「おう!」」」
「さあ、進め! 屠れ! 打ち破れ! 正義は我々にある!」
「「「うおおおおおおおっ!」」」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
「開きますわよ!」
「皆の者、団長に続けえええ!」
「「「うおおおおおっ!」」」
え、待って下さい、わたくし馬に乗れませんが!?
「リファリス、乗って!」
「え、きゃ!」
リブラに引き上げられ、馬の背に跨がり……きゃあああああ!
「法衣が! 法衣が捲れ!」
「な、何で法衣を着てるのよ!? 鎧着てたでしょ!?」
「だ、団員達には目の毒だと」
「スカート捲れ上がる方がよっぽど目の毒よ! さっさと着替えてきなさい!」
「は、はい……副団長様、申し訳ありませんが」
「は、はあ……全体、一時的に止まれえええ!」
せっかく上がった士気に水を差してしまい、申し訳ありません……。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……ガパアアア!
いよいよ開き始めました。
「副団長様、騎士団の指揮は」
「はい、お任せ下さい。団長は個人の武を存分に発揮して下さい!」
本来はわたくしが指揮するのですが、流石にズブの素人には無理な話です。ですからわたくしは最前線で戦って士気を高める役割を、団の指揮に関しましては全て副団長様に一任する形となりました。
「皆様、わたくしから離れて下さいまし。でないと……一緒に吹き飛ばされますわよ!」
ブゥン!
モーニングスターを振り回しながら、わたくしが先陣を切ります。
「ちょっと、私に当てないでよ!」
違いました、わたくしとリブラで先陣を切ります。
「リファリス、何か来る!」
「分かってますわ! はあああああ!」
ブウウウウン!
バガガガガガガ!
最速で投げ込んだモーニングスターは、魔物達を一気に薙ぎ倒し…………あら?
「一気に……薙ぎ倒せましたわね?」
「……あれ?」
更に進み、今度はリブラの大剣が振りかざされ。
ザグンザグンザグン!
グギャアアアア!
大型の猿のような魔物が両断され、半分に分かれて倒れます。
「……弱いね」
「弱いですわね」
……これは……一体?
「……これは……」
「リジーの姉御、どうかしたのか?」
「……まさか……ダンジョン?」
ダンジョン?




