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元親分の閑話

 俺はモリー。大盗賊団を率いていた超有名な親分だった。

 ちょっとした経緯で聖女と讃えられるシスターに心酔し、今は弟子として行動を共にしている。

 心酔していると公言できるくらい、シスターは素晴らしい御人なんだが……。


「リファリス、今月の収入は?」

「えーっと……寄付金の銀貨二枚ですね」


 銀貨二枚!? いくら女性ばかりとは言え、大の大人四人がひと月を暮らすのに、たった銀貨二枚かよ!!


「……しばらくはパンと水のみでしょうか……」

「「ええ~……」」


 止めてくれ、そんなビンボー生活!


「……モリー」

「え? あ、はい」

「貧乏ではありません。清貧です」


 言い方だけだろ、それ!



「はあ~あ、やってらんねえ……」


 奉仕の傍らで、わざと治安の悪いスラム街を歩き回る。

 そんなところを修道女が歩いていれば。


「シスター、お恵み下さいよ~」

「どうせだったら、身体でおもてなししてくれよ」


 こういう連中が高確率で引っかかる。


「えいえいっ」

 ビュビュッ

 ドスドスドスッ!

「「「うぎゃあああっ!」」」


 こういう連中は、ナイフ投げの的にしたって全然心が痛まない。


「さーてと……ちぃ、シケた連中だな」


 こういう連中からは、金を奪い取ったってちっとも心が痛まない。


「さ、次だ次」

 ザクザクッ!

「い、いでえ!」

「ち、畜生、何てシスターだ……」

「覚えてやがれ……」


 ま、殺されないだけありがたいと思いな。



 こんな感じでカツアゲ……じゃなくて寄付金を募り、生活費の足しにしているのだ。



「ただいま」


「お帰りなさい。遅かったですわね」


「シスター、また寄付金がたくさん集まったぜ」

 ジャラッ


 金貨一枚に相当する小銭の袋を、シスターの前に置く。


「こ、こんなに沢山!? 一体どこで」

「それは聞かないでくれ。盗賊時代の知り合いには、俺みたいに足を洗った奴も多いんだ」

「つ、つまり、贖罪の為に?」

「そういう連中の中には、こういう形でしか償いができない奴も居るんだ。黙って受け取ってやってくれ」

「…………分かりました。ありがたく使わせて頂きます」


 ……ちょっとばかり胸がチクチクするが、餓死するよりはマシだ。


「過去の罪に苛まれる方々に、主の聖なる光が降り注がんことを」


 シスターのその心が、祈りが、この国……いや、世界には必要なんだよ。それを守る為だったら、俺は泥だろうが何だろうが被ってやる。



 そんな日々は、長くは続かないってのが常ってもんらしい。


 バァン!

「聖女ぉ! 出てきやがれ!」


 ある日の朝方、教会の前にスラム街のゴロツキ連中が集まって、扉を激しく叩き始めた。


「ちぃ、少々やりすぎたか」


 間違い無く俺への報復だ。この町には教会なんて一つしか無いから、修道服を着てる奴が居る場所なんてここくらいだろう。


「迂闊だったぜ……」


 このままだとシスターや姉御達を巻き込んでしまいかねない。


「……仕方無い……か」


 身から出た錆だ。何をされるか分かったもんじゃねえが、ここは大人しく名乗り出て……。



 バァン!

「おぅわ!」


「何かご用ですか?」



 し、しまった! シスターが先に……!


「我が教会に何のご用ですか、と聞いているのですが」


 ま、不味い! 連中を怒らせたら、シスターに何をするか……!


「我が教会の扉をヘコませ、挙げ句の果てに壁にヒビを入れたのは、貴方方ですわね?」


 あ。

 あいつら、死んだわ。


「はあ? こんなボロ教会、俺らが何かしなくても、風吹きゃ潰れるだろ?」

「聖女って言われてる割にはビンボーなもんだな、おい」


 ああ。

 多分、シスターの顔色変わった。


「……何度……」


「んあ? 何だ?」

「怖くて声も出ねえってか、ギャハハハハ!」


「……何度言えば、分かって頂けるのでしょうか……」


「はあ? 何がだよ」


「貧乏では無く……」

 ジャララッ


 あ、今日は杖じゃなくて、モーニングスターか。


「清貧ですわぁぁぁぁぁ!!」

 バガガガガガガカ!

「ぐげぇ!?」「ぎぇあ!?」「ごぶぅ!」


 多分だが、半分くらい吹っ飛んだな。


「な、何を」

「天誅」

 ジャラッ ゴシャア!

「べひぃ」

「ちょ、ちょっと待っ」

「天罰」

 ジャラッ グシャ!

「けひっ」

「ひ、ひぃぃ! 助け」

「滅殺抹殺滅殺抹殺」

 グシャグシャメキャ!

「ぎゃあああああ! お、俺の腕が! 足がああ!」


 うわあ。

 シスター、完全に怒ってるな。


「はい、撲殺」

 グシャメシャグチャアア!


 うわあ。

 真っ赤な花火、確定。



「……つまり、スラム街の荒くれた方々から、金品を巻き上げていたのですね?」

「……はい……」


 事情を全て白状したんだが……俺も五体粉砕されるんだろうか……。


「モリー」

「はい」

「見習いシスターが、強盗紛いな事をするだなんて、以ての外です」

「……はい」

「よって罰として、福音書第一章から三章の書き取りを命じます」

「はい…………はい?」


 書き取り?


「何かご不満でも?」

「い、いや、書き取り、だけ?」

「だけ、とは?」

「てっきり五体粉砕の上、撲殺獄門かと」

「……貴女はわたくしを何だと思ってますの?」


 まんまだけど。


「貴女は私欲ではなく、わたくし達を憂いて行った悪事です。情状酌量の余地は充分にありますから、今回は書き取りです」

「は、はあ……」

「但し今後一切、スラム街への立ち入りは禁じます」

「は、はい」


 流石にお礼参りは御免だからな。


「ただ、シスター」

「何ですの?」

「パンと水だけは、どうにかしてくれ」

「……………………善処しますわ」

明日から新章です。

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