枢機卿猊下に容赦が無い撲殺魔っ
予定以上の信者様を獲得し、遂に千年祭の開催が正式に発表される事となりました。
「長かったわね……」
「長かったと思われ……」
「私達の汗と涙が染み込んだ地で、千年に一度、世界を救う為の儀式が行われる」
「感慨深いと思われ。裏方ではあっても、皆の為に役立てた」
「……壮観よね」
「壮観であ~る」
「……二人とも。千年祭の為に、具体的に、どのような努力をなさったのか、ここで説明して頂けます?」
「「え……」」
「わたくしは今日まで、勧誘と説教会に奔走しましたわ。モリーは今現在、会場の設営の為に走り回ってますわ。で、貴女達は、このような物陰で何の役に立ってますの?」
「ちょ、ちょっと休憩してただけです」
「う、うい、私も」
「でしたら今すぐに会場入口へ。人手がいくらあっても足りないくらい、大量の荷物が届いてますわ」
「「……はい」」
布教と説教をしながら続いた旅は終わりを告げ、いよいよセントリファリス近くに到達しました。ここには広大な聖ルドルフ平原がありますから、大規模な行事を行うにはうってつけの場所です。
「近くには大きな町もありますし、セントリファリスには宿泊施設も充実しています」
「しかも港も近いから、物資の持ち込みにも最適……ってわけか」
やや冷めたお茶を啜りながら、短い休憩中に一息吐きます。
「シスターは今は何を?」
「祭壇を担当しています。前の千年祭に出た事があるのは、わたくしを含めて数名だけですから」
「……本当に長生きね、ハイエルフって……」
感心される程ではありませんわ。
「モリーは何をなさってますの?」
「完全な雑用だな。あちこちとの連絡調整だったり、誰々を呼びに行ったり、足りない何かを買いに行ったり」
本当に小間使いされてますわね。
「ま、一ヶ所に張り付いてるよりは、チョロチョロしてる方が俺らしくてありがたいんだが」
「逆にわたくしは以前の経験が役立つ今のポジションが最適ですわ」
「力が入ってねえぞぉ!」
「そっち引っ張れえ!」
「お、重いいい……! リファリス、へるぷぅぅ……!」
「つ、辛いいい……! リファリス、お助けぇぇ……!」
「……何か聞こえたか?」
「気のせいですわ。おそらくサボっていた事がバレた誰かさんが、大変な仕事をさせられているのですわ」
「はは、多分そうだな」
「こらぁ! 働き詰めの中、休憩なさってる聖女様を巻き込むな!」
「ち、違う! そんなつもりはナッシング」
「ちょっと回復してもらおうと」
「お前ら、休憩してから一時間も経ってねえだろ! 回復もクソもあるか、働けぇ!」
「うひぃぃぃぃ」
「ひえぇぇぇぇ」
枢機卿猊下の逆鱗に触れるような事をなさるからですわ。
「……ふう」
今日の予定も無事に消化し、宿泊施設に戻って大浴場でまったりしています。
「まだ働いてるのか、あの二人」
「ルディを怒らせるからですわ」
ルディの下で働いていたので、サボっていた罰を枢機卿猊下直々に与えられたのです。
「ああ見えてルディは、職務怠慢には非常に厳しいですから」
「意外だよなー。本人が一番サボってそうなのに」
「やるべき事はちゃんとやってからサボるタイプですから、大司教猊下も何も言わないのです」
ガラッ
「呼ばれて飛び出てにゃはははは~♪」
本当に噂をすれば……ですわね。ルディが大浴場に駆け込んできました。
「ルディ、はしたないですわよ。せめて前くらいは隠しなさいな」
「別にいいよ。見られて困るもんじゃ無し」
いえ、元男性のモリーが大変困ってますから。
「んんん? モリっち、まだ慣れないのかな、にゃは♪」
「さ、流石にシスターとか姉御達のには慣れたけど……」
「ムフフ、純情なのね、モリーたん☆」
「純情とか言うな!」
「大丈夫ですわ、モリー。私達に見慣れてるのでしたら、ルディくらいはどうって事なくてよ」
「ルディくらいはって、どういう意味かな?」
「言葉通りですわ」
ザバァ
立ち上がり、ルディに並びます。
「モリー、よく見て下さい」
「いやいや、よく見ていいもんじゃねえだろ」
「いえ、わたくしをですわ」
真っ赤になって顔を背けていたモリーは、横目でわたくしを見てきます。
「見慣れたわたくしと、初めて見るルディ。比較して如何ですか?」
「比較してって…………あ、シスターより小さい。それに括れもシスター程じゃねえな。尻も小さいし、脚も太い」
「つまり、大した事はありませんのよ」
「比較対象がリファっちなら誰でもそうなるよっ!!」
それでもモリーは順応できたようで、こちらをジッと見てきます。
「……枢機卿猊下……」
「別にルディでいいよん、にゃは~」
「ならルディ……実は……俺以下?」
「へ?」
ザバァ
モリーも立ち上がって並びます。
「胸……勝った」
「ひうっ」
「括れも……勝った」
「がふっ」
「尻……圧勝」
「ごふっ」
「脚……完勝」
「ぐふぅ!!」
「つまり、元男の俺に惨敗」
「う……うわああああああああん!」
モ、モリー、引導を渡さなくてもいいのでは?
「グレてやるグレてやるグレてやるぅぅぅ!」
ダダダダダダピシャアン!
「ルディ、せめて服を」
「隣は男湯」
「「「わあああああああああっ!?」」」
「きゃああああああああっ!?」
……ルディ、二三日程度人前に出てきませんでした。
そして、モリーから逃げるようになりました……。
「おらあ、運べ運べえ!」
「い、いつまで……」
「この状態で……?」




