騒がしい神々様っ
「あ、聖女様だ、ありがたや、ありがたや」
「聖女様はいつも神々しくていらっしゃる」
「慈愛の女神様のようだ」
「聖女様ハアハア、聖女様ハアハアぶげびっ」
一人変なのが居ましたのでリジーが黙らせました。
「ずいぶん信者が増えたみたいね」
「この辺りは土着信仰が盛んな地域でしたから、聖心教はあまり普及していませんでしたの」
「土着信仰?」
「この辺りでは主に精霊を神として祀っていましたわ」
「ああ、精霊信仰ね」
精霊信仰は昔から各地に見られる土着信仰で、セントリファリス周辺にも多数存在しています。
「……そう言えば聖心教って、他の宗教にも寛容よね」
「ええ。主は『人が縋るものは一つだけでは無い』と説いていらっしゃいます。福音書第八章七節ですね」
過去には「聖心教こそが唯一無二の聖典なり」とか言って、他の宗教を弾圧していた地域もあったようですが、現在はそのような事は無く平和そのものです。
「リファリス、これだけ信者さん増やしても、まだ千年祭には足りないわけ?」
「そうですわね……足りてるとか足りないとかでは無く、祈りが届くかどうかの問題ですから」
つまり、信者様が多くても、祈りが浅ければあまり意味が無いのです。
「あー、だから布教だけじゃなく、既存の信者さんへの説教も増やしてるのね」
「そういう事ですわ」
大司教猊下やルディも各地を回り、信者様の引き締めを図っていらっしゃるようですし。
「どちらにしても、時間がありませんわ。急ぎますわよっ」
『……聖女ちゃん、頑張ってるわねぇ』
『パルプンテシア様、また地上を見ていらっしゃるのですか?』
『まあね。どうやら大司教め、千年祭を目論んでるみたいだし』
『千年祭を……では、地上はもうそんな時期なのですね』
『みたいねー。千年なんてあっという間だから、実感が無いわー』
コンコン
『パルプンテシア様っ』
『分かってるわよ。天々、開けて』
『はい』
ギギィッ
『はい、どなた様』
『はろはろ~』
『あ、炎の精霊様』
『パルプンテシアは居るわよね?』
『はい、少々お待ちを』
『なあんだ、サラ・マンダじゃないの。入って入って』
『パルプンテシア様っ』
『あはは、相変わらずフランクねえ』
『サラに入室の許可を求める必要は無いわ。入って入って』
『はいはい、失礼します』
『……って、相変わらず露出狂ね』
『うっさい、露出狂言うな』
『はいはい……それといつも一緒の氷の精霊ちゃんは?』
『アイスノーは他の世界に行ってるわ。氷河期が始まったばかりで、気が抜けないからって』
『仕事熱心ねー』
『パルプンテシアが気を抜きすぎなのよ……それよりも』
『千年祭の事?』
『ええ。私の配下から陳情があったわ。最近信者がパルプンテシアに流れ気味だって』
『ごめんなさいねぇ、千年祭が終わったら布教は控えるから』
『別にいいわよ。パルプンテシアは節度を守ってくれるから、宗教戦争なんて事態にはならないだろうし』
『……ウンザリしてる様子だけど、他の世界では?』
『まあね。私達を弾圧する風潮が顕著な世界があってさ、今そこをどうするか話し合い中』
『精霊王は何と?』
『相変わらず静観。ま、あまりにも酷い状態にならない限り、私が手を下す事は無いから、静観で構わないんだけど』
『サラが手を下すって……また世界そのものを焼き尽くすつもり!?』
『私の信者以外は、守るつもりは無いし』
『……もう少し慈悲の心を』
『パルプンテシアとはやり方が違うから』
『……いえ、失言でした。それぞれの手段を尊重しよう、というのが神々協定でしたわね』
『神々協定なんて懐かしいわね~……それより』
『ええ。応急処置の繰り返しのような状態で申し訳ありませんが』
『それは構わないわ。皆が嫌がる不安定な世界を、パルプンテシアがわざわざ担当してくれてるんだから、それくらいの協力は惜しまない』
『……ありがとうございます』
『で、目標の信仰心は集まりそうなの?』
『ええ。今は聖女ちゃんが活発に布教してくれてますから、来週にはノルマは達成できそうです』
『聖女かあ。私んとこにはそういうのは居ないから、羨ましいわ』
『精霊信仰は基本的に組織ではありませんものね』
『あー、でも「炎の聖女」とか、面白いかもしんない』
『ふふ、面白いわよ。私の聖女ちゃんも、何だかんだ言っても可愛いし』
『何て子なの?』
『リファリスちゃんと言っ』
ガァン!
『ちょ、サラ、どうしたの? 急にズッコケて』
『あ、いや、別に。同じ名前の人を知ってるだけ』
『あら、何か因子でもあるのかしら?』
『さあ……顔見せてもらえる?』
『いいわよ』
ブゥン
『……全くの別人だわ。見た目はまるで違うし、第一ここまで巨乳じゃないし』
『サラ、胸の大きさで判別しないの』
『だぁぁってえ! 精霊になってから今まで、全然大きくならないのよ!?』
『精霊が豊胸なんて聞いた事が無いんだけど』
『うっさい! ひんぬーには分からないでしょうよ!』
『ひんぬー言うなぁぁ!』
『あ、しまった。パルプンテシアにひんぬーは禁句だったっけ』
『分かってて言ってるだろがぁ!』
『いえいえ、ひんぬー神だなんて一切』
『まだ言うかあ、露出狂の変態神があ!』
『はあ? ひんぬーが何を偉そうに』
『変態が何言ってんだか』
『『…………』』
ズギャアアン!
『ちょ、お二方!? 天界での争いは禁じられて』
『『うっさい!』』
ドガアアアン!
『んぐふぁ!? な、何故に私が……がくっ』
ゴロゴロ……ピカァ!
「え、晴れてるのに雷?」
「天界で諍いが起きてるのではなくて?」




