秘密結社な撲殺魔っ
とある町の、人通りの少ない裏通り。地元の方々でさえ近寄ろうとはしない、スラム街に近い場所。
そんな治安が良くはない暗闇の最奥に、その建物はありました。
「同志よ、よくぞ集まってくれた」
「意志を同じくする者なれば、呼ばれれば集いて当然」
暗がりに浮かび上がる男達の表情は、能面のように無表情です。
「して、集めた理由は何だ?」
「いよいよ決起の日が決まった」
決起、という言葉を聞いた途端に、驚きや喜びといった感情が個々の顔に表れます。
「遂にか。遂に我々の悲願が成就するのか」
「長かった……本当に長かった……」
「で、期日は?」
中心人物であるらしい男性が、口の端を吊り上げて語ります。
「近く、千年祭が開催される予定だと分かった」
ザワッ
「千年祭が!?」
「まさかっ」
「間違い無い情報だ。その証拠に、聖女があちこちで活発な活動をしているようだ」
あらあら、もうバレてしまったのですね。
(違う違う。炙り出す為に、敢えてあいつらに情報を流したんだ)
……モリー、ご苦労様です。
「で、詳しい段取りは?」
「先ずはこれを見て頂きたい」
バサッ
男性が南大陸の地図を広げ、チェスの駒に似た置物を並べ、詳しい戦略を語り出します。
(へえ……意外と馬鹿にできないわね)
リブラ?
(筋は通ってるし、ちゃんと現実も見据えてる。理想論に走ってない。慎重に進めれば、成功率の高い戦略だわ)
つまり、馬鹿では無いのですね。
「……で、セントリファリスを落とした後、本命のサルバドルへと軍を進める」
「そこで、にっくきルドルフめを討ち取る、と?」
「焦ってはいかん。奴もドッペルゲンガーとか言う奇妙な特殊能力を持っているらしいから、細心の注意を払わねばならん」
(ドッペルゲンガーって、ルーディア枢機卿だよね?)
ええ。
(……そこまで注意しなくちゃならない脅威とは思えないと思われ)
リジー、内緒話にまで「思われ」を付けなくていいんですのよ。
「以上が私が考えた作戦案だ。何か質問は?」
「いや、素晴らしすぎて何も異論が浮かばない」
「完璧だ。これならば、成功したも同然」
「千年祭という大事に紛れての作戦進行、真に見事なり」
周りからの賛辞に、満足げな表情を浮かべる中心人物らしき男性。
「あ、一つだけ。こことここの防衛はどうするのかな?」
「え?」
「動乱に紛れて魔国連合が侵入してきたら、為す術が無いよ、このままじゃ」
「なっ」
「それに連絡方法が穴だらけだな。情報の伝達手段が伝書鳩だけだなんて、あまりにも危険すぎる」
「ななっ」
「せめて早馬くらいは準備すべき。鳩さん気紛れ、たまに居なくなる」
「なななっ」
「何より、わたくしを騙そうだなんて、百万年早いですわ」
「な、何者だ!?」
「何者だと言われましても、わたくしはシスターリファリスでございます」
「シスターリファリス!? 白い法衣に紅い毛先の銀髪の美女……お、お前、聖女か!?」
「本意ではありませんが、聖女の称号を賜っています」
「い、いつの間に!?」
「私が化かした。最初から私達はここに居る」
そうです。リジーの≪化かし騙し≫とかいうスキルで、わたくし達を見えないようにしてもらっていたのです。
「つまり、内緒話は最初から最後まで、筒抜けだったって事さ」
「お、おのれぃ!」
シュインッ
わたくしのすぐ近くに居た方が、持っていた剣を抜き放ちますが。
ガッ!
「ぐぼぁ!?」
ガランガランッ
「はいはい、リファリスに刃は向けさせないよ」
リブラの一撃によって昏倒し、剣を落とします。
「さぁて、観念なさって下さいますわね?」
「く……」
わたくし、リブラ、リジー、モリーに囲まれ、皆様は動けなくなり。
「……事敗れたり」
がくりとうなだれ、崩れ落ちるように椅子に座られました。
「もはや生きている理由も無し。首を刎ねて晒すなり、市中引き回すなり、好きにするが良い」
「あら嫌ですわ。そのような野蛮な真似は致しません」
「……ふん。お優しい聖女様は、血を見るのは苦手なご様子だ」
わたくしを嘲るような言い方をして笑ったのは、最後の意地だったのかもしれません。
「いえ、わたくし、血を見るのは大好きでしてよ」
「……は?」
「あーあ、リファリス煽ってどうすんのよ」
「血祭り確定」
「しかも赤い打ち上げ花火か…………俺は遠慮するが」
そう言ってリブラ達はさっさと退散していきました。
「……さて、まずは首領である貴方様から、でしょうか」
胸の谷間から聖女の杖を取り出します。
「な、何をする気だ!?」
「何をするって、聖女の杖は」
ブゥン! ゴシャア!
「こうするものですわ」
メキメキメキ……ズズゥン!
壁一枚殴り倒しましたら、皆様の顔色が一気に変わりました。
「ま、待て! ちょっと待ってくれ!」
「あ、謝る! 謝るから!」
「どうか慈悲を!」
慈悲、ですって?
「わたくしだけではなく、セントリファリスの罪無き住民に手を出そうとしていた貴方達に、慈悲?」
杖を振り上げ。
「ちゃんちゃら可笑しいですわ!」
バガバガバガバガバガバガバガバガバガ!
「ぎゃあ」「ぐえっ」「げへっ」「ごぶぁ」
「あっはははははははははははははは! さっきまでの威勢はどこにいかれたんですの!? 他愛ない、他愛ないですわ! あはははははははははははは!!」
半日後、新たに熱心な方々が入信して下さいました。ますます信者数が増えて、しかも治安維持に貢献できて、まさに一石二鳥ですわ。
どうやって入信させたの?




