湯煙撲殺魔っ
「い、嫌ですわよ!? もう水着の説教会は御免被りますわ!」
そんなものが常態化されては、聖女の名に泥を塗る事になりますわ!
「一番間違い無いんだが……」
「確かに。信者さん、前のめりだもんねぇ……主に男性が」
「その代わり、女性信者が激減と思われ」
その通りなのです。男性比率ばかりが伸び、女性信者様は減る一方なのです。
「そりゃそうよね。自分よりスタイルが良いシスターが水着姿で説教してるような会、私でも行きたくないもん」
でしょうね。わたくしも同意見です。
「だったら別の説教スタイルを考えないとな」
説教スタイルて。
「男相手には水着のリファリス、女相手にはイケメン牧師、とか?」
リブラの提案に、速攻で異論が出ます。
「そのイケメン牧師に、心当たりがあるのかよ」
「う…………リ、リファリス?」
「ある訳が無いでしょう」
わたくしにも突き放されて、リブラはあっという間に撃沈しました。
「ならば、幻覚を見せるというのは?」
次はリジーの提案ですが……幻覚?
「幻覚をどのように?」
「私はキツネの獣人。だから化かしたりするのは得意」
「……毎回化かしてくれるんですの?」
「女性のみ、リファリスをイケメン牧師に見せられる」
それは……効果的かもしれません。
「ですが、毎回お願いする事になりますのよ?」
「構わぬ構わぬ。ドーンと来なさい」
「で、お礼に呪具もドーンと来なさいっての?」
「リブラ言うなリブラ言っちゃ駄目」
……成る程。
「見返りはちゃんと頂く、という事ですのね?」
「うん、まあ……それなりに強力な呪具なら」
「分かりました。でしたらわたくし秘蔵の呪具で良ければ」
「やたっ」
「え、リファリス秘蔵って、まさか」
「はい……〝世界の終わりを見る珠玉〟を」
「駄目駄目駄目駄目!」
「いらないいらないいらない!」
「シスター……ちょっと冗談にしても、質が悪いぜ」
あら、失礼しました。
「でしたら……〝永久安息椅子〟は」
「駄目駄目駄目駄目!」
「いらないいらないいらない!」
「だからシスター……」
これも駄目ですの?
「でしたら、もう少しだけソフトな呪具を」
「ハード過ぎるって、珠玉と椅子は!」
「でしたら……〝淫土生奥・修の行〟」
「違う意味で駄目だって!」
「いやあああ破廉恥破廉恥破廉恥!」
「……リジーを【いかがわしいですわ】にするつもりか……」
さ、流石にこれは不味いですね。
「つーか、シスターよ。今言った呪具、現存してんのか?」
「あ、はい。わたくしの教会の地下に封印」
「わああああ聞きたくなかったああああ!」
モリーが頭を掻きむしり、リブラは死んだ目で遠くを見てしまい、リジーは悶え苦しんでいます。
「リ、リファリス、もしかして〝八つの絶望〟を全部!?」
「いえ、珠玉と椅子と……」
「よ、良かった、二つだけか」
「剣と鞭と右靴だけですわ」
「五つ集めてんじゃねえかああああ!」
「な、なら、あとは左靴と冠だけ?」
「左靴は魔王城に、冠は聖地サルバドルに」
「うっわ知りたくなかったああああ!」
三人とも阿鼻叫喚といった様子ですが……どうしたのでしょうか?
「皆、忘れたか?」
「忘れた忘れた」
「〝八つの絶望〟なんて知らないいらない見たくない……」
「あ、あの?」
「あー、シスター、今の話は無かった事に」
「あ、はい。分かりました」
わたくし、何かイケナイ事を言いましたかしら?
「で、だ。説教会に女を呼ぶ方法だがな」
「あ、はい」
「性的な魅力に訴えるじゃなく、もっと違う何かで呼べないかな?」
性的な魅力言わないで下さいっ。
「つまりだ、女が好きなもので釣るんだ」
女性が好きなもの……。
「甘いもの、とか?」
リブラの提案に、モリーは首を左右に振ります。
「好みが分かれるし、何より毎回甘いものを沢山準備してたら、貧乏なシスターは破産まっしぐらおぎょほぅ!?」
貧乏では無く清貧ですわ!
「なら、呪具を使って」
「却下」
「呪いを解いてほしければ、説教会に来いと」
「却下却下却下!」
「リジー、そんなに呪具が好きでしたら、珠玉と椅子を見学」
「いやああああ!」
「シスター、それはもう禁句だ!」
そうですか、残念です。
「そこまで言うなら、モリーには何か案があるの?」
「あるにはあるが……」
「え?」
「だがなぁ……かなり性的なアプローチになるぜ?」
性的なアプローチって……!
「あ、貴女はわたくしに何をさせるつもりですの!?」
「何をさせるって、風呂に入ってもらうだけなんだが」
……………はい?
「このように、主は申されて」
「「「はあ~あ♪」」」
「あの……聞いてます?」
「「「聞いてまーす……はあ~あ♪」」」
聞いてませんわよね。
「どうよ、裸での付き合い。温泉説教会だ!」
「良い。良いわ~」
「たまには良いと思われ~」
わたくし一人タオルで巻いて立ち、皆様は湯船で温泉を堪能なさる。それがモリーが提案した案でした。
「あの……モリー?」
「はあ~あ♪ 何ぃ?」
「その……わたくしも」
「何ーぃ?」
「わたくしも……入りたいのですが」
「えーっ?」
ですからっ。
「わたくしも、入りたいのですっ!」
ブルンッ パラ……
バスタオルが落ちましたが、気にせずに……。
「「「うぐはああっ!?」」」
ズドドドドドッ!
「……え?」
どうやら、団体で殿方が覗かれていたようで…………撲殺案件ですね。




