説得上手な撲殺魔っ
「「「では、よろしくお願いします」」」
警備隊の皆様が、一斉に頭を下げられます
「お任せ下さい。正しき神の教えの元に回帰させる為、全力を尽くしますわ」
近くの山を拠点としていた盗賊を捕らえ、一晩かけて調教……いえ、調伏……いえ、説得致します。
「な、何だってんだい!」
ここは警備隊の詰所の地下牢。どれだけ叫ぼうが、外に聞こえる事はありません。
「皆様、初めまして……ですわね」
「ああん!? ……って、ヒュー! 超美人じゃねえか!」
「俺達のアジトに殴り込んできたシスター達も美人だったが、あんたはその上を行くな」
捕まえてきてくれたのはリブラ達です。今回は諸用でわたくしは参加していませんでした。
「貴方方は数々の悪事を働いたが故に、縛られて牢に居ます。それはお分かりですわね?」
「俺達、生きる為に盗賊してただけでーす。俺達には生きる権利は無いんですかー?」
「それともシスターが俺達に金や食い物を恵んでくれるんすかー?」
「いえ、わたくしから恵めるのは、これですわね」
一番上のボタンを外し、胸の谷間を露わにし。
「フウウウ! もしかして、裸で教えを説いてくれたり?」
「ベッドでの作法を教えてくれちゃったり?」
盗賊達が囃し立てるのを無視し、胸の谷間に手を突っ込み。
「……な、こ、棍棒?」
「違いますわ、聖女の杖です」
「え、ちょっと待て、聖女って」
「先ずは貴方からですが」
盗賊のお一人の前に立ち、杖を振り上げます。
「今までの悪行、悔い改めますか?」
「は? な、何で急にそうなるんだよ?」
「悔い改めますか?」
「だから、意味が分かんねーって」
「はい、手始めに天誅」
ボガァ!
「ぎゃはあ!?」
「な、何しやがるんだ!」
「お前、シスターじゃないのかよ!」
周りの野次はスルーします。
「あ、が、が……」
「もう一度聞きます。悔い改めますか?」
「ぐぁ、が、い、いでえ」
「はぁぁ……答えませんので、天罰」
ゴギャ!
「ぐべぇ!?」
「おい、止めろ!」
「仲間に何しやがる!」
「貴方方もすぐに順番が回ってきますから、大人しく待っていて下さいね……うふふふ」
再び杖を振り上げて向かい合います。頭の形が変わってきましたので、問答するどころでは無いかもしれませんが。
「悔い改めますか?」
「ぐ、ぐぶべっ」
やはり、もう会話は成り立ちませんわね。
「でしたら、思い切って死なせてあげた方が良いですわね…………うふふ、ふふふふ、あは、あははははははははは!!」
「ま、待っで」
「滅殺!」
グチャア!
「がぼぁ!?」
「抹殺!」
メキャア!
「撲殺!」
バシャアン!
……ドサッ
「あはははははははは! 久し振り、久し振りの血の雨ですわあ! 汚らしくて穢らわしい、真っ赤な真っ赤な花火が花開きましたわああ!」
「な、何なんだ、何なんだよコイツは!?」
「お、おい、あの顔……」
ロウソクの光が背後から照らし、顔を真っ黒に染め上げます。
「黒い顔に浮かび上がる、三つの紅い月……や、やっぱりこの女は〝紅月〟だあ!」
「紅月って……聖地周辺に現れるっていう、連続撲殺魔だろ!? 何でこんなとこに……」
「さぁて、次はどなたがわたくしの杖をご所望かしらぁぁ? あは、あははは、あっはははははははははははは!」
「悔い改めますか?」
「い、命だけは」
「天誅天罰滅殺抹殺撲殺!」
バガガガガガ! グシャア!
「ぐぶべ!?」
頭が半分くらいの大きさになったところで。
「『穢れし魂よ、肉体に戻れ』」
パアアア……
「……うぐ、げふ! い、いてえ、いてえよお!」
「痛いでしょうね。苦痛を感じるように、ゆっくりと治っているのですから」
無論、瞬時に復活させる事もできますが、それでは苦しみや痛みを感じる事はありません。
「己が罪を悔いて反省し、心を清める為の苦行ですわ」
「いだいいだいいだいいい…………ふ、ふはあ、はあ、はあ、はあ……」
完全に治りましたわね。では、もう一度。
「悔い改めますか?」
「は、はい! 悔い改めます! これからは真面目に働いて食っていきます! ですから、もう殴らないで下さい!」
……まだ足りないようですわね。
「天誅」
メキャア!
「ぎゃああ!」
「はい、悔い改めますか?」
「く、悔い改めますから、こ、これ以上はあ!」
……まだ足りないみたいです。
「天罰」
ボキャア!
「げぴぃ!」
「はい、悔い改めますか?」
「ぐ、ぐひぃ……おれのあたま、かちわられて……ぐひ、ぐひひひ」
駄目ですわね。
「滅殺! 抹殺! 撲殺!」
グシャグシャパシャン!
シュウウゥゥ……バタッ
「ふふ、血の噴水もなかなかですわね」
しばらく死んで苦しみなさい。
「では、次」
「悔い改めます!」
「俺もです! 反省しました!」
「俺も充分に反省しました!」
「……貴方方は……」
全く反省の色が見られません。
「全員、骨の髄まで殴り続けて差し上げますわ……順番にね」
「そんなあ!」
「助けてくれえ!」
「おかあちゃああん!」
三日三晩、盗賊達の叫び声が地下牢に響き続けました。
「さて、最終確認です。悔い改めますか?」
「はい。己の罪を痛感しました」
「これからは主の教えを胸に、弱きを助けて生活します」
「もう他人様から物を奪ったりしません」
……はい、もう大丈夫ですわね。
「後は警備隊の方にお任せしますわ」
「は、はい!」
「と、盗賊の様子が……?」
これにて調教……ではなく調伏……ではなく説得終了ですわ。
説得上手です。




