続・布教する撲殺魔っ
「この世界には不条理が数多くあります。ですが、それも主の試練であり……」
「……ふわぁ……」
「……飽きた……」
「お母さーん、そろそろ帰ろーよー」
『……聖女ちゃん、何て良い子なんでしょう……』
『パルプンテシア様、また地上を見ているのですか?』
『あら、天々。どうかしたの?』
『実は見て頂きたいものがありまして』
『え? ま、まさか、天々の彼氏?』
『違います! 二十年以上前に別れてから、ずっとシングルです!』
『あら、そうだったかしら。ごめんあそばせ、オホホホホ』
『……絶対に分かって言ってるくせに、この万年シンカミが』
『んー? 何か言ったー?』
『いえ』
『……まあいいけど……で? 見てもらいたいものってのは?』
『あ、こちらをご覧下さい』
『はいはい。「視覚共有」』
「は【見せられないよっ】!!」
「リファリス! は【見せられないよっ】ん!」
「リブラァ、は【見せられないよっ】ん!」
『っ!!!?』
『すいません、時間帯を誤りました。もう一度お願いします』
『あ、あの二人、ナニをしてんのよ!?』
「……はぁ」
ぴちょん
「……疲れましたわ」
張り切って布教を続けて一週間。最初の頃は手応えもあったのですが、今は立ち止まる方すら少なくなりました。
「……わたくしの言葉は、届いているのでしょうか? それとも……」
「あ、居た居た。まだ沐浴してたの?」
リブラがタオルを持って立っていました。
「いくら修行の一環だからって、日が沈んでから川の水に浸かってたら、風邪ひいちゃうわよ」
「……そう……ですわね」
悩んでいても仕方ない……分かってはいるのですが……。
「……リファリス、言葉が全て伝わらないって、普通にある事じゃない?」
ちゃぷんっ
「分かっていますわ、そんな事は。こう見えて、リブラの何倍も生きてますのよ」
「……どんだけお婆ちゃんかは分かんないけど、でもリファリス、落ち込んでるよね?」
……それは……。
「生きていれば、どれだけ経験を積もうと、こういう葛藤からは逃れられないものです」
「葛藤?」
「あの言葉選びで良かったのか、全体的に長かったのではないか、ちゃんと笑顔でいられたか……」
「あー……今日の説教ね。あんまり人居なかったからか」
そうですわ。
「そんなの、悩んだってどうしようもならないんじゃない?」
「悩み、考え、正し、試す。説教なんてそれの繰り返しで磨かれていくもの。でも、いつまで経っても大司教猊下に追いつける気がしなくて……」
「大司教猊下と比べてたの!?」
猊下の説教は誰が聞いても涙ぐむ、とまで讃えられています。
「そりゃあ……目指す対象が偉大すぎるんじゃない?」
「分かってはいますが、目標は高い方が研鑽を積む気になりますでしょ?」
「それはまあ、そうなんだろうけど……高みを目指す武術家みたい」
武術家、ですか。似たようなものかもしれませんわね。
『……普通に会話してるだけじゃない。それがどうしたってのよ』
『ここからしばらくは会話が続きます。問題はその後です……そこまで飛ばします』
『……何だってのよ……』
ギィン!
「くっ!」
ギャリリッ
や、やっぱり強いですわ……!
「はああ!」
シュシュシュシュ!
キィン! ギィン! ガギィン!
「くうう!」
「隙あり!」
ザシュ!
ぐふぅ!
「……『癒せ』」
パアアア……
あまりの速さに〝無痛剣奏〟が間に合いませんでしたわ……。
「リブラ、本気で行きますわよ」
「ふふ、そうこなくっちゃ!」
ガギィン! ギン! ギィン!
ギャギ!
「隙ありですわ。天誅!」
ブォン!
「ちぃぃ!」
スルッ
避けられた!?
「リファリス、前にも言ったけど、撲殺しようとする時に大振りになるの、悪い癖だよね」
……そうでしたわね。
「……『土槌』」
ドズゥン!
「はひゃああああああああ!?」
魔術で盛り上がった土の槍が、リブラに命中しました。
「貴女も相手にダメ出ししている際の隙、相変わらずですわね」
「んぐっふぅぅ! のおおおおっ!」
「……そんなに痛かったんですの?」
「あ、当たり前……! お、女だって、股間は痛いわよ……うぐぅぅ!」
あら、失礼しました。
『……何が問題なの?』
『争っているではありませんか!』
『争ってるんじゃなくて、単なる手合わせではなくて?』
『手合わせ……ですか?』
『少し前に武術家云々って会話があったでしょ? そこから話が逸れて、手合わせに発展したんでしょうよ』
『そ、そうなのですか?』
『ほら、見てみなさいよ』
「今回はわたくしの勝ちですわね」
「ま、魔術は卑怯よ! ノーカン!」
「うふふ、はいはい」
股間を押さえてのた打ち回るリブラ。とても滑稽でしたから、今回はノーカンで宜しくてよ。
「……何をニヤニヤしてんのよ」
「別に、何でもありませんわ」
「どうせ私が痛がってるのを、思い出し笑いしてたんでしょ」
あら、バレバレでしょうか。
「……リファリス、ムカつく」
スルッ
「え、リブラ? 何故服を」
チャプン バシャバシャ
「リファリス、鳴かせる」
「えっ」
「絶対に鳴かせる」
「えっえっ」
きゅっ
「はあああああああああああんっ!」
『……で、冒頭のアレなのね……結局何が大事件だったのよ?』
『争ったではありませんか、やっぱり!』
『こういうのはね、痴話喧嘩って言うのよ』
パルプンテシア様、ちょっと不安。




