布教する撲殺魔っ
「皆様、主の教えに耳を傾けて下さい」
「主を信じましょう」
「えーっと、主に交われば信者になる」
「主、主、主でございます。皆様の主でございます。どうか我らが主をよろしくお願いします」
『な……何なのですか、あのやる気の欠片も無い布教は!?』
『パルプンテシア様、どうか落ち着いて下さい!』
『これが落ち着いて見てられますか! 何なのあれ!? 主を連呼してればいいって訳じゃないのよ!』
『その通りとは思いますが、まずは落ち着いて下さい! パルプンテシア様がお怒りになって暴れてしまえば、地上に被害が出かねません!』
『く……わ、分かったわよ』
『流石はパルプンテシア様。その寛大な御心さえあれば、地上で貴女様を讃え尊ぶ者達は更に増えていく事でしょう』
『そうだといいんだけど!』
『パルプンテシア様、地が出てますよ』
『別にいいじゃない、誰か見てる訳じゃないんだし』
『はぁぁ……何故にこうもおっぴろげなのか、我が主は』
『何よ、天使A。言いたい事があるなら、はっきりと言いなさいよ』
『パルプンテシア様、その天使Aという言い方は止めて下さい』
『はいはい、なら天々で良いわね』
『パンダですか!?』
『異論は認めない。はい、天々で決定!』
『て、天々……』
『さーてと、それよりも……あの二人は許せないわね』
『え、パルプンテシア様?』
『よし、ちょこっと罰ね』
「偉大なる主の教えに耳を傾けて……」
「主ぽ主ぽ主ぽ主ぽ♪ 主ぽ主ぽ主っぽっぽ♪」
「リジー! 真面目にやりなさい!」
ブゥゥゥ……ン
ん? 上空に魔力の揺らぎが?
ウウウウン……パッ
ヒュ~~……ベェン!
「ぐげっ」
た、たらい? 上空からたらい!?
「あいたたたた……な、何故たらいが?」
わたくしが聞きたいですわ!
「……リファリス?」
「違いますわ。と言うより、わたくしはわたくしで、これを準備中でしたもの」
モーニングスターを見たリジーは、だらだらと脂汗を流しています。
「よ、良かった……たらいで本当に良かった…………呪いの神よ、感謝致し候」
『呪いの神に票が入るってどういう事よ!?』
『落ち着いて下さい、パルプンテシア様!』
『何で!? 何であんな害しかない神様に、信者ができるのよ!』
『ですから落ち着いて下さい、パルプンテシア様! 貴女様の信者数と比べたら、恐竜とアリくらいの差があるでしょう!!』
『う……ま、まあ、確かに呪いの神なんて、マイナー中のマイナーだし』
『でしたら、パルプンテシア様の寛大な御心により、許してあげましょう』
『く……わ、分かったわ。今回は見逃してあげるわよ』
『はい、それでこそパルプンテシア様。天界を統べるに相応しい御方』
『ふ、ふふん、分かってるじゃないの、天々』
『ですから、天々はちょっと……』
『だけど、あの男女も不敬だったわね。あいつにも天罰よ!』
ブゥゥゥ……ン
あら? また上空に魔力の揺らぎが……。
ウウウウン……パッ
ヒュ~~……ガランガランッ
「あ、危ない危ない。何でたらいが?」
わ、わたくしにもサッパリ……。
『きぃ! 避けるんじゃないわよ!』
『元盗賊らしいですから、すばしっこいのでしょう』
『~っ……こ、こうなったら、下手な鉄砲作戦なんだから!』
ブブブブゥゥゥン……
「ふ、複数の揺らぎが」
「またたらいか? 何なんだ、一体」
「で、ですが、今回は数が」
パッ パパパパパパパッ
「え゛っ」
ヒュ~~……ぐわらんぐわらん!
「ちょ、多すぎるぞ、この数!」
ぐわらんぐわらんぐわんぐわんぐわん!
「……空からたらいが降ってくるのって、主の奇跡なの?」
「……聞いた事がありませんわね……あ、ただ」
「ただ?」
「古い記録には、主を穢した罪人にたらいが降ってきた……というものが幾つかありました」
「過去にもあるの!?」
ぐわらんぐわらんぐわらん!
「ちょ、避けきれないって!」
ベェン!
「あだっ」
ベェン! グワン! バァァン!
「いだ! あだだだ!」
スコォォォン!
「いってえええ! 今のボウルだろ! たらいじゃなかったぞ!」
『あら、たらいよりボウルをお望みなのね。だったら、ボウルスペシャル!』
スコンスコンスコォォォン!
「痛い痛い痛い痛い! ボウルはマジ勘弁……いったああああい!」
「…………」
「どうかしましたか、リブラ」
「リ、リファリス……このたらいやらボウルやら、全部オリハルコンだぜ」
はい!?
「ま、まさか、天上でしか採れないとまで言われる、幻の金属が!?」
「あ、うん、間違い無いと思う。私の大剣と同じ素材感だから」
「……何気に貴女の武器もオリハルコンだったのですね」
ココココココォン!
「うっぎゃあああ! 更に小さいの! 小さいボウルが集中的にぃぃ!」
『あっはっは、天罰覿面効果抜群…………あ!?』
『パルプンテシア様?』
『せ、聖力が……尽きた』
バッタアアン!
『パルプンテシア様!? パルプンテシア様あああ!!』
「凄い……オリハルコンがこんなに!」
「まさに主の奇跡ですな!」
「大丈夫、モリー?」
「痛い! さ、触らないでくれ!」
たんこぶだらけのモリーに回復魔術をかけながら、わたくしは主に思いを馳せました。
「主よ……ここは作物が育ち難く、貧しい者が多い地です。これはその者達への施しなのですね……」
「わ、私達にですか!?」
「はい。これも主の御意向なのでしょう。貴方方でご自由になさって下さい」
「こ、こんな高価なものを……主よ、ありがとうございます!」
「聖女様バンザーイ!」
「聖心教バンザーイ!」
後に、大量のオリハルコンが降り注いだこの地は、聖地として崇められる事になりました。ああ、主の何と偉大なる事か……!




