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不穏な気配の撲殺魔っ

千年祭編、開始です。

「え? マリーナ号は出せない?」

「うむ、出せん」


 明日から帰国の途に着く筈だったわたくし達は、新しち陛下の一言で急に暗礁に乗り上げる事になりました。


「な、何故ですの!?」

「聖女殿も見ていて分かっただろうが、マリーナ号は大きすぎる」


 は、はい、確かに大きく造られてますわね。


「結果として、動かすだけで莫大な金が必要となる。普通の商船の二三倍は軽く」


 はいい!?


「聖女殿には申し訳無いが、皆をお送りする為だけに、その莫大な税金を注ぎ込む余裕が無いのだ」


 ……え?


「市長陛下、わざわざマリーナ号で送ってもらうつもりは毛頭ございません。ですが、マリーナ市国は財政は健全ではありませんでしたか?」

「前市長までで信じられないくらいの出費を重ね、潤沢だった筈の貯蓄はもう底を着いている。もっと言ってしまえば、今年は大赤字だ」


 赤字!?


「はっきり言ってしまえば、破綻しかねない」


 はいい!?


「もっと早く市長に返り咲くべきだった。あの愚か者共、私腹を肥やすどころか、国を食い潰すつもりだったのだ」


 頭を抱え込む新市長陛下。


「……分かりました。そのような状況であるならば、わたくし達から送迎のお願いをする訳には参りません」

「恥を晒してしまい、申し訳無い。今回の諸費用は大司教猊下に寄付という形で決済しているので、旅費はそこから捻出してもらえないだろうか」


 寄付……ですか。それでしたら確かに、余分な経費はかからずに済みますものね。


「分かりましたわ。帰国の諸費用は大司教猊下と話し合ってみます」

「重ね重ね申し訳無い。財政が安定したら、必ず聖女殿の苦労には報わせてもらう」


 わたくし、何も苦労なんてしてませんわよ。


「それ以上に苦労なさるのは、新市長陛下ですわ」


 財政の立て直し、歴代市長の罪の追及、難題は山積みでしょう。


「……そうだ。そうなのだ……これから絶え間ない苦労をせねばならんのだ……」


 豊かな胸を揺らして、大きく大きくため息を吐かれます。


「……まさか公務中、ずっと水着着用が義務化されるなんて……」


 …………それは同情しかできませんわ。


「前市長の派閥の者を抱き込むには、仕方が無かったのだ!」


 そのような取引材料を持ち出す事自体、国の内部の腐敗を物語っている気がしてなりませんが……。


「聖女殿、感謝はするが、恨みますぞ」

「……はい?」

「聖女殿の説教会が原因なのだから!」


 う……も、申し訳ありません。


「ですが、感謝と言うのは?」

「対立派閥を抱き込む手が、政治的駆け引きにならずに済んだ事だ」


 ああ、確かに。水着着用で困るのは市長陛下だけですものね。



「話は聞いている。聖女はどのようにして帰るか?」

「はい?」


 どのようにって……船に乗るのでは?


「聖女の事だから、各地で説教会をしながら、ゆっくりとセントリファリスに戻るのかと思っていたが」


 各地で説教会……ですか。


「してみたい気持ちが無い訳ではありませんが、教会の事を考えますと……」

「……教会を預かっているのは……誇り高きアレ、か?」

「はい。『誇り』では無く『埃』ですが」


 また教会中を掃除しなくてはならないかと思うと、気が気ではありません。


「ふむ…………それならば心配無用」

「は?」

「ルーディアも現在は枢機卿。誇り高きアレと同じ立場であるから、教会の管理を交代させよう」

「はい?」

「つまり、教会の掃除は我が半身にやらせておけ、という事だ」


 ル、ルディにですの?


「ですが、ルディはあの方とは……」

「反論はさせぬ。枢機卿同士、仲違いも程々にしてもらわねばな」


 確かに、ルディとあの方は色々とあるようですが。


「どちらにしても、この件に関しては聖女が気にすべき事では無い」


「…………分かりました。でしたら、ルディの事と教会の事はお任せします」


「うむ。ならば説教会の件は頼めるな」


 ……?


「大司教猊下、何故にそこまで説教会を望まれるのです?」


「布教もまた、聖職にある者にとって重要な仕事ではないか?」


「それは否定しません。わたくしが知りたいのは、何故この時期に、という事です」


 問われた大司教猊下は、しばらく考え込まれてから。


「…………聖女ならば話しても良いか…………」


 と呟かれました。


「わたくしには話しても良い、とは?」


「聖女よ、これから話す件については他言無用だ」


「……はい、分かりました」


「実は……年内にある大祭を予定している」


 大祭?


「主の生誕祭ですの? それは四年周期では」


「いや、違う。もっと重要な行事だ」


 生誕祭以上の? そんなものは、あと一つしか…………ま、まさか!


「千年祭、ですの?」


「そうだ。枢機卿達とも話し合ったのだが、今年がその年に当たる事は間違い無い」


「そ、そんな、そこまでの」


「彗星があったとしても、あまりにも凶事が多すぎるのだ、今年は」


 確かに、彗星は赤かったですが。


「そう考えると、ヤツの胎動を疑わざるを得ない」


「…………」


「であるから、千年祭の開催を決定した」


「……つまり、行う事はもう間違い無い、と?」


「そうだ」


 ……ならば、わたくしも尽力するだけです。


「分かりましたわ。各地で説教会を開き、信者の皆様の祈りを結集します」

「……済まぬ。苦労をかける事になるが」


 仕方ありませんわ。千年祭が行われるという事は……。




 世界の終わりと隣り合わせなのですから。 


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