首だけ令嬢の呪われ閑話
「たく、リジーはいつまで寝てんのよ」
もうすぐ奉仕の時間だってのに、まだ起きてこない。
「リファリスもカンカンなんだから」
部屋の前に着いてから、深呼吸で一旦身体を落ち着かせる。
「何てったってリジーの部屋。どんな呪いが待ち受けているやら」
二度三度、新鮮な空気を肺の中に送り込み、身体中に魔力を行き渡らせる。
「……『身体強化』」
ビキビキ!
骨も、筋肉も、一時的に強化する。リファリスが教えてくれた魔術の中でも、私に一番相性抜群だったのが、この強化系魔術だ。
「さあ、行くわよ!」
パシィン!
両頬を叩いて気合いを入れてから、ドアノブを捻った。
ギイイ……
「……真っ暗だけど……『視力強化』」
キィィィン!
強化魔術で目を強化し、一気に暗闇に対応する。
「……意外と……普通の部屋ね」
私の部屋と基本的に構造は同じ。多少なり生活感があるくらいで、目立って汚れている事も無い。
「何だ、拍子抜けするくらいに普通ね」
呪剣士だからって、リジーが女の子である事には変わりない。可愛らしい面はあるだろう。
「普通にベッドで寝てるわ」
独特のシーツの膨らみ。間違い無く人が寝ている。
「リジー、起きなさい!」
バサァ!
布団を剥ぐと、そこには。
「ううん……」
やっぱりリジーが居た「……呪具庫へご案内~」
バカンッ
っ!?
「っ!? ひゃああああああああ!!」
足元に床の感触が無くなった途端、重力に引っ張られて地下へと落ちる事になった。
ひゅぅぅぅ……ズダァン!
「イタタタ……どうにか受け身は取れたわ」
かなりの深さだ。そのまま落ちていたら、両足ともボッキボキだった。
「教会の地下に勝手に穴を掘るなんて、見つかったらリファリスに怒られるわよ」
横に伸びる穴を進むと広い空間が広がっていて、その真ん中には「如何にも呪われてます」と言わんばかりの全身甲冑が。
「……これ、リジーがたまに着てるヤツ……」
……ブゥン
『誰かな~、せっかく寝てたのに起こすお馬鹿ちゃんは』
へ?
「よ、鎧が喋った!?」
『初めて会った鎧に対する失礼な発言、いきなり指を差す無礼。鎧権侵害で訴えちゃうぞ』
鎧権侵害って……ああ、人権侵害みたいな事か。
「え、ええっと、失礼しました。どうかお許し下さい」
『ふぅん、主と違って礼儀正しいわね。ま、今回は許してあげましょう』
……鎧が上から目線かよ……。
「て言うか、主?」
『呪剣士のリジーが、私の主だけど』
ああ、成る程。
「つまり、リジーのコレクションの一つ?」
『コレクション呼ばわりしないで!』
『ソウダソウダ! ワレニモケンケンガアル!』
『タテケンモアルゾ!』
剣権に盾権ね、はいはい。
「えーっと、ここは呪具さん達の保管……じゃなくて控え室なのかしら?」
『そうよ。主は毎晩ここに降りてきて、私達を磨いたり愛でたりしてるの』
『ワレハキノウミガイテモラッタ』
『オレサマハチューシテモラッタ』
『あたしは一緒に寝たわよ』
『ナッ!? イッショニネタダト!?』
『んっふっふ、女の子同士だから、当然よね~』
『シンザンモノノクセニナマイキナ!』
あ、敢えて突っ込まないけど、呪具に性別があるの!?
「……いつの間にこんなに集めたのよ……」
『主が聖女の魔の手から救ってくれたのよ』
聖女なのに魔の手なんだ。
『ニンゲンハオカシイ。ナゼアノモノヲ、セイジョヨバワリスルノカ』
『聖女って言うより、魔女よね』
浄化される側からすれば、リファリスなんて死刑執行人にしか見えないか。
『ソレニヒキカエ、ワレラガアルジハ……』
『ナントイウコウゴウシサ……アルジコソガセイジョデハナイカ』
呪具からすればそうなるのね。
「そ、それよりさ、上に戻りたいんだけど」
『上に? 貴女が?』
「ええ。起こしに来たら、寝ぼけたリジーにここに落とされちゃって」
『……良かった……落ちてきたのが聖女じゃなくて、本当に良かった……』
リファリスも落とされた経験ありか。その時は呪具達にとっては、魔王降臨みたいな状態だったでしょうね。
『一応聞くけど、貴女は人間?』
「私? デュラハーンよ」
首を取って見せると、鎧は大きくため息を吐いた。
『何だ。アンデッド相手に呪いなんて無意味じゃない』
『コンカイハハズレカ、ツマラン』
「今回は外れって……?」
『偶に主が、生きた人間を差し入れてくれるの』
『リファリスノシヨウゴ、トアルジハイッテイタガ』
リファリスの使用後って……要は撲殺後の凶悪犯じゃん!
「どうしようもない極悪人の末路は、呪具の餌食だったのね……」
『餌食? 別に捕って食ったりしないわよ』
『タダノロウダケダ』
『シナセタリハセン、シナセタリハ』
リファリスに殴られまくったあげく、呪具にいたぶり尽くされる……間違い無く廃人だわね。
階段を教えてもらい、部屋に戻る。
「リジー、起きなさい。朝よ」
「う~ん、ムニャムニャ……」
「……汝にも聖なる光が降り注がん事を」
「ひぃええええええええ!!!! あ、あれ、リブラ?」
……あんたねえ……信仰してる宗教の一節で目が覚めるって、それってどうなのよ。
「リファリスがカンカンよ。さっさと起きなさい」
「はーい」
明日から新章です。




