後始末と撲殺魔っ
「聖女様バンザーイ! 新市長様バンザーイ!」
ま、待って下さい。わたくしにはそんな大役は。
「市長様バンザーイ! ささ、早く公務を!」
「えっ」
「早速水着での依頼が、山のように来ております」
「えっえっ」
「先ずは国立学校から、卒業式への出席依頼。勿論、水着で」
「えっえっえっ」
「それから老朽化対策工事が終わった橋の開通式への出席依頼。無論、水着で」
「えっえっえっえっ」
「それと各国大使からの、市長就任祝賀会への出席依頼。勿の論、水着で」
「えっえっえっえっえっ」
「それに、あれやこれやそれやどれや…………無の論、全て水着姿で」
「えっえっえっえっえっえっえっ」
「……あ、一件だけ違う格好での依頼が」
「そ、それは受けますわっ」
「お泊まり中の宿屋で、リブラ様に【いやん】される依頼。これは全裸ですな」
……何故、それが公務に?
きゅっ
「はああああああああああん!」
きゅっきゅっ
「はああああん! いやああああああん!」
「リファリス、起きなさいよ♪」
きゅっきゅっきゅっきゅっ
「はあん! はあん! はああああん!」
「寝てても反応するから、面白いのよねえ」
「な、何をなさってるんですのおおおおおお!!!!」
「え……ぎゃああああああああああ!!」
「全く! 悪夢を見る筈ですわ!!」
「ご、ごべんばばい……」
三回頭をかち割られたリブラは、血溜まりに倒れ込んだまま呻き声で謝罪してきます。
「それはそうと……やはり辞退するしかありませんわね」
わたくしにはセントリファリス周辺のロードという役割もあります。これだけ離れた地であるマリーナ市国を統治するなんて、身体が二つ無いととても無理です。
「仕方ありませんわ。選挙管理委員会に行って、その旨伝えましょう」
「え、その胸?」
きゅっ
「はあああん! そ、その胸ではありませんわ!」
バガアアン!
「ぐぎゃああ……がくっ」
悪夢のような事は起きないとは思いますが、このままにもしておけません。早速選挙管理委員会へと行きますか。
「あ、聖女様だ!」
「新市長様だわ!」
ぎくっ。
「新市長様バンザーイ!」
「聖女様バンザーイ!」
こ、これは、夢で見たのと同じ……!
「あ、でも、マリーナ市国じゃ政教分離じゃなかった?」
え? そ、そうなんですの?
「でも聖女様、セントリファリスって町の町長してるんでしょ?」
代理、代理ですわ! 政務には参加してませんわ!
「そう言えば自由騎士団自治領の領主も兼任なさってたよな」
それも代理! 名前だけですわ!
「だったら、聖女様が市長するのは、何の問題も無いのか」
問題ありまくりですわ!
「だったら……市長様バンザーイ!」
「新市長様バンザーイ!」
いやああああああ!
「どうせだったら水着姿でお願いします!」
「あ、それは俺も賛成だ」
えええええええ!?
「水着姿の新市長様、バンザーイ!」
「水着姿の聖女様、バンザーイ!」
止めてええええええええええ!!!!
選挙管理委員会の事務所に着いた頃には、精神的にボロボロになっていました。
「だ、大丈夫ですか、聖女様?」
だいじょばないです。
「えー、先ずは新市長様、当選おめでとうございます」
は、はい、ありがとうございます。
「……ですが、大変申し上げ難いのですが……」
っ!?
「我が国には政教分離の大原則がございまして」
「そうですわねそうですわね! でしたら仕方ありません、辞退させて頂きますわ!」
渡りに船ですわああ!
「そうですか。でしたら次点のマーリン女史に市長をお願いする事になりますが」
「それでお願いします!」
これでマーリン様から恨まれずに済みますわ!
「……ですが」
っ!?
「当選されたのは事実ですから、何かしら聖女様に報いなければなりません」
何もして頂かなくて結構ですわ!
「ですので聖女様には、名誉市長に就任して頂こうかと」
「名誉……市長?」
「はい。あくまで名誉職ですから市政に携わる事はありません」
つまり、名前だけ、という事ですわね。
「そういうものでしたら聖心教の教義にも反しません。喜んでお受けしますわ」
「そうですか。それはありがとうございます」
名誉職で済むのでしたら、わたくしもありがたいです。
「それでですね、聖女様も何かとお忙しいでしょうから、明後日中には授与式を行いたいのですが」
「はい、構いませんわ」
そろそろセントリファリスに戻りませんと色々と大変ですから、早い方がありがたいです。
「でしたら新市長が就任してすぐに、授与式という流れで」
「はい」
「その際には、是非とも水着でご出席して頂きたく」
「全力でお断り致します!」
明後日、式典にて。
「おめでとう。で、ありがとう、聖女殿」
「あは、あははは、あははは……」
名誉市長の任命書を手渡して下さったマーリン様は……水着姿でした。
「聖女殿が拒否ってくれたお陰で、水着の役回りは私に回ってきたよ」
「そ、それはそれは……」
「しかも次々に依頼が来ている。しかも、全て水着姿で、と」
「そ、それはそれは……」
「……聖女殿」
「は、はい!?」
「感謝はしているが、それと同様にお恨み申し上げる」
あ、あははは……。
「次回この国にいらっしゃる時には、名誉職も水着着用を義務化しておくので」
二度と来ませんわ!
明日は閑話です。




