拒否る撲殺魔っ
「つまり、外見は現市長陛下、中身はマーリン様になって、新たに市長に返り咲くと?」
『その通り』
「どこかの名探偵?」
リジー、何を言ってますの?
「と、とにかく、貴方の魂を現市長の身体に移せと、そう仰りたいのですわね?」
『そうだ。時間はあまり無い故、早速やってもらいたい』
…………。
「大変申し訳ありませんが……お断りさせて頂きます」
『……何故だ』
「わたくしの復活魔術は、肉体と魂の繋がりを辿って行うもの。その前提があります以上、繋がりが無い肉体と魂を結び付けるのは至難の業」
『つまり、できないと?』
「その魔術は聖属性の復活魔術よりも、土属性の死霊魔術に近いです。つまりわたくしには専門外ですわ」
『ふむ……そういうものか』
実を言いますと、知人の死霊魔術に手解きを受けていますので、初代様がご希望の魔術は可能だと思います。ただ、成功率は普段の復活魔術に比べれば格段に落ちざるを得ません。
『しかし聖女殿よ、いつぞや「土塊」を作っていたではないか?』
うぐっ!?
「な、何故それを!?」
『この世界で「千里眼」持ちは一人だけでは無い』
く……れ、霊になってまで、特殊能力を使いこなせるだなんて……!
『聖女殿はネクロマンシーの心得があると見たが……如何かな?』
この方には下手な言い訳は通用しませんわね。
「……お察しの通りですわ。確かにわたくしにはネクロマンシーの心得があります…………但し」
『但し?』
「わたくしのそれは、復活魔術を効率良く行う為に、対象の霊と肉体を支配下に置く……というネクロマンシーの基本しか身に付けていません。土を用いた傀儡魔術も、それらの習得の為に身に付いた副産物に過ぎません」
『何が言いたいのか?』
「つまり、貴方が望む施術は、著しく成功率が下がります」
それを聞いた初代様は厳しい表情になり。
『……大体で良い。成功率を弾き出してみよ』
と仰いました。
「成功率を出せと言われましても……正直試みた事が無い魔術に対して、それを示す事自体が既に無理難題ですわ」
『つまり、それ程までに成功する自信が無いと?』
「はい」
……しばらく考え込まれましたが……。
『……それでも構わない。やって頂けないだろうか』
……はあ。
「何故そこまでなさいますの? この術の失敗はつまり、貴方様の存在すら失われる事にもなりかねませんのよ?」
『構わん。それくらいのリスクは承知の上』
「ですから、何故そこまで?」
『民が我に願うからだ』
はい?
『ここ数年、我が霊廟を訪れる民が増えた。そして、願うのだ。我の復活を』
「つまり……現在の政治を憂いていらっしゃる?」
『その通り。先程も言ったが、特にここ数代の市長は愚物ばかりでな』
ここ数代……つまり現市長も含まれるのですね。
『もはや手を加えて見ている訳にはいかん、と思うてな』
「分かりました。大変高尚なお考えで、感服致しました」
『では、施術してもらえるか?』
そう……ですわね。
「先程も言いましたが、本来の肉体と魂の繋がりは強固なものです。今回の施術においては、この繋がりこそが最大の障壁となりましょう」
『ふむ。それで?』
「ならば、その強固な繋がりを逆に利用した方が、成功率は安定した数値になりましょう」
『逆に利用する、だと?』
「つまり、現市長の霊体と同化してしまえば良いのです」
『同化だと!?』
「先程仰いました『身体は現市長、心は初代様』を『霊体の器は現市長、心は初代様』としてしまえば良いのです」
わたくしの案を聞いた初代様は、しばらく呆けていらっしゃいましたが。
『……それはつまり、我が存在を消す事を前提で、この愚物に記憶を書き写す、という事かの?』
「はい。これでしたら、わたくしの拙いネクロマンシーでも何とかなります」
『記憶の書き換え、つまり器のすげ替えか…………うむ、それも致し方あるまい』
自らの存在が消える事すら厭わない……初代様が今日まで尊敬され続ける理由が分かりますわ。
「しかしそれには、もう一方の同意も必要です」
『もう一方、とな?』
「はい。器側の意思です」
器側……つまり現市長の。
『わ、私の存在が消えると言うのか!? そんな事が許されてたまるか!』
当然ながら、拒否なさいます。
『愚か者よ、お前の存在が消える事は無い』
『は?』
『その代わりに、我の叡智がお前の記憶に加わる』
『な、何だと!?』
『欲しくはないか、知識は。我が生涯を懸けて積み上げてきた経験が、何もせずともお前の物となるのだ』
『初代様の叡智が……私の物に……』
……あ、そう言えば。
「一つ、代わりになり得る器がありますわ」
『は?』
『何?』
胸の谷間から、以前に頂いた土塊を取り出します。
『そ、それは?』
「ホムンクルスの原型。まだ形が決まっていない段階のものです。これでしたら、初代様の新たな肉体になり得るかもしれません」
『そんな便利なものがあるのなら、何故にすぐ出さなんだ!?』
「これは性別が女性に固定されています。ですから、初代様は嫌がられるかと」
『女性で何の問題があろうか! 世は多様性の時代であるぞ! 元男で現女も有って然るべき!』
流石は初代様。
「それでしたら必要な術式は土塊に刻んでありますから、確実に成功しますわ」
『ならばそれで良い。聖女殿よ、頼む』
「承りましてよ」
……わたくし達の背後で、叡智を手に入れ損ねた現市長陛下が、複雑な表情をしてみえましたが、敢えてスルーしました。
初代様、美少女化確定。




