魔女審判と撲殺魔っ
ま、魔女審判じゃと!?
それをシスター自ら!? ううむ……。
……魔女審判とはのぅ……聖心教の闇とも言える、過去の愚行から生まれたのじゃよ。
まだ聖心教が興ったばかりの頃、南方大陸には様々な土着信仰があっての。その中には動物を生け贄として捧げるような些か野蛮とも言えるものもあったのじゃ。
そんな中、聖心教の当時の指導者は、ある母子を保護してのぅ。そこから「子供を生け贄として殺害している邪悪な宗教」が存在する事を知ったのじゃ。怒りに支配された指導者は、懇意にしていた貴族と協力してその「邪悪」な宗教をあぶり出し、「救出」と称してその場に居た者達を殺害し、子供達を連れ出したのじゃよ。
しかし、真実は違っておった。その母子が訴えた生け贄の話は真っ赤な嘘で、指導者達が急襲したのは普通の土着信仰の集まりじゃったのじゃよ。殺されたのは善良な農民であり、救出された子供達は農民達の実子じゃったのじゃ。
この事件が明るみになった時には、その母子は行方を眩ましておった。後に分かったのは、その母子は父親が起こした暴力沙汰が原因で村八分になっており、被害に遭った農民達を恨んでおった、という事じゃったのじゃ。
聖心教はこの事件がきっかけで多くの離脱者を出してしまい、現在に至るまで暗い影を落とす結果となってしまったのじゃ。この事から、現在「最初の魔女」と認定された母子のような口車に乗せられぬよう、魔術や学問を用いた調査体制が整えられたのじゃ。その調査を行う審判を「魔女審判」と呼ぶのじゃよ。
その魔女審判を、シスターは行えと言うたのじゃな。
「ではここに、シスター・リファリスに対する魔女審判を開催する!」
わたくしからの打診によって開かれた魔女審判には、多くの市民も見守っていらっしゃいます。
「……魔女め、ここで正体を暴いてくれようぞ」
「どうぞ、どのようにでも調べて下さいな。但し、わたくしの無実が証明された場合は……」
「分かっている。その時は我を好きなように調べるが良い。まあ、そのような事はあり得ぬのだがな」
対した自信ですわね。
「では今回の魔女審判、我が自由騎士団自治領が取り仕切る。公平性を保つ為に、我が自ら人選した魔術士を審判員とする」
フリード様の後ろでは魔術士達が忙しそうに術式を組んでいます。
「では魔女……失礼、シスターは魔方陣内へ」
わざと言い間違えてわたくしを嘲笑するフリード様に、市民からブーイングが起こります。
「ふん、愚民が」
小さく呟いても、わたくしにはちゃんと聞こえておりましてよ。
「さて……準備が整ったようだ。では始めるぞ」
弱者を嬲る事に快感を抱くような、厭らしい笑みを浮かべたフリード様が、わたくしの前に立ちます。
「良いか、全ての質問に『いいえ』で答えるのだぞ」
今回の魔女審判に用いられる術式は『嘘発見術』と呼ばれるもので、「いいえ」と答えた際の内心の振れを魔術で計り、嘘だと判定されると激しい電撃が起きる、というものです。
「では始める……お前の名はリファリスか」
「……いいえ」
バチィ!
「くあぅぅぅ!」
わたくしは全身を駆け抜けた痛みに、思わず叫んでしまいます。
「ふむ、術式は正しく発動するようだな……しかしもう少し試験してみるか。お前は女か?」
「っ……いいえ」
バヂィ!
「あぐぅぅ!」
「ふふふ……お前は聖心教徒か?」
「くっ……いいえ」
バリバリ!
「あぅぅぅ!」
「よしよし、ちゃんと起動するな……だがもう少し試験する必要が」
「フリード公! それ以上の行為は己の悪辣さを示す結果にしかならぬぞ!」
審判を見守る聖心教徒の中から、そのような声が上がります。
「……チッ……ならば始めるぞ」
こうして、本当の審判が始まりました。
「まずは、お前は魔女か?」
「いいえ」
……何も起きません。
「ふむ、魔女と呼ばれてそうだ、と返す馬鹿は居らぬか……では次の質問。お前は今まで悪事に手を染めた事はあるか?」
「いいえ」
…………何も反応しません。
「なっ……も、もう一度聞く。悪事を行った事はあるか!?」
「いいえ」
…………何も起きませんわね。
「ば、馬鹿な!? 術式はちゃんと起動しておるのか!?」
「は、はい、間違い無く」
フリード様と魔術士達は狼狽えるばかり。
「な、ならば、お前は我を貶めようとしたか!?」
「いいえ」
フリード様の視線が魔術士達に向きます。一人が頷き、何かを呟きます。
バヂヂィ!
「…………」
わたくしは身体を駆け抜けた電撃を物ともせず、平静を保ちます。
「馬鹿な!? 何の反応も無いではないか!」
「し、しかし、術式は間違い無く……」
慌てるフリード様と魔術士達。それはそうでしょうね、全ての質問で電撃が起きている筈なのですから。
「い、一体どういう事だ!? その術式が欠陥なのではないか!?」
「あらぁぁ、先程何回も試験されましたわよねぇぇぇ? 皆様、ご覧になりましたわよねぇぇぇ?」
わたくし、こう見えて演技派でしてよ?
「確かに。試験の際のシスターの苦しみようは間違い無かったですな」
魔女審判を監視していた方々も、頷き合います。
「そうなるとフリード公、シスターの無実は完全に証明された事になりますぞ?」
「ふざけるなああ! 欠陥で無ければ、シスターがあの痛みに耐えられる筈が無い!」
「……待たれよ。何故、シスターが痛みに耐えたと言ったのか?」
「当たり前だ! 電撃は常に起きるように………………あ」
「電撃は、常に、起きるように、だと?」
「あ、いや、ち、違う、違うのだ」
「あらぁぁ、でしたら、フリード様自らお試しになっては、如何ですのぉぉぉ?」
無実が証明されて術式から解放されたわたくしは。
トンッ
フリード様を魔方陣内へ押し込むと、術式を発動させます。
「な……」
「ではフリード様、全て『いいえ』でお答え下さいな。貴方様は女ですの?」
「っ…………」
「答えなくても、電撃が起きますわよ?」
「い、いいえ!」
バヂヂィ!
「ぎゃあああああああ!」
「あらあらぁ、フリード様は女性でしたのぉ? なら、フリード様は魔女ですのぉ?」
「く……も、もう止めてくれええ!」
「答えなくても、電撃は起きますわよぉぉ?」
「ぐ……い、いいえ!」
バヂヂィ!
「あがあああああ!」
「あらあらぁ、フリード様は魔女だったのですわね! あはは、あはははは、あははははははははは!」
あの激しい電撃に耐えて笑ってみせるとは……シスターは痛みに相当な耐性があるようじゃの。いやはや、真に演技派じゃな。
魔女審判の結果を見届けたい方は、高評価・ブクマを頂ければ、フリード様が更に苦しみます。




