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オーシャンビューを期待する撲殺魔っ

「これはこれは聖女様! この度は選んで頂きありがとうございます!」


 市長陛下のご紹介で泊まる事になった宿屋さんは、見た目も中身も超高級でした。


「…………あの市長陛下がご紹介下さるだけの事はありますわ」

「はいぃ! 市長陛下には毎度良くして頂いております!」


 初めて市長陛下を肯定する意見を聞きましたわ!


「……大変に申し訳ありませんが、聖心教は清貧を旨としておりますので、ここにお世話になる訳には参りません」

「え……」

「ですから、今回はご縁が無かったという事で……失礼しました」

「お、お待ち下さい! 聖女様!?」



 キンキラキンな宿屋さんを後にしたわたくしに、リブラ達も小走りで付いて来ます。


「……貴女達はあの宿屋さんに泊まっても良いのですよ?」


「冗談。あんな成金趣味、私は御免被るわ」

「私も無理。呪われてすらいない」

「ちょっとなああ……ありゃ目がチカチカするだけだぜ」


 ……まったくもう、貴女達は……。


「それよりどこに泊まる? 早く決めないと日が暮れる」


 いくら清貧を尊ぶとは言え、野宿は御免ですわ。


「そうねぇ……だったら……皆さぁぁん!」


 突然大声を上げたリブラに、住民の方々が一斉に振り返ります。


「あの、私はセントリファリスから参りました」

「も、もしかして、聖女様の御一行かい?」

「あ、はい。私は聖女様の弟子でして」

「マ、マジで聖女様か!?」

「は、はい! この方が聖女様です!」


 ぐいいっ


 ちょちょちょちょっと!?


「お、おお! 間違い無い」


 え?


「あの零れんばかりに実った、果実を思わせる双丘!」


 はい?


「険しい峡谷を流れる清流が描くカーブが如き、あの腰の曲線!」


 ちょっと。


「なのに臀部はドンと重量感があり、所謂安産型を体現なさっている!」


「あの。わたくしを聖女であるかどうか区別するのに、体型を持ち出すのは止めて頂けませんか?」


「え? あ、こ、これは失敬。一度見た事があったので、目に焼き付いておりましてな」


「……どこかでお会いしましたかしら?」


「ほれ。いつだったか、水着姿で説教会をしていたでしょ」


 あーはいはい、二度程やりましたわね。


「あの鮮烈な光景は、二度と見る事は無いだろう…………だから」

「……だから?」

「撮影して、ポスターにしてあります」


 っきゃああああああああああ!!


「これが前屈みのシーン、これがお尻を」

「いやあああああああ!!」

「あの、それって売り物?」

「リブラ!?」

「無論! 聖女様セットで金貨二枚!」

「た、高いですわね!」

「買った!」

「リブラ!?」

「買った!」

「リジー!?」

「俺も転売用に」

「モリーまで!? と言うより転売しないで下さいまし!」


「ま、そう言う訳でさ、聖女様に間違い無い!」

「「「おおおおおおお!!」」」

「せめて顔や髪色で判別して下さああい!」



「泊まるところですか? でしたらウチが宿屋ですぜ」


 集まられた住民の皆様の中に、宿屋の経営者の方がいらっしゃいました。


「……お値段はいかほどで?」


「一人銀貨一枚、銅貨三枚だ」


 そこまでお高くはありませんわね。


「でしたらお世話になって宜しくて?」

「ぜひ! 聖女様が泊まって下さるんなら、タダだっていいくらいだ!」

「さ、流石にタダという訳には」

「あっはっは、流石にタダは無理だが、それなりにサービスさせて頂きますぜ!」

「あ、はい、どうも」


 ……で、成り行きのままに宿屋に案内されたのですが……。


「……あら」

「さっきとは正反対に」

「こじんまりとした……」


 豪華さとは縁の無い、それでいて清掃の行き届いた、落ち着いた佇まいです。


「ようこそ、オトギリ荘へ」

「「「その名前は不味いって」」」

「冗談だよ。ようこそ、マリーナ荘へ」


 海のすぐ近く、という立地ですから、部屋からは海が一望できそうです。


「で、だ。今は海水浴客も多くてよ、一部屋しか空いてないんだが」

「全く問題ありませんわ」

「そうよ。私はリファリスの隣だったらどこでもぎゃひん!?」


 脛を蹴られて黙り込むリブラは放っておいて。


「私も構わない。できれば掛け軸の裏にお札が貼ってある部屋希望」

「あ、いや、流石にそんな部屋は無いな」

「…………残念」


 ちょっと、本気にされたらどうするんですの。


「俺は食って寝れればいいよ。酒はあるか?」

「あ、はい。良いのが揃ってますよ」

「そうか……じゅる」


 わたくしの弟子なのですから、公然とアルコールを求めないで下さい!


「と、とにかく、お世話になりますわ」

「はいはい、どうぞどうぞ。一番奥の末の間……じゃなくて松の間にご案内ー!」


 末の間って……。



「では、ごゆっくりどうぞ~」


 女中さんに連れられて来た部屋は。


「……広いな」

「ええ……四人寝るのに充分すぎる広さですわね」

「だけど……うーん……」


 広いです。そこはありがたい限りなのですが……。


「……全く……欠片程にも、海は見えませんわね」


 部屋は宿屋の裏側に位置している為、窓からはオーシャンビューには程遠い景色が広がっているのです。

 しかも。


「あ、聖女様!」

「聖女様が丸見えだぜ!」


 裏は……ちょうど飲み屋らしく……。


「しかもギルドが近いから、野郎共がたくさん……」


 昼間から酔っ払っているような方々が、窓の向こう側に……。


「……雨戸とカーテン、更に魔術で覆います」

「「「お願いします」」」


 贅沢かもしれませんが……オーシャンビューが良かったです……。 


オッサンビューでした。

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