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到着した(筈の)撲殺魔っ

 ジャンジャンジャンジャンジャアアアアン!


 っ!?


「ま、また海賊ですの!?」

「う、嘘でしょ」

「海賊反対、ノー海賊」

「んな事言ってる場合じゃねえだろ、姉御!」


 二回目ともなりますと、全員落ち着いて対処できます。急いで甲板へ駆け上がりますと……。


「港だ港だ港だああ!」

 ジャンジャンジャンジャン!

「マリーナだ! マリーナ市国に着いたぞおお!」


 そう言いながら、銅鑼をジャンジャン鳴らして……って、紛らわしいですわよ!


「紛らわしいのよ!」

「紛らわしいでござる」

「ひえ! お、お助けえええ!!」

 ジャンジャンジャンジャアアアアン!


「リブラ! リジー! 刃物をチラつかせるなんて、不届き千万ですわよ!」

「そうだぜ、二人とも! 相手はカタギさんだぞ!」

「刃物では無く言葉で分からせるのですわ!」

「その通りだ! まずはシスターの退屈極まりない説教を延々と聞かせて、色々とやる気を削がせてだな!」


 …………はい?


「あ、やば…………はい、剣を納めます」

「同じく、手を引く」


「モリィィィ? わたくしの説教、退屈極まりないんですの?」

「え……あ、ち、違う! 言い間違い、言い間違い!」

「どう言い間違えたら、わたくしの説教が退屈極まりないとなるんですの?」

「あ、いや、その……すみませんでしたあ!」


 あら、案外あっさり謝りましたわね。


「今日の朝の説教、同じ内容を三回繰り返してたから、つい」


 っ!?


「同じ……内容を……三回?」


「ああ、だからつまんないって……シスター?」


 わたくし……やっと巡り会えましたわ!


「貴女が初めてですわ、最初から最後までちゃんと聞いていてくれたのは!」

「……へ?」

「あまりにも説教を聞いていない弟子ばかりでしたから、同じ内容を何回も繰り返して嫌がらせしていたのですが……」


「え?」

「へ?」


「モリーはちゃんと聞いていてくれたのですね……あああ、わたくしは良い弟子にようやく恵まれました……」

「……嫌がらせに同じ内容を繰り返すって、聖心教の教え的にはいいのかよ……」

「そ、それはまあ…………コホン。それよりモリー、貴女本格的にシスターになる為の修行をなさいませんか?」


「は?」

「え?」

「へ?」


「こういうのは段階を踏んで、時間をかけてするのが普通なのですが……貴女でしたら飛び級も可能ですわ!」

「飛び級だあ!?」


「ほ、本当に?」

「モリーがシスターに?」


「お、俺が……聖女様と同じシスターに……」


「どうですか? もしもやる気があるのでしたら、マンツーマンで徹底的に扱きますわよ?」

「……ああ、分かった! やる、やるよ、シスター!」


 あああ、わたくしはついに後継者に巡り会えた……!


「やってやるぜ! シスターに、俺はなる!」



 到着したのも忘れ、熱血しておるのう……シスターも若いようじゃな。

 しかし、ほれ。やる気になっておるのは結構じゃが、元親分には致命的な欠点がある事を忘れておらんかの。



「ではモリー、シスターになる為の訓練を始めます……が」

「が?」

「まずは女性らしい所作を覚えて頂きます」

「…………え?」

「当たり前でしょう。オラオラ系のシスターだなんて、聞いた事がありませんわよ」


 教会入ってすぐに「おう、よく来たな」とか言われたら、大半は回れ右しますわよ。


「うぁ……ま、まずはそこからなのか……」


「ですから、今回はリブラにも協力して頂きます」

「へ? わ、私?」

「はい。リブラからは貴族にも通用するくらいの作法を叩き込んで頂きます」

「ああ、そういう事……だったら大丈夫。ビシバシビシいくわよ」

「えええ!?」


 では始めますわ……まずは。


「モリー、大股開きはいけません」

「あ……こ、これは気を付けないといけねえな。よくパンツの色とか言われるんだ」


 はい、ダウト!


 バシィン!

「いでえ! な、何だよ!」

「言葉使いも叩き直さないといけません」

「だ、だからって本当に叩かなくても」


 はい、ダウト!


 バシィン!

「いだあい! わ、分かりました」


「はい、宜しいですわ。次は……」



「か、身体中痛い……」


「次は私が教える番だけど……大丈夫?」


「大丈夫じゃねえ……じゃなくて、大丈夫じゃないです……」


「まあ……私の時は少し優しくしてあげる」


「あ、ありがとう、姉御……じゃなくて……ええっと……何て言えば?」


「あー……姉御の丁寧な言い方かぁ……お姉様かしら」


「げぇぇ……お姉様って、マリーゴールド殿下じゃねえんだから……


「あはは、確かにマリーゴールド殿下と同じ……あ」


「ん?」


「……モリー、このままシスター修行続けたい?」


「……正直……口調直してまではやりたくない……」


「そう。だったら……」



「おはようございます」

「おはようございます」


 うん、挨拶もちゃんと言えています。やはりモリーは筋が良いですね。


「あ、あの、俺……じゃなくて私から提案が」

「はい、何でしょう」

「シスターを何てお呼びすればいいのか、なのですが」


 わたくしを、何と呼ぶか、ですの?


「シスターとお呼びするのもよそよそしいので、違う呼び方にしようかと」


「成る程。構いませんわよ」


「はい。ですが、聖女様、だとお嫌かと思いまして」


 確かに、あまり聖女呼ばわりは好きではありませんわ。


「ですから、お姉様とお呼びしようかと」


 ピシィ!


「お、お姉、様?」

「はい。どちらにしても姉御達を姉御呼ばわりする訳にも参りませんから、リブラお姉様、リジーお姉様、そしてリファリスお姉様」

「いやあああああああああああ!!」

「っ!?」

「お姉様はいやああああああ!!」



 ……結局これが原因で、本格的シスター修行は棚上げになったのじゃ。



「モリー、お姉様言いましたら撲殺しますわよっ」

「言わねえよっ」



「あのー……もうマリーナ市国に着いてますので、船を下りて頂けませんか?」

船員さん、ひたすら迷惑。

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