怪力化け物で人でなしな撲殺魔っ
「主よ、その輝かしい威光の下で我らは日々を懸命に生きています。いつか我らが貴方のいらっしゃる天に昇る時も、その光によって導いて頂けるもの」
ジャンジャンジャンジャンジャアアアアン!
っ!?
「な、何事ですの!?」
「これは……何かしらの緊急事態の際に鳴らされる銅鑼……!」
緊急事態!?
「まさか……沈没!?」
はい!?
「い、いやあああ! また、またなの!? もう沈没はいやあああ!」
「リジーの姉御、落ち着け。沈没ならとっくに船が傾いてるだろ」
「……ああ、言われてみれば確かに。てへ、お騒がせしました」
リジー、沈没に巻き込まれた経験がありますの?
「なら、あの銅鑼は……」
「まさか……海賊?」
リブラの呟きと同時に、リジーとモリーが立ち上がります。
「海賊!? 聖騎士である私は、聖女様を守らなくてはならない!」
「俺も海賊相手なら黙っちゃいられない! 奴らの手口もよく知ってるから、援護は任せてくれ!」
そう言って甲板へ走って行き…………ん?
「ちょ、ちょっと待ちなさい! まだお祈りの最中ですわよ!」
「逃げたわね、あの二人……」
そう言うリブラも、コソッと欠伸をしています。
「……長い、と仰りたいんですの?」
「リファリスのお祈りが長いのは、今に始まった事じゃないでしょ」
そ、それはそうかもしれませんが。
「私は大分慣れたけどさ、リジーやモリーみたいな『考えるより先に身体が動く』タイプにはキツいかもよ」
むう……全ての方に平等に伝わるようにできなければ、お祈りを口にする意味がありません。
「リファリス、説教とお祈りが一緒になっちゃってるの、あんまり良くないんじゃない?」
「……そう……ですね。気を付けなくてはいけませんわね」
聖女などと祭り上げられていても、まだまだ他人の心は分からないものですね……。
キィン!
わあああ!
ぐぁあああ!
「……どっちにしても、お祈りは中断ね」
「ですわね……皆に等しく慈悲の光を」
「……リファリス、今の短いのは」
「お祈り短縮版ですわ」
「短縮できるならいつもしなさいよ!」
分かってますわ。時と場合によっては、ちゃんと短縮します。
「敵は海賊程度だ! 遅れをとるなよ!」
「し、しかし隊長、数が多すぎ」
ドスッ
「ぎゃあああ!」
ヒュンヒュヒュン
ドスドスッ
「ご、ごぼぉ」
ドサァ
「く……ゆ、弓矢を持ち出すとは、卑怯なり!」
「卑怯とか言ったって、こてんぱんに負けてる言い訳にもならないと思われ」
「海賊が弓使ってくるなんて、常識中の常識だぜ」
ヒュンヒュヒュヒュン
「姉御、頼む」
「うい……≪呪われ斬≫」
ブゥン! ブワアアア!
トストスバラバラッ
「剣圧だけで矢を落とすだと!?」
「次は俺だな……えい」
バチバチバチ…………ドォォォン!
「お手製の爆弾、ちょっと強力すぎたかな」
メキメキメキッ ザザザザザ……
「……一発で船が沈む爆弾、危険すぎ」
「いやいや、海賊船が脆いだけだって」
「リジー! モリー!」
「ありゃ、護衛対象が出てきちゃったぜ」
「それは申し訳ありません。それより戦況は?」
「海賊の襲撃。敵は五隻だが、今々一隻沈めたところだ」
「囲まれて弓矢による攻撃受けてる。市国の兵はほぼ全滅」
言ってはいけませんが、弱っちいですわね。
「仕方ありません、わたくし達で撃退しますわよ」
「「「了解!」」」
……とは言ったものの、海賊達が弓矢による遠距離攻撃に徹している限り、リブラとリジーには出番はありませんわね。
「モリー、先程の攻撃、まだいけますの?」
「爆弾か? あと三発しか無いな」
三発……全て当たっても、まだ一隻残りますか……。
「でしたらわたくしが何とか致します」
「何とか致すって……何とかできるの?」
「ええ。見ていて下さいな」
そう言ってから錨が置いてある船首へ向かいます。
「ふむ、これでしたらモーニングスター代わりになりますわね」
「え、ちょっと待って、まさか」
錨を持ち上げ、振り回し。
ブンブンブンブンブンブンブンブン!
うん、いけますわ!
「そぉーれ!」
ブゥーン!
「い、錨を投げた!?」
「何㎏あると思ってんのよ!!」
……ドッカーン
クリティカルですわ!
ザザザザ……ブクブクブク
「沈みましたわね……次!」
ブンブンブンブンブンブンブゥーン!
…………ズガシャアアン
再びクリティカル!
「マ、マジかよ……」
「残り二隻です! モリー、爆弾で何とかなりますわね!」
「え? 爆弾、必要?」
海賊を全て撃退し、生き残りは全て捕縛。お亡くなりになった方々も全て生き返らせ、等しくお縄となりました。
「だ、誰なんだよ、錨をぶん回して船沈めた奴は!?」
「わたくしですが」
「はあ!? あ、あんた、聖女様だろ!?」
「一応、そう呼ばれています」
「聖女って怪力化け物女の事なのか!?」
失敬な。
「どちらにしても、わたくし達を狙ってきた事には代わりありません。よって罰を与えます」
「……全員撲殺?」
それも考えましたが、ちょっと数が多すぎます。
「そうですわね……全員水殺しましょう」
「「「はい?」」」
海賊全員を数珠繋ぎにし。
ドンッ!
「うわあっ」
ドボーン……ブクブクブク
「このまま港まで向かいましょう。ちゃんと定期的に生き返らせてあげますから、ご安心を」
「いや、いっそ生き返らせないでえ!」
「おかあちゃーん、聖女様は人でなし」
ドンッ!
ドボーン……ブクブクブク……
錨って何㎏あるのやら。




