発熱した撲殺魔っ
明日にはマリーナ市国に到着する。つまり、この豪華客船ともおさらばな訳で……。
「あっと言う間だったわね~……」
「うい。何かしたかと言われれば、奉仕してたか撲殺されてたか」
「……奉仕と撲殺が並ぶって、どういう生活してんだよ……」
モリーに同調したいとこだけど、私も似たようなものだから何も言えない。
「……ねえ、確か船内にカジノがあるんじゃなかった?」
「あるぜ」
それだああっ!
「今から繰り出して、豪華客船での思い出作りをっ」
それを聞いたモリー、深い深い深ーいため息を吐きやがった。
「な、何よ」
「あのなあ。この船に乗ってるのは誰だよ」
「誰って、私達じゃない」
「他に、シスターと枢機卿猊下、それに大司教猊下だぞ」
「あ……」
「ただでさえ聖心教では賭け事が禁止されてるってのに、大司教猊下が乗船されてる中、カジノを動かす訳無いだろ」
そ、そうだったわ……あの大司教猊下が、カジノを動かすなんて許す筈が無い。
「だったら……また泳ぐ?」
「リジーの姉御、前言撤回しろ。奉仕か撲殺だけじゃなく、日向ぼっこか泳ぐもしてただろ」
まあ、確かにそうだ。と言うより、泳ぐか日光浴くらいしか休憩の際にやる事が無い。
「後は……食べる事くらいだけど」
「大司教猊下とシスターの注文で、完全に粗食だったわな」
「ううぅ……せっかく豪華客船に乗ったのに、普段と似たような事しかしてないい!」
この時、急激に思えた。思い出が作りたい、掛け替えの無い時間を皆と共に過ごしたい、と。
「……よし……だったらヤる事はただ一つ!」
殴られようが何しようが、リファリスと目眩く時間を共に過ごし、一生の思い出にしたい!
「モリー、リファリスは!?」
「……あれ、そういやシスターが居ないな」
「うい、私も朝から見てない」
リファリスの事だから、どこかで床でも磨いているんだろう。
「だったら、リファリスセンサー発動!」
「「……はい?」」
首を外し、高く掲げる。
すると。
ピピピピッ
「……反応あり!」
髪の毛が階段下を指し示す。下の階か。
「な、何だよ、その髪の毛」
モリーの突っ込みはスルー。
「二人とも、ちょっとイってくるね」
「い、逝ってらっしゃーい」
「骨は拾ってやるぜ」
縁起でもない事言わないでよ!
ピピピピッ
「リーファーリースゥー」
ピピピピッ
「リファリスリファリスリーファーリースゥー」
あの角を曲がった先だ!
「リファリス!」
「はあ……はあ……はあ……はあ……」
……え?
「はあ……はあ……リ、リブラ?」
リファリスがほんのり頬を染めて、激しい息遣いで、私をトロンとした目で見ている。
「何か、ご用で?」
これは……まさか……。
ガバッ
「あ、リブラ……」
きゅっきゅっ
「あ、いけませんわ、いやぁ……」
発情してる……?
「はあ、はあ、身体が熱いですわ、はあ、はあ」
……って、熱があるんじゃない!?
「リファリス、ちょっとおでこ触らせて」
「はあ、はあ」
手の平から伝わる体温は、少し危険な熱さを感じた。
「な……急患! 急患よおおおおおおおおっ!」
すぐにリファリスをおんぶして、全力で駆け出す。
「枢機卿猊下、大司教猊下、急患急患急患!」
「はあ、はあ、はあ、はあ」
「誰か回復魔術使える方! ぷりーずへるぷみぃぃぃ!」
「はあ、はあ、ふーぅっ」
「はひゃあああああ!?」
思わずリファリスを落としそうになる。み、耳に息を吹きかけないで!
「だ、誰か! 誰かあああ!」
「リブラ……はああ」
きゅっ
「はあああああああああああんっ!」
「リブラ……はむっ」
「いやああんっ! み、耳を噛まないでぇ……」
わ、私も、理性が吹き飛びそう……。
「リブっち、呼んだかな?」
救世主現るううううううう!!
「枢機卿猊下、助けて! リファリスが熱を出しちゃって」
「リファっちが熱!? そんな馬鹿な……って」
「はあ、はあ、はあ、はあ」
「……あー、これは……分かったよ。とりあえず付いて来て」
「は、はいい!」
……移動中も【いやん】を触られたり【ばかん】を噛まれたり……枢機卿猊下の部屋に着く頃には、随分と服装が乱されていた。
「寝かせてリブっち……って、よくその格好で歩いてたね」
「直しても直しても乱されるから仕方無いじゃありませんか!」
「まあ……今のリファっち相手から仕方無いか」
今のリファリスなら仕方無い?
「……それってどういう事ですか」
「これはねぇ……ハイエルフ族の発情期なんだわ、にゃは」
………………はい?
「は、発情期?」
「そう、発情期」
エルフに……発情期?
「エルフ族って子供ができにくいって、聞いた事無いかな?」
「あ、はい。あります」
「その原因がこれ。発情期があるからなの」
はい?
「つまりね、エルフ族は発情期の時にナニしないと、子供ができない身体なのよ」
「は、発情期以外は?」
「まず妊娠しないらしいね」
そ、そうだったんだ……。
「発熱なんてあり得ないハイエルフが発熱したのなら、間違い無く発情期。覚えておいてね」
「わ、分かりました」
「さて、後は一二時間放置」
「一二時間?」
「発情期はね、そういう気分を発散さえすれば治るから」
発散って……。
「一人で何とかするでしょ」
「 一人でって…………ああ、そういう事ですか」
室内からリファリスの艶めかしい声が聞こえてきた時点で、察した。
二時間後。
ガララッ
戸が開かれ、ほんのり上気した様子のリファリスが出てきて、頭を下げた。
「リ、リブラ……申し訳ありませんでした」
「別にいいよ。皆にも内緒にしとくから」
「は、はい。お気遣いありがとうございます」
……次の発情期、ちゃんと二人きりになれるようにしなきゃ。
リファリス、過去にルディを押し倒してたりする。




