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中級の撲殺魔っ

「市長陛下、何故わたくしが最上階なんですの?」


「賓客をお迎えするのです、一番良い部屋を準備するのが当然かと」


 成る程、道理ですわね。


「ですが何故リジーとモリーは一つ下の階層に?」


「え? 何か不都合でも?」


 やや大仰な仕草で、本当に分からない……といった空気を醸し出します。


「不都合とか仰る以前に、わたくしと弟子を引き離す理由をお窺いしても?」


「お弟子さんでしたら、師匠と同じ待遇になる事の方がおかしいのでは?」


「でしたらリブラは? 同じ弟子ですわよ」


 そう言った瞬間、市長陛下は苦笑いの表情を浮かべられ。


「おやおや、同じ弟子でも侯爵家と一般市民では待遇も変わりましょう」


 そう言い放たれたのです。


「そうですか。確か主は『我の教えの元では、王も奴隷も同じなり』と説いていらっしゃる筈ですが?」


「聖女様、本音と建前でございましょう。いくら主の教えであろうと、支配する者とされる者を同列には並べるのは困難ですぞ」


 あらそうですか。


「でしたらわたくしは最下層で結構ですわ。主に仕える者として過剰な接待は受けられませんもの」


「な、さ、最下層なんて!」


「リブラはどうします?」

「私は弟子でございます。ならば師匠より上の立場で居られる筈がございません」


 あらあら、リブラも悪乗りして。


「リジーは?」

「呪具封印部屋を希望」

「モリーは?」

「甲板でも魔動エンジンルームでも、どこだって寝れるぜ」


「あらあ、わたくしよりも下の境遇を自ら申し出るだなんて……師匠としては喜ぶべきか悲しむべきか、とても迷いますわぁ」


 堅苦しいのは嫌いなモリーと呪具オタクのリジーは、本心なのでしょうけど。

 ちなみに呪具封印部屋とは、呪具全般を収納する部屋の事で、周りに呪いが及ばないように特殊な術式が部屋全体に組まれています。つまり室内は、濃厚な呪いで満たされていますから……。


「し、しかし、流石にエンジンルームと封印部屋では」

「そうですわねぇ。ならばわたくしと弟子三人で、同じ中級の部屋というところで如何でしょうか?」

「中級……い、一般市民と!? そうなりますと警備状の問題がっ」


「あら、わたくしは剣聖祭優勝者ですわよ? 警備は必要ございません」

「私は準決勝まで行ったわ。だから私も必要無い」

「私は聖騎士。どちらかと言えば、守護する立場」

「俺は……自分を守るくらいは不自由しないかな」


 口をパクパクさせる市長陛下に、更にたたみかけます。


「それと、大司教猊下はどの階層をお選びで?」


「え、そ、それはっ」


「多分、わたくしと同じように仰ったのでは?」


「うっ」


 そうでしょうね。自らに厳しい大司教猊下ですもの、最上階での過剰な接待を喜ぶ筈がございませんわ。


「でしたらわたくし、大司教猊下の警護も兼ねまして、同じ階層を望みますわ」



 結果として、わたくしの要望は通りました。


「大司教猊下は一人部屋なのでしょう? でしたらわたくしは弟子達と同じ部屋で結構ですわ。流石に猊下と同じ待遇は……ねえ」


 そう言って二段ベッドが二つ置かれた質素な部屋を選び、四人で一緒に寝泊まりします。


「ふう。これくらいでないと息が詰まりますわ」

「良かったのか、シスター。市長様の面目丸潰れだぜ?」

「大丈夫よ、モリー。これも本音と建前だから」


 わたくしが答えるより前に、リブラが説明してくれます。


「迎える側としては、やはり最上階での接待を用意しなくちゃならない。だけど聖心教は清貧を尊ぶのは周知の事実。それで聖心教の関係者を迎える場合は、建前の高級待遇と本音の一般待遇の二つを準備しておくの」

「つまり断られる事を前提で、高級待遇も準備しなくちゃならないのか?」

「まあね。100%一般待遇を選ぶのは決まってるから、食材みたいな日持ちしないものにまで気を回す必要は無いし、大きな損害は出ないわ」


 部屋を準備するメイドさん達は大変でしょうが、後の掃除の心配はありませんから、むしろ普段より楽なのだとか。


「つまり市長様はこの階層の準備は既にしていた、と?」

「そうね。だから大司教猊下への対応()スムーズだったのよ」

「大司教猊下への対応()?」

「私達には不手際の連発だったわね」


 その通りです。


「不手際?」

「そうですわ。まずわたくしとリブラ、貴女とリジーで分けようとした時点でお粗末でしたわね」

「主の元での平等を謳ってる聖心教のシスターに、身分での差別を押し付けたのは失態中の失態だわ」

「確かになあ。教会のお祈りだって、貴族だろうが何だろうが順番だったもんなあ」


 そして、リブラが決定的な証言。


「リファリスには言ったけど、船の入口付近、成金趣味丸出しじゃなかった?」


「そうだった? 気付かなかったと思われ」

「まあ、二束三文だったな、殆ど」


「あら、モリーは気付いてらしたのね」


「元盗賊だぜ? 真贋を見極める目が無きゃやってらんねえよ」


 確かに、仕事になりませんわね。


「あれ、要は客層を見分ける計りみたいなもんだろ?」


「気付いてて物珍しげにしてたの?」


「キンキラキンの部屋なんか御免被る」


「つまり、本当に分かってなかったのは……」


 わたくしとリジーですわね。


「でしたらちゃんと見極められたお二人は、上のベッド。わたくしとリジーは下ですわね」


「別に構わないが……」

「な、何で!?」


「わたくし、見る目がありませんもの。リブラの隣にはなれませんわ」


「そ、そんなああ!?」


 やっぱり夜中に這ってくるつもりでしたのね。


「モリー、見張りをお願いします」

「了解」

「しくしくしく……」

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