優勝商品と撲殺魔っ
『聖女殿、見事……な勝利であった?』
陛下、何故に疑問系なのですか?
『倒れた鎧を叩くだけで降参させた技量、感服したぞ』
技量? 鎧を叩くのに技量が必要なのでしょうか?
『しかも剣を用いる事無く、トンファーと蹴りだけで頂点に立ってしまうとはな。見事と言う他あるまい』
「そのような勿体無き御言葉、光栄の極みでございます」
陛下も言葉選びに御苦労していらっしゃいます。まあ、このような盛り上がりに欠ける結末では、無理もありませんが。
『しかし……余としては、もう少し聖女殿の活躍を見てみたかった』
「は、はあ……」
『……で、だ。余からの提案なのだが……あくまで余興として、もう一試合組みたいのだが』
はい?
『毎年ライオンと侯爵夫人との白熱した決勝戦で、大会は締められていた。そこまでは望まないが、やはり盛り上がりは必要であろう』
そ、そんな……わたくしの意思は無視ですの!?
『しかし、聖女殿と互角以上の戦いができそうな猛者は、そうそう居らぬ。ライオンめも侯爵夫人も負傷しておる故、無理はさせられぬしな』
あの二人が相手でしたら、間違い無く勝てません!
『よって、余が選んだ対戦相手は……この者だ』
陛下が片手を挙げられると、突然鼓笛隊が現れ。
パンパカパンパンパーン♪
ファンファーレが流れて……って、こういう展開の場合、王族が登場される…………王族!?
『我が後継者にして第一王女である、マリーゴールドがお相手……』
「嫌ああああああああ!」
『……え?』
「お姉様ああああああ!」
「嫌! 嫌! 嫌ああああああ! 誰か! 誰か助けて下さいましいいい!」
『……しょ、勝負の項目を、鬼ごっこにした覚えは無いが……?』
「うっふっふ、お姉様に殴って頂けるなんて、光栄の極みですわ♪」
「ひ、ひぃぃ……! へ、陛下! わたくし、何か罪を冒しましたか!?」
『い、いや、そういう訳では無いのだが…………何かすまん』
謝られるくらいでしたら、こんな質の悪いドッキリは止めて下さい!
『聖女よ』
だ、大司教猊下?
『これも試練と心得よ』
大司教猊下ああああああ!?
「両者、礼!」
「ウフフ、宜しくお願いしますわ♪」
「ひぃぃ……」
王女殿下は大振りの鎌を手に………………鎌?
『聖女殿、マリーゴールドは死神流処刑術を皆伝している』
はい?
『つまり、弱くは無い。今回は流石に不慣れなトンファーでは厳しいのでは無いか?』
ブゥン! ヒュヒュヒュヒュン!
「お姉様、わたし〝死神〟様の直弟子なんですの」
え……デスサイズ様の?
その頃のデスサイズじゃが。
「キヒィ……誰か助けてくんなませえ……キヒンキヒン」
……泣いておった。
ヒュヒュヒュヒュン
「さあお姉様、またこのマリーゴールドめを苛めて下さいまし!」
「お断り致しますわ!」
こういう場合は、四の五の言わずに退場してしまえば……。
ヒュン! ガギィ!
「っ……背中を向けた相手に刃を向けるとは、お転婆が過ぎませんこと?」
「お姉様に苛めて頂けるのでしたら、何だってやりますわ!」
そんな事の為にそこまで努力しないで下さいまし!
「さあ、さあさあさあ! リファリスお姉様がかち割るべき頭は、これですわよ!」
かち割りたくありませんわ!
「な、何故、そんなに拒否なさるんですの!?」
「撲殺されて喜ぶ方なんか、撲殺する意味がありませんわ!」
「ええ!? ぼ、撲殺に意味なんてありましたの!?」
「ありますわよ! 何だと思ってたんですの!?」
「た、単なる趣味かと」
…………ま、まあ、それもありますが。
「わたくしが撲殺するのは、悪しき心に喝を入れるという意味合いが強いんです」
「悪しき心に……喝?」
「そうですわ。撲殺で無くとも『死ぬ程辛い』『死ぬ程大変』という言葉通り、死とは大体が辛く苦しいものです。それ程の経験をした方々が、今まで通りに暮らせると思いますか?」
「……つまり……究極のショック療法?」
うっ……ち、違うと言いたいところですが、否定できない部分はあります。
「あ、当たらずとも遠からず、と言ったところでしょうか」
「え……」
……あら?
「殿下、何故に悄気てらっしゃるんですの?」
「……お……お姉様は……悪しき心を砕く為にしか、撲殺なさらないんですか……?」
……?
「……急に何なんですの?」
「教えて下さい! 一度悪しき心を破壊した方は、もう撲殺しないんですか?」
うーん……そうですわね。
「その方次第、と言ったところでしょうか」
「その方……次第?」
「はい。例えば殺人鬼を更生の為に撲殺したとして、復活後にもまた同じ事を繰り返していたら?」
「それは……もう一度撲殺する、と?」
「そうせざるを得ないでしょう」
「悪しき心が……まだあるなら……だったら……だったら……」
で、殿下?
「わ、わたし、わたしいい!」
え?
「今日から悪女になります!」
はい!?
「悪の限りを尽くし、この大陸を阿鼻叫喚の地獄へと」
「待ちなさい! わたくしに撲殺されたいが為に闇落ちしてはいけません!」
「お姉様にだって」
ビリビリビリィ!
「なっ」
「裸に剥いちゃうくらいの悪事は、いつだって」
「何をなさるんですのおおおお!!」
ボギャグシャア!
「ぐぎゃあああ! こ、これよ……これがたまんないのよ……がくっ」
『陛下、宜しいのですか?』
『……聖女殿はスタイルいいのぅ』
『現実逃避しないで下さい、陛下』




