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旗を立てる首だけ令嬢っ

「勝ってくれたのね、リファリス」


 控え室に戻りますと、リブラが妖しげな笑みを浮かべて待っていました。


「…………」

「待って! 何で杖を構えるかな!?」

「いえ、また押し倒すつもりかと」

「私は色魔じゃ無いんだけど!?」

「あらあ、先日無理矢理【ぴー】なさったのは、どこの何方でしたかしらあ?」

「しない! 今日はしないって!」


 ……今日は?


「つまり、後日再び襲うつもりで?」

「ま、まあ、そのうち……ひっ!?」


 今のうちに始末しておくべきでしょうか。


「え、あの、実は、それについて、提案したい事があって!」


「……何でしょうか?」


「えっとさ、明日私は順当に勝つだろうから、決勝はリファリスと当たる事になるのよ」


「まあ……そうなればそうなりますわね」


「それでさ……えっと……」


 ……?


「えっと……あの……私と戦ってさ……」

「はい」

「その……私が勝ったらさ……」

「はい」

「私と…………その……旅行に行かない?」

「はい…………はい?」


 旅行?


「何故に、旅行?」


「その…………誓いの洞窟に行かない?」


 誓いの洞窟!?


「リブラ、それがどういう意味なのか、分かって言ってますの?」

「勿論」


 そう……ですか。



 良い雰囲気のところで、ジジイ乱入じゃ!

 さあ、解説して進ぜようぞ。誓いの洞窟とはな、簡単に言えば縁結びの名所じゃ。この洞窟にある地底湖で結ばれた者は、永遠に固い絆で結ばれる……という言い伝えがあるのじゃよ。

 ちなみにじゃが、性別は問わず、どのようなパートナーでもOKじゃ。時代の先取りじゃな、ほっほ。



「……構いませんわよ」

「え?」

「わたくしに勝てるのでしたら、どのような要求も受け入れましょう」

「そ、それって」

「わたくしに勝ったなら、現在の地位を全て捨て、生涯貴女に尽くす事を誓いましょう」


 ぶふーっ!


 突然リブラが鼻血を噴き出しました。どうしたんですの?


「そ、それって、私の奥さんになってくれるって事!?」

「そうですわ」

「私と一緒に住んでくれるの!?」

「そうなりますわね」

「な、なら、毎日【いやん】を求めても」

「っ……そ、それはその時に考えましょう」

「だけど、私だけのリファリスになるのよね!?」

「まあ……そうなりますわね」


 それを聞いた瞬間、リブラは天井を突き破らんばかりの勢いで飛び上がりました。


「いやっほおおおう! やったああ!」


「待ちなさいな。まだわたくしに勝てると決まった訳では」

「勝つよ」


 ゾワッ


「私、リファリスを手に入れる為だったら、どんな相手にだって負ける気がしない……例えそれがリファリス自身であっても」


 凄まじい……覇気ですわね。


「……分かりました。ではわたくしも、全身全霊で貴女に応えましょう」

「えっ」

「全力で叩き伏せて差し上げますわ」

「え……て、抵抗するの?」

「はい。わたくし、まだまだシスターを辞めるつもりはありませんもの。それに……」

「……それに?」

「わたくしも、勝った場合に望むものがありますから」


 わたくしは逆。リブラがわたくしの伴侶となって、永遠に側に居てくれる事を願うつもりです。


「リファリスが望むものって?」

「……内緒ですわ」

「え、いいじゃない、教えてよ」

「こういう事は教えてしまうと、何かしらの不幸に見舞われてしまうものなのです」


 巷ではこれを(フラグ)と呼びます。


「何よそれ。そんなの偶然でしょ」

「いえ。これに関しましては、偶然の一言では片付けられないのです」

「えー、迷信よ迷信。だからさ、教えてよ」

「駄目ですわ」

「いいじゃん」

「駄目ですって」

「別にいいじゃん」

「駄目です」

「えー、いいじゃん」

「しつこいですわよ」

「リファリスだって頑固じゃん」


 くだらない押し問答だったのですが、いつの間にかヒートアップしてしまい……。


「教えなさいよ!」

「嫌だと言っているのです!」

「教えなさいって言ってんでしょ!?」

「嫌です! 絶対に教えません!」

「この……! 頭でっかちの牛女!」


 …………はい?


「今、何と仰いまして?」

「頭でっかちの牛女って言ったのよ!」

「誰が、頭でっかちの、牛女ですって?」

「リファリス以外に居ないでしょ、こんな頑固な牛女!」


 ……主よ。キレるわたくしをお許し下さい。


 バガ!

「痛っ!? や、やったわね」

 ボガボガ!

「い、一発じゃ飽き足らず、二発三発と!」

 ボガボガボガボガボガボガボガボガ!

「な、ちょ、反撃させて」

 ボガガガガガガガガガガガガガガガ!!

「いや、ちょ、ぎゃああっ」

 ガガガガガガガガガガガガ! ズギャンズギャンズギャン!

「ズギャンってどういう擬音うきゃあああああああ!?」

 ズギャズギャズギャズギャズギャズギャズギャン!

「あひぃいあああああああああああああ!!」



 次の日。


『えー、本日出場予定でしたリブラ侯爵夫人ですが、その……事故によって大怪我を負ってしまわれたようで、出場を辞退するとの事です』


 ザワザワ……


「……リファリスゥゥ……」

「だから言ったではありませんか。フラグは実在するのだと」

「今回はリファリス自らの所業じゃないの!」


 いえ、それを含めてのフラグなのです。


『ですので、決勝出場者はリファリス選手と、今回不戦勝となりましたイジリ選手との対戦となります』


 イジリ選手? いかがわしい名前ですわね。

やはりフラグは強かった。


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