試合後の撲殺魔っ
「案外呆気なかったですわね」
舞台の真ん中で股間を押さえて泡を噴いているクルセイド様を介抱しながら、思わず呟いてしまいました。
「聖女様、クルセイド殿は過剰な罰を受けられたのです。憐れんであげて下さい」
近くにいらっしゃる審判さんが応えて下さいました。すいません、独り言だったのですが。
「え、ええ。少々力が入ってしまいまして……」
一時間程前の事じゃ。
『審判さーん、こちらに構わず始めちゃって下さーい』
「分かりました。では両者、武器を構えて」
シャインッ
クルセイド様が細身の長剣を抜かれます。柄には聖心教のモチーフが象られていますが……。
「ま、まあ、いいでしょう」
わたくしもトンファーを両手に持ち、構えて待ちます。
「では、始め!」
「はああああっ!」
審判さんの掛け声と同時に、クルセイド様が突き込んできます。
「北風突き!」
はい?
「ぴー、ぷー!」
シュバババババ!
「え、あ、きゃ!」
ガギギャリギン!
は、速い! 何ですの、この高速突き!?
「ぴー、ぷー!」
シュバババババ!
か、掛け声にいろいろ突っ込みたいところですが、今はそんな事を言ってられません!
ギャギンガガガッザクッ!
「うぐっ!」
左腕に一撃頂いたと同時に、クルセイド様が距離を空けられます。
「左腕は……使えそうにありませんわね」
痛みはすぐに抑えましたが、筋肉を深く傷付けられましたので、全く動く気配がありません。
「はっ、はあ、ひゅー、はあ、ひい、はあ、はあ……」
クルセイド様は…………わたくし以上にグロッキー!?
「はあ、はあ、ひい、ふう、はあ」
まあ……あれだけの速さの突きを放ち続ければ、当然息も上がりますわね……。
「はあ、はあああ、ひいい……」
「……あの、審判さん。クルセイド様、水をあげた方が宜しいのでは?」
「いえ、試合中の飲食は禁止です。過去に水に混ぜたポーションを摂取していた例がありますので」
いろいろと不正の手段はあるものですわね。
「ならば、今はチャンスですわね」
左腕は動きませんが、戦えない訳ではありません。
「やあああっ!」
「はあ、はあ、くっ!」
ガギィィン!
トンファーでの一撃を、ギリギリで受け止められます。
が。
「わたくしの一撃を、そんな細身の剣で受け止められまして!?」
「ぬ、ぬうう!」
ギギギギギ……ミシィ
刃が歪んで悲鳴をあげています。
「たああああ!」
「くぅぅぅ……!」
ミシミシミシ……ビキ! バキィィン!!
「なあっ!?」
剣が折れたのと同時に、わたくしは一旦距離をとりました。
「審判さん、武器が壊れた場合はどうなりますの?」
「選手次第です。そのまま降参するか、素手で戦闘続行するか」
「……どうされますの?」
そう言われたクルセイド様は、ニッコリと笑い。
「無論、続行するよ。君の一撃はズシンと来たからね」
ズシンと、ですか。あまり女性には言わない方が良いですわよ。
「ソードスキル『再生』」
え?
「主よ、再び奇跡の再現を!」
そう言ってクルセイド様は一旦剣を鞘に戻し。
「我が祈りよ、届け!」
両手で聖心教のモチーフを形作り、ポーズを決められ…………うわあ。
「あれ、確かに聖心教で祈りを捧げるポーズなのですが……」
聖心教のモチーフは、所謂ハート。つまりクルセイド様は、自らの手でハートの形を作り、美少女が決めたら可愛らしいであろうポーズをして祈っているのです。
「わたくしですらも忌避している祈りポーズを、ああも堂々と……」
間違い無く、試合会場はドン引きしています。
パアアア……
鞘が輝き、奇跡の光が降り注ぎます。これは……聖属性の魔術効果?
「……完了」
シャインッ
再び抜かれた細身の剣は……しっかりと元に戻っていました。
「さあ、試合再か」
「ストップ! ストップですわ!」
「な、何だ?」
突然試合を止められた事に戸惑われているようですが、これは止めない訳には参りません。
「審判さん、今のは魔術ではありませんか?」
「え?」
「あの効果、どう考えても聖属性の魔術ですわよ」
魔術の使用は禁止されています。つまりクルセイド様は、堂々と反則なさったのです。
「ち、違う! あれは剣のスキルであって、魔術では無い!」
「魔術もスキルも禁止だった筈では?」
「剣自身のスキルであって、私個人が使っている訳では無い!」
その理屈が通るんでしたら、呪具を使い放題のリジーが負ける筈がありませんわ。
「はい、確かに。クルセイド選手に警告を与えます」
「なっ!?」
「もう一度使ったら、即失格となりますので」
「くっ!」
これでクルセイド様は後が無くなりました。もう一度武器破壊すれば、わたくしの勝利です。
「あー、それより」
試合再開……の筈ですが、審判さんの様子がおかしいです。
「あー、聖女様……その……」
盛んに下を見るよう促す審判さん。
「……?」
見てみますと…………あああ!?
「あの、先程の突きが掠ったのでは?」
法衣が避け、胸が完全に……!
「きゃあああああああああああ!」
ギュン! ズドォン!
「うごぉほう!?」
……つい、怒りに我を忘れてしまい……手加減一切無しで蹴り上げてしまいました。
「審判さん、何か二つのものが潰れた感触があったのですが……」
「……主よ、クルセイド殿に憐れみを……」
オッサンのクルセイドが、両手でハートポーズ。想像してみましょう。




