上機嫌な撲殺魔っ
「ふう……〝死神〟と謳われる方でしたが、そこまで苦労せずに勝てましたわ」
法衣を取り出して着替えている途中、完全に油断していました。
「まぁだだよ、キヒヒヒヒヒヒヒ!」
「っ!?」
バサッ
背後から聞こえた声に、着かけていた法衣を思わず投げつけてしまいました。
「ケヒヒヒ、聖女様の良い匂いがするぜぇ! ケヒヒヒ、ケヒヒヒヒヒヒヒ!」
ほ、法衣を頭から被って、猛り狂う変態さん……!
「天誅!」
バガッ!
「ケヒ!?」
「天罰!」
メキャ!
「クヒ!」
「滅殺! 抹殺! 撲殺!」
バキャグシャゴシャア!
ドザァ!
「はあ、はあ……」
……や、殺ってしまいましたわ。しかも着替えをボロボロにしてまで。
「……こひゅ……ケヒ」
……え?
「こひゅー……こひゅー……ケヒ、ケヒヒヒ、ケヒヒヒヒヒ!」
そ、そんな! 頭蓋骨を砕いたのに、まだ生きているだなんて……?
「良い打撃だったぜえ……頭を砕かれるのも、たまにはいいもんだあ」
「……えい」
バキャア!
「ぎぇひぃ!?」
「まだ完全に治ってませんわね。えいえい」
バキャバキャバキャグシャゴシャグチャア!
ドシャア!
もう一度砕いてみましたが、これで修復するのでしたらアンデッド確定です。
ビクビク……ピクッ
グググ……
「……ク、クヒヒヒヒヒ……俺、復活だぁ」
確定。
「聖心教において、アンデッドは存在を否定された者です。それは知ってますわね?」
「無論だぁ」
「なのに、何故このような暴挙を?」
「ケヒヒヒヒヒ、暴挙? 何が暴挙だぁ?」
「貴方、聖心教を敵に回すおつもりで?」
それを聞いたデスサイズ様は一瞬キョトンとした後、身体をブルブルと震わせ。
「ク、ククク…………ク、クヒヒヒヒヒ……ケヒ、ケヒヒヒ、ケヒヒヒヒヒヒヒ!」
盛大に笑い始めたのです。
「……デスサイズ様、何が可笑しいんですの?」
「ケヒヒヒ! い、いやあ、聖女様がとんでもない勘違いをなさっているから、ケヒヒ!」
勘違い、ですって?
「……貴方はアンデッドでは無い、と仰りたいんですの?」
「ケヒヒヒ! そうだ、その通りだ! 俺はちゃああんと聖心の洗礼を受けた、正真正銘の聖心教徒だぜぃ!」
そう言って懐から取り出したのは、聖心教のモチーフを象ったペンダント……所謂「聖心の証」でした。
「……失礼します」
魔術によって「対アンデッド術式」を確認しますが……本物ですわね。聖心の証にはアンデッドをはねのける術式がかけられていています。つまり、アンデッドの炙り出しに使われているのです。
「…………」
「…………」
目が合った客席のリブラは、プイっと視線を逸らしてしまいました。細工された聖心の証で周りの目を誤魔化しているのが心苦しかったのでしょう……無論、細工したのはわたくしです。
「ケヒ?」
「何でもありませんわ。ちなみに、貴方は何なんですの?」
「ケヒヒヒ、スライムと人間のハーフさね。ケヒヒヒ!」
モンスターハーフですか。これはまた、妖精族以上に珍しいですわね。
「成る程。スライムとのハーフでしたら、打撃攻撃が効かない訳ですわね」
「キヒヒヒヒヒ! この軟体性で忍び込めない筈の場所にも忍び込める! 暗殺者にはうってつけの身体なのさ!」
「つまり、どれだけ殴っても死なないのですね?」
「そうだ、キヒヒヒ!」
……うふ……うふふふ……うふふふふふ!
「良いわあ……とおっても良いですわああ!」
「キヒ?」
「審判さぁん、わたくしの勝ちを申告されましたわよね?」
突然話を向けられた審判さんは、多少戸惑いながらも。
「は、はい。聖女様の勝ちは間違いありません」
「そうですか、ではデスサイズ様。この後、ゆぅっっくりお話ししませんか?」
「……ケヒ?」
「では、休憩の後、次の試合となります」
リファリス、あの死神を引き摺って出て行ったけど……どこ行ったんだろ?
「リブラ」
席を立とうとした時、リジーに声を掛けられた。
「リブラ、気になる?」
「な、何が?」
「リファリスの事、気になる気になる?」
「そりゃあ……死神と一緒だなんて、気が気じゃ無いし」
「だな。だったら、俺に黙って付いてきな」
スキップしながら死神を引き摺っていくリファリス。
「らんららららら~ん♪」
「ケヒ、痛い! 痛いってんだよ!」
「あんだけ浮かれてるんなら、気配消す必要は無いな。一定の距離を保って歩くか」
確かに……浮かれてるわね。あんなリファリス、撲殺する寸前の時くらいしか見た事…………あ。
「いくら殴っても死なない身体……つまり、どんな事をしても……」
「どうかした、リブラ?」
「いや、あの、もしかしたら…………リファリス、秘密の部屋を……」
「「……あ」」
「あっははははははは! 殴っても死なない身体! 最高ですわあ!」
ボガッ!
「ぎゃひ!? ちょ、ちょっと待っ」
バギャ!
「ぐぇひぃ!」
「この角度は?」
メキャ!
「ひぎゃあ! や、止め」
「この速さなら?」
グチャ!
「ぐぎゃあ!」
「あは、あははは、あはははははははは! 実験が捗りますわ! 最っ高、本当に最高ですわあ! あっははははははは!」
「「「や、やっぱり……」」」
この後、死神は暗殺者から足を洗ったそうじゃ。




