初戦な撲殺魔っ
「聖女様ーっ! 聖女様はいらっしゃいませんかーっ!?」
あら? わたくしを探していらっしゃるのは……。
「はい、何でしょう」
「え? あ、貴女は?」
「わたくしですわ」
「え……え? だ、誰ですか?」
ん……あ、そうでした。わたくし、変装中でしたわ。
「『解除』」
パアアア……
「え……なななな何故に聖女様がそのような破廉恥な格好を!?」
破廉恥とは失礼な。
「この服は売り子さん達の正式なユニフォームですわ。それに対して破廉恥だなんて……」
「あ、い、いえ、売り子の方々を馬鹿にしている訳では…………そ、それより聖女様! 早く来て下さい!」
「どうかしまして?」
「聖女様の番なのです!」
わたくしの番って…………あああ!?
「もう試合ですの!?」
「あと五分程で始まりますので、急いで下さい!」
う、うっかりしてましたわ!
責任者の方に断りを入れてから、舞台まで急ぎます。
「も、もう時間がありません! 聖女様、申し訳ありませんがその格好で出場して下さい!」
「えええ!? き、着替える時間もありませんか!?」
「もう対戦相手はスタンバイしています! 流石に試合開始時間を延ばす訳にはいきません!」
ううう……し、仕方ありません。試合を忘れていたわたくしが悪いのですから……。
『続きまして、東ゲートより〝聖女〟リファリス選手の入場です!』
「にゅ、入場のコールがああ!」
……ならば!
「『加速』!」
パアアア……
「ごめんあそばせ、ごめんあそばせ、ごめんあそばせええ!」
「きゃ!?」「わ!」「ひゃい!」
高速で人の間をすり抜け、目指す東ゲートへ一直線、ですわ。
『……? リファリス選手、どうかしましたかー?』
「はいはいはい! 今すぐに出ますわああ!」
ダダダダダダダダズザザザザーーッ!
『あ、リファリス選手が出てこられ……な、何故に売り子の格好!?』
聞かないで下さいまし!
『と、とにかくリファリス選手も到着されましたので、試合可能となりました。審判、お願いします』
「あ、はい……聖女様、本当にその格好でいいんですか?」
「……着替えてくる時間を頂けますの?」
「無理ですね」
「なら仕方ありませんわ」
「……分かりました。では両者、武器を」
「キヒ、キヒヒヒ」
対戦相手は不気味な笑い声を上げながら、短剣を両手に握ります。
「……貴方は……デスサイズ様ですか?」
「キヒヒヒ、聖女様に名前を覚えていてもらえるとは、キヒ、光栄だねぇ」
「覚えてますわよ。わたくしを狙った事がありましたでしょう?」
「キヒヒヒ、そうだったかねえ」
胸の谷間からトンファーを取り出し、構えます。
「では、始め!」
ワアアアアア!
……数年前に教会に襲撃してきた時と、殆ど変わっていないようですわね。
「キヒヒヒ、い、行くよ」
スタァァン!
っ!?
ガギィィィン!
「くっ!」
「へえ……よく受けられたねえ」
「たああ!」
ズガッ!
「ケヒ!?」
トンファーで受け流し蹴りでダメージを与える……という黄金パターンは完璧です。
「ケヒ、ケヒヒヒ。流石は聖女様、以前よりも手応えあるねえ」
「…………」
「だけど聖女様、いいですかねえ。ケヒ、ピンクですねえ」
ピンクって…………えええ!?
「そんな短いスカートじゃ、見えて当然ケヒヒヒヒ!」
スタァァン!
再び襲いかかってくるデスサイズ様に、トンファーで応戦。再び蹴りを……。
「見えますって」
「っ!!!?」
聞こえた呟きに、思わず蹴りを躊躇してしまいます。
「隙ありぃ!」
ザシュザシュザシュ!
「くっ!」
その一瞬を突かれ、背中に斬撃を浴びてしまいます。
「キヒヒヒ、乙女の柔肌の感触、いいねえ」
痛みは『無痛剣奏』で感じる事はありませんので、傷自体は支障はありませんが……。
「ふ、服が……」
ビリ……ビリリ……
糸が三本だけで、どうにか繋がっている状態です。下着は完全に切られました。
「へ、下手に動いて胸が揺れたら、確実に切れますわね……」
「キヒヒヒ、いいものが見られそうだ……ね!」
ビシュ!
「な、短剣を……くっ!」
流石に頭に刺さったら致命傷です。咄嗟に避けて……。
ブチィ!
「うぅ……!」
服が……!
「キィヒヒヒヒ! こりゃ良い眺めだ! キヒヒヒヒヒヒヒ!」
はあ……またですわね。
「キヒヒヒ……ヒ? 聖女様、隠さないんで?」
「隠しながら戦えませんでしょ?」
「は、恥ずかしくないんで?」
「恥ずかしいですわ。ですが」
メキャ!
「グゲヒ!?」
「そんな泣き言、戦いの最中に言ってられませんわよ!」
トンファーがデスサイズ様の右頬にめり込みます……が、まだ致命傷には程遠いです。
「ならば」
メキィ!
「ぼごっ!」
「何発も」
グギィ!
「ぶぎゃ!」
「当てれば」
ボキボキィ!
「けひゃ!」
「致命傷に」
グチャゴチャ!
「ぐふっ」
「至る筈、ですわ!」
ぐしゃあ!
「あ、あの、リファリス選手……」
「はい……あら」
ピシュウウゥゥ……
半分潰れたデスサイズ様の頭から噴き出す血の噴水で、ようやく我に帰りました。
「あ、あら、とっくにお亡くなりになってましたのね……」
「え、えーっと、勝者リファリス選手!」
ワアアアアア!
……ビシャア
歓声に押されるように倒れたデスサイズ様を見ながら、今更感はありますが、両手で胸を隠しました。
死神、あっさり退場?




