売り子をする撲殺魔っ
「あ、居た居た」
「探し回ったであ~る」
お花摘みでリブラが席を外している間に、モリーとリジーが来ました。
「あら、教会は大丈夫ですの?」
「ああ、務めはちゃんと果たしてきたぜ」
「奉仕もお祈りも1/3くらい省略ぐふぇ!」
「姉御、余計な事言うな!」
……ふ~ん……省略したのですか……。
「……二人とも」
「「は、はい!」」
「省略した1/3は、この会場にて消費して頂きます」
「「えええっ!?」」
「……黄色いお花畑を越えたいですか?」
「「…………消費します」」
「手伝える事は無いかって?」
「はい。無論、無償でさせて頂きます」
「無償でって……」
最初は会場のお掃除を……と考えていたのですが、観戦中の皆様の邪魔になってしまいますので、運営のサービス部門に問い合わせてみる事にしました。
「しかし……あんた、聖女様だろ?」
「聖女と呼ばれるのは不本意なのですが、一応そうです」
「つまり、まだ試合が控えてるんだろ?」
「わたくしはそれまでのお手伝いなのですが、弟子の二人が」
ドンヨリとした空気を醸し出す二人を指し示します。
「最後までお付き合いします」
「……つまり、お弟子さんにとっての、修行の一環だと?」
「そうですわ」
大半は罰なのですが、修行みたいなものではありますし、間違ってはいません。
「まあ、そういう事だったら……人手不足だからありがたい限りだしな」
人手不足。でしたら尚更奉仕し甲斐がありますわ。
「今一番人手が欲しいのは売り子なんだ」
「売り子……ですの?」
「ああ。枢機卿猊下からの依頼で、剣聖祭を盛り上げる為の企画でな、あーいう格好の売り子が客席を回ってるんだが」
責任者の方が指差した先には、飲み物を売っている女性が見えるのですが……。
「あ、あの格好ですの!?」
「ああ。なかなか刺激的な格好だろ」
し、刺激的というレベルですの!?
「ちなみに、考案者も枢機卿猊下だ」
ルディィィ!
言い出した手前、断る事もできず……。
「お、お酒は如何ですかー?」
上下セパレートのミニスカ衣装を着る羽目になったわたくしは、正体がバレないように魔術で髪色を変え、声を張り上げます。
「姉ちゃん、酒くれ」
「は、はい、ありがとうございます」
背負ったタンクから伸びるノズルを握り、紙コップに麦酒を注ぎます。
「あっととと、溢れる溢れる」
「あ、申し訳ござい……ご、ごめんなさい」
いつもの口調では違和感がありますから、少しフランクな物言いで。
「ど、銅貨二枚です」
「はいよ、ほらよ」
「あ、ありがとうございます~」
銅貨を胸の谷間に仕舞い、再び声出し。今のところはバレていませんし、なかなか好調な売り上げです。
「新入りさん、上手いわね」
「あ、ありがとうございます……」
先輩の売り子さんに誉められますが、聖職者という立場上、喜んでいいのか複雑です。
「羨ましいわあ、そのスタイルの良さ。普段からエステ通ってたり?」
「い、いえ、自己研鑽です」
「自己研鑽って……どう研鑽すればボンキュッボンの見本みたいになれるのよ」
括れに関しましては、普段の奉仕作業が活かされています。ですが胸は…………よく分かりません。
「いいなぁ、私ももうちょっと細くなりたいのよ」
「……充分に細いですわよ?」
「何それ、嫌み?」
「あ、いえ。わたくし……私も悩んでいる箇所はありまして」
そう言って二の腕を掴みます。
「ここだけがどうしても……」
「ああ、分かる分かる!」
「……先輩は締まってますわね……」
弛みの無い二の腕。永遠の憧れが目の前に。
「ああ、これはね。こういう動きを意識的にすれば」
え、えええ!? それだけでいいんですの!?
「一ヶ月くらいで効果が出るわよ」
「あ、ありがとうございます! 早速今夜から試してみますわ!」
これこそ主の思し召しですわ!
「でさぁ、できれば貴女の括れの秘訣、教えてもらえない?」
え、括れの秘訣?
「これはおそらくなのですが、このようなポーズをしながら、こうやって」
「え、そんな事してるの!?」
お祈りの際、背中が痒かった時に自然になった体位なのですが、思いの外気持ち良くて、奉仕中にたまに行っているのです。
「な、成る程。これは確かにお腹に効果ありそうだわ。ありがとう、早速やってみるわ!」
思わぬところで、思わぬ交流が生まれました。
「ふう、完売ですわ」
タンクの中身が空になりましたので、補充に戻ります。
すると、廊下の途中に。
「「…………」」
「…………」
コソッと隠れているリジーとモリーを見つけました。
「……何をしているのです?」
「「……瞑想」」
……その格好で、ですの?
「今回は売り子の奉仕ですのよ?」
「い、いや、こんな格好で歩き回るなんて考えられない!」
「隠すものが少なすぎると思われ!」
「それも修行の一環ですわ。羞恥心の克服が貴女方の課題ですから」
「羞恥心の克服!?」
「つまり露出狂になれと!?」
極端ですわね!
「時には恥ずかしいという思いを我慢しなければならない時もあるのです」
「「それが露出狂じゃないの!?」」
「……つまり、わたくしが露出狂だと言いたいんですの?」
「それは違う!」
「露出狂とは違う世界でビキニアーマーを普段着にしてる人を言う!」
……誰ですの、それ?




