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観戦中の撲殺魔っ

『それでは、第一試合を開始致します!』

 ワアアアア!


 ……あら?


「リブラ、組み合わせの抽選は、いつされましたの?」


「ブロックごとに組み合わせがもう決まってるの」


「では、第一ブロックと第二ブロックの代表が、第一試合を?」


「それもランダム。発表されるまで、誰も分からないのよ」


 な、何て秘密主義な。


「第一試合は…………ヤム・ラム選手対クルセイド選手の対戦です!」

 ワアアアア!


「あらあ、ヤム・ラムとクルセイドかあ……」


「リブラは当然知ってますわよね?」


「まあね。両方とも対戦した事あるし、どっちにも勝ってる」


「実力はどうですの?」


「うーん、まともに戦えばクルセイドの勝ち、場合によってはヤム・ラムの勝ち」


「場合によっては?」


「ええ。ちょっと時間はかかるんだけどね、ある行程を越えられるとヤム・ラムは強くなるのよ」


「よく……分からないのですが」


「百聞は一見に如かずって言うし、まずは見てみたら?」


 ……分かりました。



「テケリ・テリ! テケリ・テリ!」

 ズンドコズンドコズンドコドッコ!


 舞台の下では、ヤム・ラム選手の応援団らしき方々が、太鼓を鳴らして踊り狂っています。


「あれがテケリ・テリの集団奥義『戦いのドラム』よ」


「……待って下さい、集団奥義?」


「ああ、リファリスはテケリ・テリを知らないのね」


 ええ、全く存じ上げませんわ。


「あいつら、武刀集団って言われててね」

「武刀? 舞踏ではなく?」

「ええ。舞踏にかけてるんだと思う」

「で、それがどうかしまして?」

「あ、うん。要はあの『戦いのドラム』をちゃんと最後まで演奏しきると、ヤム・ラムは普段の数倍強くなるのよ」


 …………はい?


「何ですの、それ? どういう原理ですの?」


「よく分かんない。あいつら、何を聞いても『テケリ・テリ』としか答えないし」


 い、色々と奇抜な方々ですわね。


「ですが、明らかに聖心教を信仰されているようには見えませんわね」


「そりゃあ、ね。噂だけど、テケリ・テリは邪神を祀ってるって言われてるくらいだし」


 邪神……ですか。



 ズンドコドッコズンドコドッコ!

「テケリ・テリ!」

「「「テケリ・テリ! テケリ・テリ!」」」


 ……もう十分は経っていますが……。


「まだ終わりませんの?」


「私も一回興味本位で、終わるまで待ってた事があるんだけど……一時間くらいかかるよ」


 い、一時間!?


「確かに強くなったわ。私でも結構苦戦したから」


 ……い、一時間も、普通は待ちませんわよね……。


「つまり、今攻撃されたら?」

「間違い無く勝てるよ」


 成る程、普通に戦えばクルセイド選手が勝つとは、そういう事ですか。


「だけどね、それやっちゃうと後から面倒なのよ」

「……と、言いますと?」

「あいつらにとっては神聖な儀式だから、邪魔されたら絶対に許さないのよ」

「えーっと、つまり?」

「試合終了後から命を狙われる」


 確かに面倒ですわね。


「そうなったら最後、殺されるか再戦するかのどちらかを選ぶまで、しつこくしつこく襲われるのよ」


「再戦を選びますと、また『戦いのドラム』を?」


「そうなるわね」


「……それはつまり、戦いのドラムという儀式が終わるまで、待つしか無いのではなくて?」


「いや、抜け道はあるの」


「抜け道、ですの?」


「うん。十五分経ったから、そろそろかな」



 ジャキン!


「ヤム・ラムよ! 私と勝負して頂こう!」

 ズンドコドッコ……

「………………テケリ・テリ」

「「「テケリ・テリ!」」」



「……あら? 戦いのドラムが止まりましたわね」


「テケリ・テリの掟らしいんだけど、例え重要な儀式の最中だろうと、戦いを挑まれたら受けなくちゃならないの」


「重要な儀式……つまり戦いのドラムも?」


「そう。大体十五分くらい経てば太鼓の音が大人しくなるから、そこで宣戦布告するのが一番ね」


「つまり……強くなっていない状態で戦える、と?」


「そう。こうなると、実力では上のクルセイドが圧倒的に有利だから……」



「テケリ・テリィィ!」

「はああっ!」

 ギャギィン!

「たあ! とああ!」

 ギィン! ガギィン!

「テ、テケリ・テリィィ!?」

「貰った!」

 ザン!

「テリィィ…………っ」

 ドサッ


「勝負あり! 勝者、クルセイド!」

 ワアアアア!



「……ね?」


 まあ……見るからに順当な実力差でしたわね。


「真剣勝負で負けた際は恨みっこ無しみたいで、あいつら何もしてこないわ」


「……しかし、テケリ・テリとしか言わない方々から、よくそんな攻略法を見つけましたわね」


「見つけたのはライオンジジイよ」


「ライオット公爵様が? それって……」


「ええ。間違い無く『千里眼』『順風耳』を使ったんだと思う」


「……卑怯と言うべきなのでしょうか。それとも、戦いは情報から……とフォローすべきでしょうか」


「ま、似たり寄ったりな事してるんだから、別にいいんじゃない?」


「似たり寄ったり?」


「あいつら、男ばっかじゃない」


「ええ」


「儀式の一つに、裸の女性を【いやん】するってのがあるんだって」


 っ!!!?


「見るだけじゃなく実行までしてる分、あいつらの方が質が悪い……あれ、リファリス? どこ行ったの、リファリスー?」



 ぐ、ぐふ……はあはあ。死にそうじゃが意地で登場じゃ。

 こ、これより三日後、路地裏にて、瀕死の状態で放置されたテケリ・テリが見つかったそうじゃ……はあはあ、鈍器で殴られたような傷があったそうじゃが、ぐぶ、はてさて……。

テケリ・テリは某邪神神話の、某山脈に出てくる某スライムの鳴き声のオマージュです。

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