開会式と撲殺魔っ
『国王陛下の御成ぃぃ』
ダララララ……ジャン!
……何故にドラムロールなのでしょうか? そう思いながらも、片膝を着きます。
『皆の者、立って良いぞ』
拡声魔術により、会場の隅々まで陛下のお声が響きます。
『今回の剣聖祭、実は楽しみにしておった。何故なら、ライオットの奴めが欠場しおったからだ』
楽しみ……ですか。
『いつまで経っても奴の一人勝ちが続く剣聖祭は、もう飽きたのでな』
重臣からは忍び笑いが聞こえてきます。まあ確かに、毎年毎年同じ方が優勝していては、面白味に欠けますわねぇ。
『いよいよ訪れた世代交代の機会、誰もが逃さないように精進する事を望む』
そう仰った陛下は、次に出場者一人一人に語りかけ始められました。
『リブラ侯爵夫人……先代の訃報には我も驚かされたと同時に、惜しい人物を失ったと心を痛めるばかりだ』
「勿体無き御言葉、姉も喜んでいます」
目の前に居るのが先代本人だとは、思いもしないでしょうね。
「その後、亡き姉の為に聖女に弟子入りして供養しながらも、リブラ侯爵夫人の責務も果たしていると聞く」
「え……」
あら? 現リブラ侯爵夫人とわたくしの弟子は、別々の存在としている筈ですが。
「へ、陛下、聖女様に弟子入りしておりますは、私の妹でございまして」
「ほう?」
「亡き姉はリブラ・リブラ、私はラブリ・リブラ……つまりリブラ侯爵夫人、そして妹のブラリ・リブラでして」
『うむ……?』
「その……実は私、双子でございました」
『何と、双子とな』
「はい。ですので妹の方が出家し、聖女様の弟子となっていたのでございます」
『そうか……そのような事情があったとはな』
「はい。今まで双子がいた事を伏せていました。どうか我が罪をお許し下さい」
『それには及ばぬ。双子を軽んじる悪習に早々に手を打たなんだ、我の責任である。リブラ侯爵夫人が双子であった事でその地位に異を唱える事、我は決して許さぬとここに宣言しよう』
おおお……!
貴族の方々からは感歎の声が響いてきました。リブラの立場がここで公認されたのです。
『リブラ侯爵夫人、今回が初出場となる訳だが、優勝候補筆頭である事には変わりない。その力、存分に振るってくれ』
「はい!」
これでわたくしの弟子であるリブラの存在が公認されました。宙ぶらりんな状態でしたから、これは嬉しい誤算です。
『続いて……〝死神〟か』
「きひ。お久しゅうございますな」
『……相変わらず無意味に人殺しをしておるのか』
「殺人はわたしにとっては、皆様方が息をするに同じようなものでして」
『……前回、罪人に留めよ、と命じた筈だが?』
「きひ、ちゃあんと守っておりまする」
『ならば何故に実況を殺害したのだ?』
「きひひ、あの者は公金横領犯ですので」
『何……?』
「後から証拠も提出させて頂きます、きひ」
『……分かった。その証拠とやらを見聞した後に、追って沙汰する』
「はは~……きひひ」
……死神……ですか。不気味な方ですわね。
その後も一人一人と会話をなさり、そして最後。
『さて、聖女殿。久しいな』
わたくしの番です。
「お久し振りでございます、陛下」
『……まさか聖女殿が、剣聖祭に出場されるとは』
色々あったんです、色々と。
「全ては主のお導き。おそらくは、誰も死者を出す事が無いように……という御啓示なのでしょう」
『耳が痛い。我も色々と気を付けてはいるが、剣聖祭はどうしても血が流れるもの。犠牲者が出ている事は遺憾であるが、これも武を極めんとする者達の定めであるのかもしれん』
「それでも、流れる血は少ない方が宜しいかと」
『違いない。では聖女殿、今回は其方の全面的な協力を期待させてもらうとしよう』
「微力ながら、全力を尽くしますわ」
『うむ…………それと聖女殿、我が娘が』
「お断り致します。断じてお断り致します。全力でお断り致します」
『そ、そうか…………では以上だ』
あ、危なかったですわ……! ま、まさかマリーゴールド殿下がいらしてるなんて……!
『お姉様ああああ!』
「ひぃ!?」
『衛兵、娘を黙らせよ』
「「はっ」」
『お姉様はどちら!? お姉様、お姉様!!』
「姫、こちらへ」
「殿下、恥を晒してはなりません」
『は、離しなさい! 離して! 離せ!』
「「失礼致します」」
バギドガボゴォ!
『痛いい……だ、だけど、この痛みも……ス・テ・キ☆』
ゾクゾクゾクゾク!
「ああああ、鳥肌が、じんましんが、ああああっ」
『……我が娘ながら……何と言うべきか……』
微妙な空気の中でセレモニーは幕を閉じ、わたくし達出場者は控え室に案内されました。
「あ゛あ゛あ゛……まさか会場にマリーゴールド殿下が……」
せっかくの撲殺気運に水を差された気分です、はあ。
コンコン
「ひぃ!?」
『私よ、リブラよ』
リ、リブラですか……ホッ。
ガチャッ
「驚かさないで下さいまし」
「あははは……どうかなっと思って様子を見に来たんだけど……やっぱりか」
はい、やっぱりですわよ。
「相変わらずみたいね、マリーゴールド殿下」
全くです。
「で、リファリスには悲しいお知らせよ」
「はい?」
「優勝した場合、マリーゴールド殿下からの花束贈呈があるって」
わざと負けます、絶対に。
遅くなりました。




