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決勝トーナメントと撲殺魔っ

 ポンッ ポポンッ


 花火が打ち上がり、会場のボルテージは最高潮に達します。


『これより、剣聖祭を開催致します』

 うおおおおおおおおっ!


 淡々とした進行ですが、それでもボルテージは上がるばかり。


『では、決勝トーナメントの出場者は、前へ』

「皆さん、入場しますので用意して下さーい」


 入場する為に一列に並びます。わたくしは……二番目ですわね。


「では一人目、入りまーす」



 ぐふ、げふ……はあ。ようやくベッドからの『千里眼』『順風耳』の許可が下りたわい。

 流石にワシでも剣聖祭に出られなんだのは悔しいからの。来年からの傾向と対策の為にも、しっかりと観ておかねば。


『決勝トーナメント出場者、入場』


 お、開会式のようじゃな。


『まずは』

 プシューーッ!


 な、何じゃ!? 入口から吹き出した白い煙は!?


『北方戦線の若き勇……その剣裁きは虹をも斬り断つ!』


 虹を斬る剣って何じゃ!?


『第七ブロック代表、〝虹断〟の~……クゥルスェェェェェィィィィドゥオオオオオオオオオオ!!』


 誰じゃ!? 〝虹断〟とかクゥルスェィドゥオなんて知らんぞ!


「ど、どうもどうも」


 …………何じゃ、北方警備隊のクルセイドか……いつの間にか〝虹断〟なんて二つ名が付いたのじゃ?


「な、何かすんません、私ですんません」


 登場の演出とヘコヘコするクルセイドの態度が噛み合っておらんのじゃが……。


「あ、どもども」


 もっと堂々とせんかい! 前回ワシに一太刀浴びせた時の勇姿はどこに行ったのじゃ!


『続きまして……第二入場者は……』


 第二入場者て。


『大司教猊下の懐刀……』


 懐刀!? 聖心教にそんな物騒な奴おったかの?


『ルーディア枢機卿猊下の好敵手……』


 好敵手!? 争いを嫌う聖心教で好敵手などあり得ぬ筈じゃが?


自由騎士団(フリーダン)前団長を実力でねじ伏せ、現団長となった猛者……』


 …………いや、待て。まさか、まさか!?


『セクシーダイナマイツシスター、〝聖女〟リィィィファァァァリィィィスぶべばぼきょ!?』


 ぶ、ぶべばぼきょ?


『あ、えーっと、実況に代わりまして、解説が解説します』


 はあ?


『聖女様の紹介文を読んでいた折、突然モーニングスターが飛んできて、実況を瞬殺した……と言う状況です』


 シスターじゃ。絶対に犯人はシスターじゃ。


『ええっと、代読しますひぃぃ!? な、何故か再びモーニングスターが!?』


 絶っ対にシスターの犯行じゃな。


『や、やはり代読しません! 静かに入場を見守りましょう!』



 その後、シスターが舞台に上がるまでの間、真に静かなもんじゃった。



『え、はい、続きましては、第一ブロック代表の』

 ズンドコドッコズンズンドン!

『わっ! な、何だぁ!?』


 ああ、この派手な入場曲は……ヤツじゃな。


 ズンズンズンドコズンドコドッコズンズン!


『え、えっと? 半裸の男性が、太鼓を鳴らしたり松明を振り回したり、えっと?』


 ドンドコドンドコズンズンズン!


『あー、選手らしき方が入場してきました……えっと、ヤム・ラム選手?』


 南の島の武刀集団テケリ・テリの首領じゃな。


『大振りの首刈刀を背に、独特なリズムに乗って入場してきます』


 危うい刃を振るうヤツでの、自らの命を省みずに突っ込んでくるのじゃ。しかもテケリ・テリ自体がそれを推奨しているものじゃから、誰一人止めようともせぬ。厄介なヤツじゃ。


『は、ははは……賑やかな入場でした。続きまして』

 フッ

『なっ!? 場内の明かりが消えて』

 スゥ……

『ひぃ!?』


 ああ、〝死神〟じゃな。相変わらず悪趣味な入場をしよる。


『人の命は儚きかな、儚きかな……きひひひひひ』

『い、今私の背後にいらっしゃるのがデスサイズ選手、通称〝死神〟で』

『はい、一デス』

 ざくっ

『ぎゃああああ!』

『きひひひひひ……』


 まーた入場中に人殺ししおって。


 パアアア……

『……うぐ、げふ! わ、私は一体……?』


 今回はシスターが居ってくれて助かったのじゃ。前回は大騒ぎになったかのう……。


『え、えーっ、続きまして、次は近衛騎士団より、ハイゼル副団長が参加されます』

 コツコツコツコツコツコツコツ

 カッカッカッ

 ……スタッ

『……普通でした』


 いや、それが一般的な入場なのじゃ。今までがおかしかったのじゃ。


『えー、続きまして……』


 ここから先は詰まらぬ……いや、普通の入場が続いていき。


『そして! そしてそして、そしてえ!』


 この解説、少し実況が混じってきたのう。


『最後に入場されるのが、優勝候補筆頭であられたリブラ・リブラ侯爵夫人……の、跡を継がれた妹のラブリ・リブラが現在リブラ・リブラ侯爵夫人を名乗っておられますので』


 そうじゃったな、首だけ令嬢は妹の名を借りておったの。


『やっぱりリブラ・リブラ侯爵夫人です!』


 結局リブラ侯爵夫人なのじゃから、始めからそう言えばよかったのでは?


 ワアアアアアア!

『流石に優勝候補筆頭、大人気です!』


 そうじゃったそうじゃった。首だけ令嬢め、毎回ワシより人気じゃったな……!


『……はて、どこからか卑しいジジイの僻みが聞こえたような……?』


「あら、本当に聞こえますわね」

 な、何じゃ!?

「あれだけ念入りに撲殺しましたのに……ゴキブリ並みにしつこいですわ」

 ま、まさか気付いておったのか!?

「ゴキブリはスリッパで叩くのが一番ですが、手元にあるのは……これしかありません」

 な、何故そこにトゲトゲメイスがあ!?

「はい、殺虫」

 ボゲシ!

 げぼわああ!?



「まだ寝ておられないのですか……って、旦那様!? 何故頭から血を……誰かー! 医者を呼べー! ついでに葬儀屋も呼べー!」

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