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聖女様の閑話

「…………ふう」

「…………はふ」


 狭い空間に、わたくしとリブラの熱い吐息だけが響きます。


「リファリス……」


 剥き出しの肩に、リブラがピタリと寄せて来て。

 バギィ!

「いったあああい!」


 渾身の左ストレートがリブラの頬を貫きました。


「な、何すんのさ!」

「ご自分の胸によーく聞かれては如何?」

「だ、だからってグーパンは無いじゃない!」

「あらあ、聖女の杖の方をお望みですのお?」

「……そう言う問題じゃなくて、普通は平手打ちじゃ」

「平手がお望みでしたら、貫手と言うものもありますわ」

「死ぬわっ!」


 

 ぜひぃ……ぜひぃ……。

 ぬ、貫手が分からぬか? ならば解説を……ぐふげふっ……して進ぜよう。

 貫手とは平手による突きの事じゃ。指を真っ直ぐに伸ばして突くのじゃから、攻撃力は拳より上じゃ。しかし余程鍛えてなければ、指はポッキリ逝ってしまうじゃろうがな。


「旦那様、何をなさっているのですか!」


 ぐぬ、メイドに見つかってしもうた。ま、また機会があれば、じゃな。


「ちゃんと寝ていなければ治るものも治りませんわよ! 治りたくないのでしたら、サッサと逝って下さいませ!」


 ワ、ワシの扱いって……。



「全く、取って置きの修行場があると聞いて来てみれば……単なるサウナではありませんか!」

「い、一応修行にはなるでしょ?」

「修行では無く単なる我慢比べではなくて?」

「べ、別に比べるつもりは無いんだけど……」

「何か?」

「い、いえ、何でもありません」


 全く……。


「ふわああ……それにしても暑いねえ」

「サウナですもの、当然じゃなくて?」

「な、何かリファリスが冷たいんだけど!?」

「暑いサウナで冷たいのでしたら、ちょうど良いのではなくて?」

「……?」


 ああ、暑い暑い。


「リファリス……もしかして、イライラしてる?」

「してませんわ。ただ、暑いだけです」

「そりゃサウナだから、暑くて当然よ」

「そうですわね……ええ、そうなんですわね」


 暑いですわ暑いですわ暑いですわ。


「ああ、もう!」

 バサッ


 あまりの暑さに、巻いていたバスタオルを投げ捨てます。


「リファリス!?」

「サウナは基本的に裸なのでしょう? でしたら何の問題も無い筈ですわ」

「ま、まあ、確かにそうなんだけど……」


 暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑いですわ。


「はっ、はっ、はっ、はっ」

「ど、どうしたの、今度は?」

「体内の熱エネルギーを放出して、暑さを紛らわそうと」

「熱エネルギー直接放出できるの!?」


 むわんっ


「うっわ、一気に暑くなった!?」

「も、もう耐え切れません。耐えられない耐えられない耐えられないい!!」

 バァン!

「リファリス、どこ行くの!?」

「水風呂に浸かるのよ! こんな暑いの、限界だっての!」

「リファリスの口調が変!?」


 バッシャアアアン!


「ふはあああ……」

 ジュウウウゥゥゥ……


「リ、リファリス、何故頭から湯気が……?」


「そりゃあ~…………暑かったからに決まってますわよ」


「あ、戻った」


 はい?


「何が戻ったんですの?」

「いや、リファリスの口調」


 口調……はっ!?


「ま、まさか、わたくしったら、リブラに粗雑な口を叩いてしまったんですの!?」

「粗雑ってほど粗雑じゃないけど、いつものリファリスとは違ってたわね」


 な、何と言う事でしょう……!


「や、やはりいけませんわ。わたくし、サウナはやはりご遠慮申し上げます」

「え、一度整ったんだから、もう一度あったまりなよ」

「え、ちょ、もう嫌ですわ」

「えいっ」

 きゅっ

「はあああああああああん!」

「よーし、大人しくなったところで、また引き摺り込んで~っと」



「……暑い……ですわ」

「ですわ、かあ~……まだ抜けないわね」

「……リブラ、何を期待してますの?」

「いやいや、素のリファリスを見てみたいだなんて、欠片くらいにしか思ってないって」

「……欠片程度には思ってますのね」


 それにしても、暑いですわ暑いですわ暑いですわ。


「……よぅーし、ここで取って置きで奥の手の切り札を」


 ……はい?


「リファリス、この水桶って、何の為にあるか知ってる?」

「水桶ですか? 暑い時に浴びる為では?」

「んっふっふ、違うのよ。これはね~……」


 リブラは水桶から水を掬い、熱い石の上に……。


 ジュワアアアア!

 むわ~んっ


「うぐっ……」

「こうして、更に暑くなる為なのよ。どう? どうかしら、リファリス?」


 あ……暑い……暑い暑い暑い暑い暑い、暑いいい!


 ガシィ

「へ?」

「暑いって言ってんのに……何で更に暑くしてくれてんのよ!」

「す、素だあああ! リファリスが素だあああ!」

「何で暑くしたのかって」

 ズドム!

「へぶぉ!」

「聞いてんのよ!」

「ひ、膝、効くわ……げふげほ」

「あら、お気に入りだったの? だったら」

 ガシィ

「へひ!?」

「好きなだけ食らわせてやるわよ!」

 ズドムッドムッドムッドムッドムッドムッドムッ!

「ぐふげふごぶぅげぼお! も、もう結構」

「遠慮しなくていいわよ! 好きなだけ食らわせてやる!」

 ドムッドムッドムッドムッドムッドムッドムッドムッドムッドムッ!

「ぐげええええええええええ! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅ!」



「はああ……またやってしまいましたわ」


 暑いのが苦手なわたくしは、つい近くの方に八つ当たりしてしまうのです。


「今日の八つ当たり相手がリブラで良かったですわ」

「げえええ……よ、よぐない……」

「いえ、赤の他人様に八つ当たりしてしまうより、百倍マシでしたわ」

「よ、よぐない……げえええ……」



 これ以降、リブラがわたくしをサウナに誘う事はありませんでした。


明日から新章です。

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