予選決勝と撲殺魔っ
「これより、第四ブロック予選・決勝戦を行います!」
ワアアアアア!
あがる歓声が、弥が上にもわたくしの血を滾らせます。
「まずは東ゲートより、シスターリファリスの入場!」
ギイイイ……
目の前の扉が開かれ、光が通路に溢れます。あまりの眩しさに目を細めながら、ゆっくりと歩を進めます。
『第四ブロック決勝、何とも面白い組み合わせになりましたね』
『はい。特にトンファーと蹴り技だけで、真剣を振るう相手を下してきたシスターリファリスには注目です』
『鉄の要塞とも称されたディンゲル選手との試合は圧巻でした』
ディンゲルって……誰でしたでしょうか?
『ええ。まさか寝そべったまま勝てるとは思いませんでした』
ああ、あの殿方ですか。
『しかもリファリス選手、対戦した相手の何かしらを毎回砕いているとか』
『自信や尊厳、そして将来。まさに撲殺魔に相応しい砕きっぷりでした』
わ、わたくし、そこまでしてませんわよ!?
『いやいや、何かを砕くという意味で一番印象的だったのは、ほぼ裸でナイフ一本の……』
『ああ、今話題にしていたディンゲル選手に敗れた女性選手ですね。確か……リファリス選手のお弟子さんの』
リジーですわね。
『男性は皆、見ていて辛い試合でしたね』
『ええ。まさかナイフで男性の【アーッ】を【ギャーッ】するとは思いませんでした』
『彼は色々な意味で再起不能でしょう』
『……このブロック、再起不能になる人が多すぎるような……』
それはわたくしのせいではありません。
『さて、我々が雑談に興じているうちに、リファリス選手は舞台に到着されていました』
『はっはっは、すっかり仕事を忘れていましたな』
……それにしても、実況と解説って、いつから居らしたのでしょうか。
「続いて西ゲートより、ドン・ブランコ選手の入場!」
ギイイイ……
「ぶもおおおおおおおおおっ!」
う、牛の鳴き声?
ズシィィン! ズシィィン!
あ、頭が牛で身体が人間……ま、まさか!?
「ミノタウロスですの!?」
『いやいや、ミノタウロスが実在する筈がありません。あれは被り物です』
被り物!?
『ドン・ブランコ選手は非常に人見知りの恥ずかしがり屋でして、ああして牛の被り物をしないと戦えないのです』
牛の被り物をする方が百倍恥ずかしいですわよ!
「ぶもおおおおおっ!」
『それにしても、相変わらずのなりきり振りですねぇ』
『鳴き声も牛そっくりに似せてきます』
……いえ、あの鳴き声……自然に一体化している首筋と身体……なにより普通ではあり得ない巨体……。
「……まさか、本物のミノタウロス?」
「ぶも!? ぶもおお! ぶもおお!」
必死に首を振って否定します……が、どう考えても本物でしょう。
「でしたら何か喋れますの?」
「ぶもおお、しゃ、喋れるぶも!」
あら、失礼しました。
「でしたら被り物を取って下さいまし」
「ぶもお!? は、恥ずかしくて取れないぶも!」
語尾に「ぶも!」を付ける方が、千倍恥ずかしいですわよ!
「でしたら、わたくしの言う言葉に耐えられますか?」
「ぶも?」
「では参ります。A5」
「……ぶも?」
「肩ロース」
「ぶも!?」
「カルビ、上カルビ、タン塩」
「ぶもおおお!?」
「レア、ミディアム、ウェルダン」
「ぶううううもおおおおおっ!」
耳を塞いでのたうち回る姿は、やはりミノタウロスそのもの!
「まさか、本当にミノタウロスだなんて……」
「違うぶも! 違うぶもおおお!!」
……?
「何故に否定されるのです?」
「え……」
「わたくしも人間ではありませんわよ?」
髪を掻き揚げ、長耳を晒します。
「ぶも、エルフぶも!?」
「正確にはハイエルフですわ。ちなみにわたくしの弟子ですが、リジーは流れ人です」
「流れ人……異世界人ぶも!?」
「更に言いますと、三番弟子のモリーは妖精族です」
「よ、妖精族!? 幻の種族ぶも!」
「ですから、ドン様も恥ずかしい理由はありませんでしょ?」
「ドン様って……別にいいんだけどぶも」
良ければドン様と呼ばせて頂きます。
「確かにわたくし達は少数民族ではありますが、聖心教はその辺りには寛容です。別に正体を明かしたところで、誰も何も言いませんわよ?」
「た、大変申し訳無いぶもが……」
そっと首筋を捲り…………捲り!?
「自分、本当に被り物してるぶも」
本当に被り物ですの!?
「な、ならば、本当に人見知りで恥ずかしがり屋……?」
「あー……いえ、剣聖祭を盛り上げようと、ちょっとふざけて……その」
「……つまり……単なるお調子者の、目立ちたがり屋……ですの……?」
「そ、そうなるかなぁ……あはは、あははは、あははははは……」
「……あはは、あははは、あははははは!」
「……へ?」
胸の谷間に手を突っ込み。
ジャララッ ズシィン!
モーニングスターを取り出します。
「審判さぁぁん……ドン様はミノタウロスでいらっしゃるようですから、モーニングスターで攻撃しても構いませんわよねぇ?」
「え゛」
「わたくし、か弱いシスターですもの、ミノタウロス相手にはモーニングスターくらい持ち出さないと、怖くて戦えませんわああ……」
「え、あ、いや、じ、自分はミノタウロスではありませんから、はい」
「あららら、ミノタウロスではありませんの。ですが、その見た目だけで、わたくしブルってしまいますわああ!」
ジャララッ!
「え、ひ、ひい、いや、助けてえええ!」
ズズゥン!
「ぎゃぴぃ!」
「圧縮! 勝者、シスターリファリス! よって第四ブロック代表は、シスターリファリス!」
ワアアアアア!
『ドン・ブランコ選手は……被り物を砕かれましたなあ』
『……彼も将来を砕かれました……』
明日は閑話です。リファリスとリブラが汗だくで何かします。




