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色々と砕く撲殺魔っ

 キィン! ギャリリ……

「くっ! ぐ……」

「ぐぬぬぬぬ……」


 鍔迫り合いが白熱し、火花が飛び散ります。

 やがて。


 ギャギッ ザシュウ!

「ぎゃあああっ!」


 片方の剣が弾き飛び、赤い鮮血が石畳を濡らし。


「ぐ、ぐぶぅ」

 ドサァ


「勝者、リドリー!」

 ワアアア……


 歓声が聞こえてきますが、それどころではありません。急がなくては……。


「は、はあ、はあ、はあっ」


 息を弾ませて、戦いの場へ駆けます。


「……? 聖女……様」


 勝者の名乗りを受けたリドリー様が、わたくしを見て驚いた表情を浮かべます。

 そして。


「っ!?」


 何故かわたくしに向かって両手を開き、ニッコリと微笑まれるではありませんか。


(どうやら勘違いされているようですが……)


 当然ですが、わたくしの目的は瀕死の負傷者であり、見も知らずの貴族様ではありません。


(しかし、進路を変えようとしても遮られるだけですわね)


 そのまま抱き合うだなんて論外。口で説明している時間も無い以上、これしかありませんわね。


「リドリー様」

「聖女様っ!」

「ごめんあそばせ!」

 どげしぃ!

「ぐぶべ!?」


 走ってきた勢いのまま、リドリー様のお顔に足の裏をお見舞いします。


「…………」

 ドサァ


 蹴倒して飛び越え、怪我人の元へ参じます。


「大丈夫ですか」

「肺まで刃が届いています」

「生きていらっしゃるのでしたら間に合います。『癒せ』」

 パアアア……

「おお……傷がどんどん塞がっていく……」

「流石は聖女様……」


 先程蹴倒したリドリー様もピクリとも動きませんが、今はそれどころではありません。


 パアアア……

「くふ……がふ、げふ!」

「息を吹き返した!」

「危機を脱しました!」


 これで安心ですわ。


「ま、不味い! こちらも瀕死だぞ!」

「しっかりなさって、リドリー様!」


 え?


「こ、呼吸が!」

「脈拍があ!」


「え? わ、わたくし、顔面を前蹴りしただけ…………あ」


 わたくし、ハイヒールを履いていたのを忘れてましたわ……。



「で、勝利に感動した聖女様が駆け寄ってきたかと思ったらっ」

「邪魔だとばかりに、体重が乗った前蹴りをお見舞い下さったとっ」

「「ぶはははははははははははははは!」」


「殺して……! いっそ殺してくれ……!」


「末代までの恥を晒したリドリーに乾杯!」

「乾杯ぃぃ!」


「乾杯したくないから! 今すぐ記憶から消し去りたいから!」


「まあまあ、面白かったからいいじゃねえか」

「しっかしリドリーも、盛大な勘違いをしたもんだ」


「あああああああああ……」


「聖女様は重傷者の治療も担当なさっておいでだから、あの状況なら怪我人目当てに決まってんじゃねえか」

「それを両手を広げて遮るんだから、蹴倒されて当然だわな」


「べ、別に誤解したっていいじゃないか! 夢見るくらいいいじゃないか!」


「まあ……夢見るくらいは自由だけどよ……ぶっ」

「状況は最悪だったな……ぶくくっ」

「「ぶわははははははは!」」


「わ、笑うなって言ってるだろ!」


「わ、悪い悪い……くくっ」

「んでもって、次の対戦相手は、愛しの聖女様…………ぶはっ!」

「「ぎゃははははははは!」」


「だ、だから……!」


「いや、できすぎだろ!」

「何の喜劇だってんだよ!」


「……俺、棄権するわ……」



 次の対戦相手のリドリー様が棄権なさると聞き、急いでお宅へ駆けつけます。


 コンコン

 …………ガチャ

「はい、何方でうわぁ!?」


「リドリー様、お目にかかるのは(・・・・・・・・)初めましてですね。わたくし、シスターリファリスと申します」

「ひゃ、ひゃい!」


 ……顔色が優れられないようですわね。やはり怪我の影響でしょうか。


「ちょっと失礼しますわね」

「ひゃひ!?」


 頬に触ってみます……熱いですわね。


「熱がおありですの?」

「ひひぇ!? あうあうあう……」


 喋れないくらい高いようです。


「いけませんわ、ちゃんと休んでなさい」

「はうっ」

「ちゃんと食べてますの? お着替えは? お風呂は?」

「は、はへぇ」

「うわ、汚いですわね。このような不衛生な環境では、良くなるものもなりませんわよっ」

「ひゃふほへ」

「分かりましたわ、棄権なさったのはわたくしの蹴りが原因なのですから、最低限の償いはさせて頂きます」

「ひゃひいいい!?」



「……で、今までリドリーとか言う若い男性と一緒だったと」

「お料理をしてお掃除をして入浴の介助をさせて頂きました」


 ……何故かリブラは深い深いため息を吐きました。


「リファリス。多分だけど、そのリドリーとか言う対戦相手、棄権を撤回したんじゃない?」

「あ、はい。傷が良くなったのでしょうね」


 ……再び深い深い深いため息を吐きました。な、何なんでしょうか?


「あのね、リファリス。そのリドリーっての、絶対誤解してる」


 ご、誤解?


「リファリスが自分に気があるって思われてる」

「はいい!? な、何故ですの?」

「そりゃ自分の家にわざわざ来て、料理や掃除や風呂の介助までしてくれたら、誰だって誤解するわよ!」


 な、何と言う事でしょう……。



 そして、ついにリドリー様との対戦日。


「では、試合開始!」

「さあ、リファリス! 僕の胸に飛び込んでおいで!」


 ……やっぱり誤解されてますわ……。


「はあ…………本当に、本当に、申し訳ございません」

「へ?」

「では、ごめんあそばせ!」

 バギィ!

「へぶぅ!」

 ゴロゴロゴロズシャシャシャア!

「場外! 勝者、シスターリファリス!」


 本当に、本当に、申し訳ございませんでした。



「……もうちょっと優しくKOしてあげなさいよ……」

「あの青年、色んな意味で再起不能と思われ」

「……同情しかできねえ……」

リドリー君に幸あらん事を。

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