更に強くなる蹴殺魔っ
「ごめんあそばせ」
ガヅン!
「ぐあっ」
ドサァ
「勝負あり! 勝者、シスターリファリス!」
ワアアア!
ふう。やはり勝ち進むにつれ、一筋縄ではいかなくなりますわね。
「ナイスファイト、リファリス」
「あら、リブラ」
待っていたのはセコンドのモリーでは無く、隣の会場に居る筈のリブラでした。
「試合じゃありませんでしたの?」
「開始二十秒で終わっちゃったよ」
よくよく見てみれば、リブラの服には点々と返り血が付いています。
「……殺したんですの?」
「まさか。あの程度の相手、ちょっと皮膚だけ斬ってやれば、出血に驚いてすぐ降参するよ」
大剣を振り回してますのに、器用な事をなさいますわね。
「それよりリファリスは……楽勝では無かったみたいね」
それなりに切り傷を受けているわたくしを見て、リブラはニヤリと笑い。
「ま、これなら楽勝かな」
そう言ってわたくしにタオルを渡し、クルリと背を向けました。
「…………」
何故か「カチンッ」という擬音が頭の中に響いたわたくしは、こっそりとリブラに近付き。
きゅっ
「はああああああああん!」
強めに摘まんでやりました。
「な、何すんのよ!」
両手で胸を押さえて顔を真っ赤にするリブラ。スッとしたので踵を返し、控え室に戻りました。
が。
ガチャッ
「ふう……」
「リファリス~、えい♪」
きゅっきゅっ
「はああああああああああん!」
……今度はわたくしが胸を押さえてへたり込まされたのです。
「な、何故リブラがここに!?」
「勿論、仕返しの為に先回りしたに決まってんじゃない……ふ~ぅっ」
「ひあああああああ!」
み、耳に息をかけないで!
「まだまだぁ……はむっ」
「ひああああああああん!」
み、耳を甘噛みしないでぇ……。
「更に更に。えいっ」
きゅっきゅっ
「はああああああああああん!」
ぺたん
完全に腰が砕けてしまったわたくしは、そのままソファに連れて行かれ…………一時間程有られもない声を出させられる事になりました。
「うーん、スッキリ」
わ、わたくしは納得いかないのですが。
「……試合で疲れた身体を酷使させられ、足腰立たない状態にされ……」
「でもモヤモヤは晴れたでしょ?」
……まあ……晴れたと言うより、強制的に忘れさせられた、と言ったところでしょうか。
「途中から見てたけどさ、リファリスの悪い癖が出てるね」
わたくしの、悪い癖?
「リファリスは〝無痛剣奏〟と回復魔術でのゴリ押しが基本戦法だから、あまり受けたり避けたりしないじゃない?」
「そうですわね、言われてみれば」
攻撃されても痛みを感じる事が無く、すぐに回復できるのでしたら、避ける必要はありませんし。
「それが悪い癖なのよ。致命傷になり得る攻撃は最低限で避けてるみたいだけど、やっぱり最低限でしょ?」
ええ、まあ。頭や心臓みたいな即死になり得る箇所は、流石に回避しています。
「剣聖祭のルール上、見た感じが明らかに戦闘不能だったら、審判に止められて試合終了。リファリスはその可能性が高いのよね」
確かに。血をダラダラ垂らしながら「効かないですわ」と訴えても、説得力が無さすぎますわね。
「でしたら少しは避けた方がいいのでしょうか」
「いや、普通は避けるからね」
そうですか……でしたら。
「リブラ、明日は試合ありますの?」
「明日? あるけど」
「でしたら、一度見本を見せて頂けませんか?」
「……見本?」
次の日。
ザク!
「あがあああ!」
「勝負あり! 勝者、ラブリ・リブラ!」
「す、凄いな。一度も攻撃を受けずに勝ったぞ」
「あんな大剣担いだまま、全て避けきるとは……」
成る程、ああいう動きですのね。
「ふう、疲れた」
「お疲れ様です。良い勉強になりましたわ」
「参考になったんならいいけど、一回見ただけじゃものにはできないわよ」
「いーえ、充分ですわ」
「……え?」
更に次の日。
「だりゃあああ!」
ブンブンブン!
「あははははははは! どこを狙ってるんですの?」
避けたと同時に、カウンターで蹴りを……。
スパァン!
上手くいきましたわ!
「く、糞ぉ! ちょこまかと!」
「うふふふ、悔しかったら斬り捨ててご覧なさいな」
「ち、畜生があ!」
ブゥン!
「大振りになってきましたわ」
スパァン!
「がはっ……うらああっ!」
ブゥン!
「隙だらけですわね」
スパァン!
「がふっ……い、一撃! 一撃さえ入ればあああ!」
ブゥン! ブンブンブン!
「その一撃が入らないのですから、困りましたわねぇ」
スパァン! ズドム!
「ぐはっ! がはぁ!」
何十発もわたくしの蹴りを受けてますのに、まだ立っています。タフですわねぇ。
「まだ続けますの? わたくし、もう蹴り飽きましたわああ……あはは、あははははははは!」
「う、うるさああああああい!」
もはや冷静さの欠片も無いようで、わたくしに向かってがむしゃらに剣を振り下ろしてきます。ですが、そんな斬撃を避けられない筈も無く。
ギャギィィン!
「ぐぅぅ!」
剣は石畳を叩き、無残に折れてしまいました。
「武器も無くなりました。それでも、続けられますか?」
「ぐ……な、ならば拳でぐぶべ!?」
カウンターで入った前蹴りが鳩尾に刺さり、白目を剥いてうずくまりました。
「失神! 勝者、シスターリファリス!」
「あっはははははははは! 避けるってこんなに簡単な事でしたのね、あははははははは!」
「い、いや、簡単な訳無いじゃん……」
リブラが呆れてため息を吐いているのには気付いていましたが、敢えて何も言いませんでした。
リファリス、何気に天才。




