果報を寝て待つ撲殺魔っ
この剣聖祭と呼ばれる大会ですが、ある顕著な特徴があります。
「はあああっ!」
「だああっ!」
ギィン! ギャリリッ
一つ、真剣での勝負……という括りがある為、出場者の九割九分九厘が剣を使うのです。わたくしのようなトンファー使いなんて稀中の稀です。
「どぅりゃあああ!」
「うるぁあああ!」
ギィン! ギンギン!
二つ、真剣での勝負……つまり木剣や刃引きした剣が使われる事は無い為、非常に負傷率が高めな事。
「はあはあ、どぉああああ!」
「ふうふう、ちぇすとぉ!」
ガギィン! ギリリリッ
三つ、上記二つの要因により、重装備で出場する選手が多い事。
つまり。
「はあ、ひい、はあ、う、うりゃああ……」
「ひい、ひい、ふう、と、とりゃああ……」
キィン キィン
大半の試合は鎧でガチガチに全身を固めた男性が、斬っても斬っても勝負のつかない泥仕合を展開し。
「はあはあはあはあ……も、もう動けんっ」
「ひいひいふうふう……も、もらったぁ」
「勝負あり! 勝者、左の鎧!」
「「よ、鎧言うな!」」
……先に体力が尽きた方が動けなくなり、降参する……という決着が圧倒的に多くなるのです。
ですから。
「はあ、たあ、とう」
「はっはっは、どうしたどうしたぁ! ナイフ一本じゃ勝てんぞぉ!」
装備変更が認められないルール上、ナイフ一本で、しかも片腕で胸を隠しながらの戦いをせざるを得ないリジーに勝ち目など無く。
「むぅぅ……やっぱり無理。棄権する」
……こうならざるを得なかったのです。
「姉御ぉ、だから言っただろ? 呪具はほぼほぼ使えないって」
「比較的弱い呪いの呪具を選んだのに……不覚」
ガツガツムシャムシャ
普段着に着替えたリジーが、腹いせとばかりに暴食しています。
「それにしても、あの戦い方は面白くないっ」
「同感だな。あれじゃやる方も見てる方も疲れるだけだ」
まあ……怪我人が出にくいのは良い事ですが、試合後に救護所に運び込まれる方の大半が、汗だくだくのオッサン……こほん、男性ばかりなのは如何なものかと。
「リブラが大人気なのも頷ける。稽古着のみで大剣ぶん回す美少女、鎧だらけの中じゃ目立つ」
負けた事にまだ納得がいかないリジーのやけ食いは、更に加速していきます。
「……流石に全身鎧相手では、リブラも苦戦なさいますの?」
「え? 鎧相手だと動きが鈍いから、そのままぶった斬れば問題無いよ?」
「……成る程」
鎧ごと斬り捨てる、という発想はありませんでした。
「ですが……参考にはなりましたわ」
「え?」
すると、そのタイミングで。
「聖女様、番ですよ」
「あら、随分と早いんですのね」
「お急ぎ下さい。相手選手がお待ちです」
「リファリス、頑張っ」
「頑張ってね」
「無理すんなよ」
皆に手を振ってから、会場へと向かいました。
ザワザワ……
「……何ですの、あれ」
「対戦相手です」
「いえ、どう見ても砦ですわよね」
「まあ……砦ですね」
「はっはっは、遅かったな!」
わたくしの対戦相手は、自分の四五倍はあろうかという鉄鎧から顔を出し、笑っていました。
「どうやって動くんですの?」
「動きません」
はいい?
「いや、動けないのです」
で、でしょうね。
「あの砦……もとい鎧の中に籠もり、相手が為す術無く降参するのを待つのです」
「…………あり、なんですの?」
「現ルールでは……認めざるを得ないかと」
ぜ、絶対防御というものなのでしょうか。
「では、始め!」
「聖女様、良い試合をしましょうぞ……あははははははは!」
わたくしの笑い方を真似て挑発しているつもりなのでしょうが……。
「……はあああっ!」
がぃぃぃん!
蹴りが効かないのは必然、ならばトンファーで叩いてみましたが。
「はははは! 痛くも痒くもありませんな!」
傷一つ付きません。
「はははは! さっさと降参しなさい。貴女には為す術が無いでしょう!」
「…………」
「我が鉄壁の守りに死角無し! あはははははは!」
……まあ……貴方がそう来るのでしたら。
「いえ、貴方はわたくしに絶対に勝てませんわ」
「ふはははは! 何を言っている! 我が身体まで刃が届くとでも?」
そう言われたわたくしは。
ごろんっ
「えっ」
「なっ」
「「「えええっ!?」」」
会場の真ん中で寝転んだのです。
「な、何をしているのだ? 狂ったか?」
「いえ、全く正常ですわ」
「な、ならば、何故に寝転んだのだ?」
「無論、決着を着ける為ですわ」
「はあ? 寝転んだ事で、決着が着くとでも?」
「はい。貴方が降参して終わります」
「は? 儂が降参する? ははははは、なかなか面白い冗談ですな!」
「冗談ではありませんわ……さあ、決着ですわ」
「何を馬鹿な」
「では説明致します。貴方、あと何時間鎧に籠もっていられますか?」
「は?」
「わたくしは身軽なものですから、いつまででも待ちますわよ」
「なっ」
「ですから、貴方ができる事は二つ。ずっと鎧に籠もり続けるか、鎧から出てわたくしに攻撃するか」
「むぅぅぅ!?」
「鎧を着たまま攻撃できるのでしたら、わたくしに勝ち目はございませんわね」
「むむむむ……」
「さあ、わたくしはここに寝転んでいますわ。好きなように、攻撃なさいな!」
「ぐううう……!」
三時間程度粘られましたが、鎧に入っている事に耐えられなくなったようで。
「……ま、参った」
「勝者、シスターリファリス!」
ふああ……寝転がっているだけで勝てましたわ。




