新人剣士から見た蹴殺魔っ
ボクはアラン・ラルクロード。ラルクロード子爵家の次男だ。
「兄であるアレンに家を継がせるから、次男のお前は騎士になって身を立てなさい」
「はい、父上!」
学問では兄に大きく差を付けられたけど、剣術に関してはボクの方が上だ。一生懸命練習して、絶対に騎士になってやる!
そして。
「……アラン、落選だ」
そ、そんな……。
「今回の選考試験では、ドルマ伯爵の三男が選ばれた」
「そ、そんな!? あのボンクラは、ボクに一度も勝てた事が無いのに!」
「仕方無い。今回は爵位が上の相手がいたのが運の尽きだったのだ」
く……しゃ、爵位の差を持ち出されると……何も……言い返せない。
「まだ次回がある。それで頑張りなさい」
「……はい!」
次回だ。次回こそは……!
……が。
「アラン、また落選だ」
そんな……そんな!?
「同期でも頭一つ抜き出ているボクが、落選って……」
「今回は……いや、今回も、伯爵家の子息が選ばれた」
ま、また爵位なのか……!
「しかも……今回は……去年お前と競ったドルマ伯爵家が、裏で手を回していたらしい」
ドルマ伯爵家が!?
「お前に散々負かされていたのを根に持って、妨害しているようだ」
「そ、それってつまり……」
「ああ。騎士団に入れたとしても、冷遇されるのは目に見えているな」
そ、そんな……!
「つまり、お前は騎士団に入る未来を閉ざされた……という事になる」
本国での栄達を諦めざるを得なかったボクは、もう一つの可能性に賭けてみる事にした。
「完全実力主義の自由騎士団なら、あるいは……!」
ボクも信仰している聖心教の守護騎士団としても知られるフリーダンは、身分による差別を禁止している筈。実際に上層部には、引退した市民階級の元騎士も在籍していらっしゃるのだ。
「フリーダンに入るのは難しい。だけど剣聖祭で活躍できれば、門戸を開いてくれる」
実際に剣聖祭の優勝者や上位に食い込んだ者を、フリーダンが勧誘するのは有名な話なのだ。それを目的に参加する者も多い。
「フリーダンに入れれば、あのドルマ伯爵家より格上になる。そうしたら絶対に今回の不正を正してやる!」
急いで旅の支度をしたボクは、足早に剣聖祭が行われるセントリファリスへと向かった。
ワイワイ、ガヤガヤ
凄い人の数。これ、皆参加者か。
「おい、優勝候補筆頭だった獅子心公が欠場するんだとよ」
「マジかよ!?」
ほ、本当に!?
「あーあ、なら来た意味が無いな」
「今年こそは、と思って来たのに……」
その情報が流れた途端、出場者の三割が会場を後にした。あ、観客も明らかに減ってる。
「なら、リブラ伯爵夫人も不参加か?」
ライオンハートと唯一互角に渡り合えるのは、武門として名高いリブラ伯爵の当主だけ。夫人まで参加しないとなると、大会そのものが開催されないかも……。
「いや、出るそうだ。ちゃんと名簿に名前が載ってたぜ」
……ほ。
「だったら今年の優勝者はリブラ伯爵夫人に決まりか?」
有力な対抗馬は居ないみたいだ。なら、リブラ伯爵夫人に当たらないように願うばかりだ。
「いや、それがだな…………意外な人物が参戦してきたんだ」
「意外な人物だあ?」
え、誰?
「そんな話題になるような剣豪、この辺りに居たか?」
「いや、剣豪じゃねえが、超有名どこが居るだろが」
「超有名どこぉ? 全く心当たりが無いんだか」
ボクもだ。セントリファリス周辺は治安が格段に良くて、腕の立つ者が寄り付く事は無い。
「だれが剣豪だっつった? 超有名どこだって言っても、剣豪とは限らないだろ?」
剣豪じゃない超有名人……セントリファリスに住んでる方で一番有名なのは、やはり町の名前にまでなった聖女様くらい…………あ。
「まさか、聖女様?」
「ん? 聖女様だあ?」
あ、しまった。つい口に出しちゃった。
「聖女様が剣聖祭に出る筈が」
「いや、当たりだ。聖女として名高いシスターリファリスが参加を表明したんだよ」
「「ええええええええ!?」」
せ、聖女様参戦の情報が広まると同時に、参加者と観客がまた増えた!?
「聖女様って事は……アレか」
「ああ、アレだな」
アレ?
「「……〝紅月〟だな」」
……あかつき?
で、開会式も終わり、予選トーナメントが始まったんだけど。
「よろしくお願い致しますわ、アラン様」
その話題の人物が、ボクの初戦の相手になった。
(うわあ……綺麗すぎて直視できない)
ブルルンッ
(お辞儀と同時に揺れる胸も直視できないぃ)
まともに戦える気がしないけど……ボクもフリーダン入団という目的がある。絶対に、負けられない!
だけど。
「は、はあ、はあ」
「あはははは! どうしましたのぉ? 剣が全くわたくしに届いてませんわよぉ?」
ト、トンファーで全て防がれる上に、必ず蹴りで反撃される……つ、強い。
「もう打つ手はありませんか、坊や?」
く、悔しいけど、その通りだ。
「でしたら、貴方が最初の被験者ですわね」
被験者?
「蹴殺の、ですわ」
しゅ、しゅうさつ?
「では、天誅!」
バギィ!
「ごぶぉ!?」
「天罰!」
ズドォ!
「げふぅ!」
「滅殺! 抹殺! 蹴殺!」
バギャバギャバギャア!
「ぐはあああ!?」
ゴロゴロゴロゴロズシャシャシャー!
だ、駄目だ……。
「あら、まだ生きていらっしゃるの?」
……え?
「モヤモヤしますので、とどめを刺します」
「待って下さい!」
これが切っ掛けで、ボクは騎士の夢を諦め、実家の領内で剣術道場を開きました。
「都会こあい……聖女様こあい……」
ボクには……平和な生活が性に合ってるみたいです。




