ゴネる撲殺魔っ
「何故わたくしなんですの!?」
「最適じゃない、人望申し分無し・仁徳申し分無し・容姿申し分無し・強さ申し分無し」
「そ、そんな、わたくし確かに非の打ち所はございませんが…………ではありませんわ!」
「あれ、リファリスも誉められて満更でもなさそうじゃない」
「ちちち違いますわ!」
「へえ~、否定する割には慌てちゃって」
「でででですから、そう言う訳では」
「こーいう時のリファリスって意外と、か・わ・い・いぶげぇ!」
ドッカンドッカンドッカンドッカン!
「ごぶ! がぶ! げぶ! や、止め! マジで、マジで死ぬう!」
ドカドカドカドカドカドカドカドカバガバガァン!
「死ぬ死ぬぐぶぐげぇ……がくっぐふぅがくっぐふぅがくっぐふぅがくっぐふぅ!」
素っ裸のまま、逆さにぶら下げて放置しておいたリブラは、三時間後にモリーによって救出されたそうです。
「にゃっははははは! それじゃ、リブっちに嵌められて!?」
「は、嵌められたと言うか、乗せられたと言うか……人望とかの話はともかく、ネームバリューと強さというところでは、わたくしもそうせざるを得ないと言いましょうか……」
笑いすぎて痛いらしいお腹を押さえながら、ルディはわたくしの肩に手を置きます。
「いやぁ、剣聖祭の為に骨を折ってくれてありがとー、にゃは~♪」
し、仕方無いではありませんか。わたくしが蒔いた種なのですから。
「それで、相談って何なのかな?」
「え、ええ。まずは争いを禁じた教義についてですわ」
「ああ、成る程。今のままでは、リファっちが出場するのは教義に反しちゃうもんねぇ」
福音書には「争うのは知恵ある者の特権なれど、最も愚かしい行動なり」と記されています。明確に禁じられてはいませんが、主に仕える者が堂々とできる事ではありません。
「ふむ……ちょーっと解釈をねじ曲げるのは、難しい表記だよねえ……福音書第二十七巻四章第八節は」
「それに、わたくしは剣は使えません」
「あー、それもあったか……リファっちは何故か刃物全般駄目駄目なんだよねぇ」
わたくしが打撃武器を愛用する理由の一つです。
「確か、料理する時も」
「はい。手刀か刃引きした包丁です」
「……刃引きした包丁って、意味あるの?」
「大概は手刀でいけますが、硬いものはやはり包丁でないと。それと、皮剥きにも必須ですわね」
「刃引きした包丁で皮剥きできる事自体が驚き桃の木山椒の木なんだけど!?」
桃の木? 山椒の木??
「にゃほん! それはともかく、解釈自体はどうにかなるよ」
「え、本当に?」
「にゃは~♪ 簡単だよ。要は『主に代わってお仕置きですわ!』って毎回叫べばいいのさ♪」
…………はい?
「要はだね、愚かな争いを止める為の、やむを得ない『調停』だって事で」
「調停?」
「実はね~……剣聖祭って、毎年怪我人や死人が出るのが、少なからず問題視されてるんだ」
ああ、確かに。
剣聖祭は真剣勝負が尊ばれていますから、刃引きされた剣や木製の練習剣が使われる事はありません。ですから勝敗が決する際は相手が怪我をしていて当たり前、軽傷でしたらマシな方なのです。
「それを嫌がって出ない人も多いのさ、にゃは……」
「枢機卿の強権発動で、どうにかなりませんの?」
「まあ……一度だけ、真剣禁止で開かれた事はあったんだけど……」
「……ああ、そう言われてみれば……確か第四十三回でしたわね」
その前の剣聖祭決勝戦が相打ちとなり、有望株だった若手冒険者が二人お亡くなりになったのが問題視され、真剣の使用が禁止されたのです。
ですが出場者は激減、観客も全く入らないという運営上致命的な状態に陥ってしまい、真剣禁止はわずか一回で撤回されてしまったのです。
「つまり、真剣禁止に代わる、新たな抑止力が必要なのさ」
新たな抑止力…………ちょっとお待ち下さい。
「まさかとは思いますが、その抑止力代わりにわたくしを担ぎ出すつもりですの?」
「そう。表向きは『殺し合いに心を痛めていた聖女様が、意を決して参戦を決めた』って事で」
た、確かにそれでしたら、教義上は辻褄合わせはできますが。かなり強引ですが。
「……それで『主に代わってお仕置きです』ですの?」
「そう言う事♪ それにこれだったら、リファっちが刃物を使わない理由にもなるよね」
あ、そうですわね。あくまで止める事が目的なのですから、殺傷能力が高い剣を持ち出すのは逆に不自然ですもの。
「つまり鈍器を使い放題?」
「さ、流石に聖女の杖やモーニングスターは禁止ね。あれ、どう考えても殺傷力高いでしょ」
…………ちっ。
「リファっち、舌打ちしなかった!?」
「してませんわ。ただ『使えませんわね、このロリ巨乳』と思っていただけです」
「舌打ちの方がマシだった!?」
聖女の杖とモーニングスターが禁止された以上、他の撲殺武器……いえ、制圧武器を準備しなくてはなりません。
「順当に考えれば、木剣がいいんじゃないか?」
「いえ、剣というカテゴリー自体が駄目でして」
「なら……単なる棒か?」
それが妥当でしょうか……。
「あるいは、これ?」
ひょこっと姿を現したリジーが、取っ手がついた妙な棒を差し出します。
「何ですの、これ」
「別の世界の警備隊が、犯人を押さえ込む為に使ってた。確か、トンファーとか呼ばれてたと思われ」
……トンファー……。




