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突然の依頼と撲殺魔っ

剣聖祭編、開幕。

「せいっ!」

 ブン!

「やあっ!」

 ブン!

「たああ!」

 ブゥン!


「熱心ですわね、リブラ」


「ふう……」


「お茶を淹れましたから、一休みなさいません?」


「あ、うん、ありがと」


 振り回していた大剣を鞘に納めると、リブラは椅子に座りました。上気した顔をタオルで拭きながら、わたくしに微笑んで言います。


「リファリス、奉仕の途中でしょう? わざわざ私の為に時間を割いてくれたの?」


「わたくしも喉が渇いてましたから。それに……」


 リブラのカップに並々とお茶を注ぎ、ソーサーに乗せて渡します。


「お茶を飲むのなら、一人より二人ですわ」


「……って、リファリスは白湯なんでしょ?」


「ええ。何かおかしいですか?」


「いや、別にいいんだけどさ……せっかく淹れてくれたお茶なんだから、同じものを飲みたいと思って」


「え? リブラも白湯を?」


「違う違う。リファリスもお茶を飲んだらって意味で」


 ああ、そういう事ですの。


「これは単に好みなのですが……分かりましたわ、リブラと同じお茶に致します」


「うん、ありがと。やっぱり一緒に飲むんだったら、同じものを飲みたかったから」


 わたくしにも同じものを、ですか……ふふ。


「……何で笑ってるのよ、リファリス」


「いえ、リブラも可愛い事を仰るな、と思いまして」


「な…………ふ、ふん!」


 真っ赤になってそっぽを向いてしまうリブラは、やっぱり可愛いらしいです。



 しばらく静かにお茶を飲んでいますと、リブラがおもむろに口を開きました。


「あ、あのさ、リファリス、ちょっと聞きたいんだけど」


「はい、何ですの?」


「もしかして……なんだけど、聖心教のシスターって、争い事は禁止されてたりする?」


 はい?


「何ですの、藪から棒に」


「ど、どうなの?」


「どうなの、と聞かれる以前の問題ですわ。人間として争い事は無い方が良いに決まってるでしょう」


「あー、えっと、言い方が悪かったわ。戦ったりするのは駄目かって事」


「はい? それこそ今更ですわね。以前の魔国連合との戦の際、先陣を切ったのは貴女でしょう?」


「あ、そうだったわ」


「結局何が言いたいんですの? ハッキリと仰って下さい」


「あーうん……じ、実はさあ…………剣聖祭に出たいなーって」


 あ、そういう事でしたの。



 け、剣聖祭と聞いては黙っておれんの! ワシが、ワシが解説してやるのじゃ!


「お館様、身体を起こしてはなりません! 絶対安静ですぞ!」


 五月蝿い五月蝿い! 剣聖祭と言われては、七年連続優勝中のワシは黙っていられん!


「いけません! 誰か、誰かああ! お館様が御乱心です! 手を貸して下さいい!」



「……仕方ありませんわね。よいしょっと」



 バガッ!

「ぐひゃあぁぁ…………がくっ、ぐふっ」

「お館様!?」

「お館様! お館様あああああ!」



「……静かになったみたいですわね」

「……リファリス?」


 ああ、何でもありませんわ。


「それで、何故に出たいんですの?」


「あ、うん…………じ、実はさ、私も毎回出場してたんだ」


 そうでしょうね。南大陸で名を轟かせる武門の当主が、出場しない筈がありませんもの。


「で、毎回決勝までいくんだけど……七回連続で負けてる相手がいて」


〝獅子心公〟(ライオンハート)ライオット公爵様ですわね?」


「そう! 私、今回こそは勝ちたいのよ!」


「あら、そうですか……ですが」



「『癒せ』! 『癒せ』! お館様ぁ、しっかりして下さい!」

「こひゅー……こひゅー……」

「脈がどんどん弱くなっています!」

「呼吸が! 呼吸が止まる寸前です!」

「お館様あああああ!」



「……どうやらライオット公爵様は欠場なさりそうですわよ」


「け、欠場!?」


「大怪我をなさったそうで、絶対安静なんだとか」


「そ、そんなあ……」


 ガクリと崩れ落ちるリブラ。まあ、仕方ありませんわ。


「こういう事もありますわよ」



 三日後、正式にライオット公爵様の欠場が発表されました。


「ええ~……嘘でしょ」

「あら、優勝の絶好のチャンスではありませんか」

「私は優勝したいんじゃなくて、ライオンジジイに勝ちたいの!」


 ライオンジジイって……。


「はーあ、一気にやる気が失せたわ……私も欠場する」


 別に止めませんが……大丈夫でしょうか。



 案の定、わたくしの危惧していた事態が、三日後に起きました。



 バァン!

「リファっちぃぃぃぃぃぃ!」


 ルディ?


「ドアが壊れますわ。静かに開けて下さい」

「ドアが壊れるのは教会がオンボロだからすいませんすいませんごめんなさいっ」


 取り出しかけた聖女の杖を仕舞い、ため息を吐きます。


「で、何事ですの?」


「リファっち、お願いがあるの!」


「はい、何でしょうか?」


「ライオンもリブラ侯爵夫人も出なくなっちゃったの!」


「そうでしたわね」


「何とかして」


「藪から棒を通り越して暴利ですわ! 具体的に何をしてほしいか、ちゃんと仰い!」


「えっとね、瀕死のライオンを出場できるまでに回復して、リブっちを説得して」


 ああ、やはり。


「欠場者が続出してるのですね?」


「そうよ、そうなのよ! 目玉である二人が出ないんだったら、出る必要が無いって!」


 あの二人を目標になさってる方も多いそうですから。


「だからさ、何とかして」


「自分で何とかなさいな。回復魔術は貴女も得意でしょう?」


 巻き込まれるのは御免ですわ。


「…………にゃっは~ん……いいのかな、そんな事言っちゃって」

「……何ですの?」

「ライオンって、何かに殴られた形跡があったんだけど」


 うぐっ。


「し、知りませんわ」

「嘘じゃない? 主に誓える?」


 ううぅっ!


「く…………わ、わたくしが……手を下しましたわ」


 ニヤリと笑うルディが、とても恨めしく見えました。

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