聖女様の閑話
「はい、これで無事に完治です」
「おめでとうございます、お館様!」
「ご苦労様でした、お館様!」
額に残る傷痕を指でなぞりながら、我が部下達にニコリと微笑んでみせる。
「心配をかけて済まなんだ。この通り〝獅子心公〟の心はまだ折れておらぬ」
「お館様ぁ!」
「公爵様ぁ!」
「触れを出すのだ! 我等が主君・ライオット公爵様が全快されたと! 領民にお祝いだと!」
「「「おおおおおお!」」」
そう言って部屋から駆け出していく我が臣下達…………ふう、やれやれ。
「これでゆっくりと羽を伸ばせるわい。ふぃぃ……」
部下達は心の底からワシの事を慕ってくれておるのじゃが、時々それに暑苦しさを感じるのじゃ。
「怪我の治療の間は、必ずワシの近くに誰か付いていたからのぅ……何もできなんだのじゃ」
ワシの特殊能力『千里眼』と『順風耳』は、使用中は完全に無防備となる。じゃから近くに誰か居る時は、使うのを躊躇せざるを得ないのじゃ。
「しかし。しかぁし! 今ならばできる……できる……できるのじゃあ!」
そう。この部屋にはワシしか居らぬ…………つまりやりたい放題なのじゃ!
「むっふっふ、早速覗き……もとい監視開始なのじゃ!」
無論、見るのはセントリファリスの中央。町の高台にそびえ立つ、オンボロ教会。
「この時間ならば、それぞれ部屋で過ごしておる筈じゃが…………おお、まずは元親分からなのじゃ!」
最近シスターの弟子となった、妖精族じゃな。緑色の髪と緑色の瞳、背中に僅かに残る小さな羽根が特徴じゃ。
「見た目は完全に美少女なのじゃが、その行動が……」
おや、自室に戻ったようじゃな…………む、いきなり服を脱ぎ始めて?
『たく、この締め付け感はいつまで経っても慣れねえ』
ブラのフロントホックをプチンと! そこから零れ出る二つのメロンが…………むっはああああ!
『ん? 妙な邪気を感じるな…………そこか!?』
ビシュ!
うひゃい!?
『……気のせいか……まあいい。一応カーテンは閉めておくか』
カシャアッ
あ、危ない……危なかったのじゃ……。もう少しで、ワシの眉間にナイフが突き立つところじゃった……。
「それにしても、あの娘……良い腕をしておる。もう少し腰を据えて鍛え上げれば、正規の騎士とも互角に渡り合えるじゃろうな」
少し残念に思えるが、シスターの弟子である事を本人が選んだのじゃから、ワシからは何も言えんし何もできん。
「それに、髪をもうちょっと伸ばせばよいのに……首のところより、背中までかかるくらいがワシの好み……む?」
ギイ……バタン
あれはキツネ娘。相変わらずの全身鎧姿じゃな。
キョロキョロ
周りに誰も居ない事を確かめ、呪いの錠で扉を封鎖し……相変わらず厳重じゃな。
「じゃがワシの『千里眼』は壁も突き抜けて見えるからの」
キツネ娘が籠もった部屋の内部を直視。
『……ふんふんふふーん♪』
おお。キツネ娘が鎧を脱ぎ捨てておる。小麦色の健康的な素肌を晒しておる。
『ふふーんふんふん♪ ふふーんふんふん♪』
おおっ! 鎧を脱いで下着だけの状態になると、その際立ったプロポーションが何とも……!
『呪いの下着ぃ、呪いの下着ーぃ♪』
せ、背中に両手を回し、ホックを外し、その双丘が露わに……!
プチン ブルンッ
むっはああああ! 小麦色のメロンが二つ、むっはああああ!
『……んん?』
急にキョロキョロし、肩まで伸びた銀髪をなびかせて……。
『……呪われアイテム〝藻在九の布〟』
ファサッ
な、何じゃ、あの布は!? 急にキツネ娘が見えにくくなったのじゃ!
ぐぬぬぬ……仕方無い、他を見に行こうかの。
む、あれは。
『つっかれたぁぁ……』
シスターの自称一番弟子、元侯爵夫人のリブラ・リブラじゃの。ワシが勝手に首だけ令嬢と呼んでおる娘じゃ。
『相変わらず修行は容赦無さすぎなのよね……』
どうやらシスターとマンツーマンで修行しておったようじゃの。
『ちょっとサボっただけだったのに、あんなに厳しくしなくても』
いや、居残り修行だったようじゃ。ワシもかつて剣を教えておったから分かるが、首だけ令嬢は練習嫌いじゃったからのう。あまりの不真面目さ故、よう居残りさせておったもんじゃ。
『あー……湯浴みでもしようかな』
な、何と! これも普段の行いが良いからじゃろうか!
『リファリスに付き合って沐浴してもいいんだけど、真冬に冷水は勘弁してほしいわ』
それは……ワシでも御免被るのう。
何、年寄りに冷や水じゃと? なあ、お主。年寄りでも若人でも、雪が降るような季節に冷たい水を浴びたいとは思わんじゃろ?
何々、自分は平気じゃと? お主が変なんじゃよ。
『ふんふんふふーん♪』
な!? こらああ、お主が余計な事を言うから、肝心の脱衣シーンが見られなんだじゃろが!
『ふんふんふんふふん♪』
プチン ブルンッ
むっはああああ! 何という至宝! 何という芸術! シスターに負けず劣らずというのは真じゃな!
『ん? この感覚は……』
な、何じゃ? 急に屈み込んで?
『よいしょっと』
大剣じゃと? 湯浴みに何故そんなものを?
『この辺りかなっと!』
ビシュ!
スパン!
「うっぎゃあああああああああ!」
『手応えあり。やっぱりライオンジジイが覗いてたわね』
そ、その後、血塗れのワシが発見され、再び療養生活に逆戻り……。
「あ、あそこを覗くのなら、気配を消さねば無理じゃのう……」
明日から新章です。




