大掃除と撲殺魔っ 二
「あはははは、天誅!」
バガァ!
「ぎゃあ!」
「天罰!」
ゴギャ!
「がはぁ!」
「滅殺! 抹殺!」
メキャグチャ!
「必殺! あはははは撲殺!」
ビチャゴシャア!
プシュー……ドチャ
「あはははははは! 噴水ですわ噴水! 血の噴水なんて珍しいですわよ、あっはははははははははははは!」
「……あれ、リファリスと思われ?」
「思われも何も、あんな事すんのシスター以外居ねえだろ……」
「行ってみる? 行ってみるぅ?」
「……果てしなく嫌な予感しかしねえんだが……止める奴も必要だよな」
「……ねえ、ジョー。ひさびさに帰って来たら、あちこちが血の海になってるね。拙者、凄く見覚えがあるんだけど」
「…………図書館と詰所以外には行かない方が良いか」
「そうね。風に乗って血の匂いがプンプンと…………うっぷ」
「どうした、フレデリカ!?」
「大丈夫、ちょっと吐き気が」
「産まれる!? 産まれるのか!?」
「つわりの段階で産まれる筈無いでしょ!」
「…………下々では、何やら騒ぎが起きておるな」
「はい、大司教猊下。どうやら聖女様が、毎年恒例の年末大掃除を始められた御様子」
「あのような血生臭い大掃除、恒例にしてほしくはないのだが」
「ですが、これによって治安が保たれているのも事実」
「うむ。主の教えによって平穏を保てていないのならば、教えを広める役目を担っている我らの落ち度なのであろう」
「…………」
「お前にも毎年苦労をかけるが、バックアップを頼む」
「御意。毎年の恒例行事であるならば、その後始末にも慣れております」
「穏便にする必要は無い……どうせ馬鹿騒ぎになるのは目に見えている。こういう機会を利用し」
「御意。不正を働く者を炙り出し、処罰致します」
「にゃはぁ……またリファっちが殺ってるぅぅ……」
「大司教猊下?」
「違うよ。今は枢機卿さ♪」
「え、また降格したんですか?」
「にゃは~♪ 代行から補佐、今度は枢機卿さね~♪」
「普通ですと昇格なんでしょうね、大司教から枢機卿になったんですから」
「にゃはぁ、その辺りは色々あったんだよ……それよりメリーシルバーちゃん」
「あ、はい」
「君もそろそろ火消し役を担ってもいい頃かもね♪」
「はい?」
「にゃは~、枢機卿として命じます。リファっちが起こした大掃除の顛末、全て記録して提出しなさい」
「……つまり聖女様が手を下した者をリストアップし、罪状を確認すると?」
「にゃっはー、大当たりぃ!」
「ハァハァハァ、お姉様が躍動なさってるわ。マリーゴールドにも、その鉄槌を振り下ろしてぇ!」
「お気を確かに、王女殿下!」
「ここは最上階ですぞ! 落ちたら間違い無く死にますぞ!」
「あああ、同じ死ぬならお姉様の手に掛かって……!」
「あ、あの……?」
「あ、リブラ侯爵夫人。今は立て込んでますので、今日はお引き取りを」
「いえ、お引き取り願う前に、私から失礼します。あんな王女殿下見たくないし」
「…………同意致します」
「派手に殺られてますなぁ、いつもながら」
「これがいつもなのか?」
「ええ。毎年です。もはや風物詩ですな」
「風物詩って……聖地近くの町なのに、随分血生臭い事で」
「大司教猊下が何も仰られないのですから、黙認されているものと考えています」
「まあ……警備隊だけじゃなく自由騎士団にまで声が掛かるくらいだから、一網打尽にする気なんだろなぁ」
「共同作戦は初めてですが、よろしくお願いします」
「いやいや、こちらこそ。細かい事は現場で話し合って決めるか」
「そうしましょうか」
シスターが大掃除を始めたタイミングで、あちこちで動き始めたようじゃの。まるで示し合わせたかのように、じゃ。
大司教猊下にも何かお考えがあるのじゃろうが、聖地の入口が血で穢れてしまうのは、如何なもんじゃろか。
「構わん。浄化してしまえば、それだけの事」
随分と過激な物言いですなあ。
「他人を食い物にして私腹を肥やすような汚物こそ、真に浄化せねばならぬ。多少の血生臭さは目を瞑ろう」
左様でございますか。大司教猊下も人の子、お孫さんには甘いですなあ。
「これも主の教えに耳を傾ける者の務め」
否定はされんのですなあ…………む? ワシ、ナチュラルに大司教猊下と会話していたような……?
「あっはっはっは! 天誅必須天罰覿面滅殺抹殺必殺撲殺!」
ゴギャギャギャギャギャギャギャ!
「あははははは! まだまだ足りない! 足りない! 足りなあああああい!」
ゴチャア!
「へぶみ!」
「強盗に痴漢に詐欺師! まだまだ血が足りない! もっともっと穢れた血を! わたくしを紅く美しく彩って頂戴…………あはははははははははは!」
「ちょっとリファリス……紅く彩るって言ったって、もう真っ赤じゃないの」
「あらあら、リブラはまだまだ汚れてませんわね」
「返り血浴びるような下手は打たないわ」
「そうですの……でしたら、ほら!」
グシャア!
「ごひゃ!?」
ブジュウウウ!
「きゃあ!」
「あっははははは! リブラも紅くなりましたわ! 公金横領犯の穢れた血で、紅く紅く染まりましたわ……あはははははははははははは!」
「え、ちょっと、うぇぇ……」
「さぁて。あの二人も紅くしなくては」
「あの二人って……リジーとモリー?」
「貴女と同じ弟子なんですから、そこは平等に…………あはははははははははは!」
「うわあ……早く逃げなさいよー」
ゾクッゾクッ
「!?」
「さ、寒気が……?」
年末大掃除もクライマックス!




