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騎士様と撲殺魔っ

 銭湯での騒動から三日後の事じゃ。普段通りに奉仕に勤しんでいたシスターの元に、来客があったのじゃ。しかもそれは、全身鎧で固め、馬に跨がった男達の集団……所謂騎士じゃったのじゃよ。

 騎士と言えば、自由騎士団(フリーダン)なんて気になるワードが出てきておったが……さてさて、どうなるやら……。



「…………!」


 お昼近く、段々と気温が上がり始めた頃、わたくしとリブラは花壇周りの清掃を行っていました。


「あー、見て見て、白いちっちゃな花が咲いてるよ」

「それは……ドクダミの花ですわね」

「ドクダミ? 名前と見た目が合ってないわね」

「毒は無いのですがドクダミなのです」

「へえ……クンクン」

「あ、かなり臭いですわよ」

「うえええっ」


 あ、遅かったですわね。


「は、早く言ってほしかった…………ん?」


 ドクダミから離れたリブラが、何かに気付いて後ろを向きます。


「どうかしまして?」


「……馬が沢山来るね」


 馬が?


「それに甲冑の擦れ合う音……これは騎士か」


 騎士様、ですの?


「何か有ったのでしょうか」


「この金属音……一般的な鉄鎧じゃない……まさか、銀鎧?」


 銀の鎧、ですの?


「この大陸で、銀鎧を装着する事を許されているのは……聖心騎士団のみ」


「聖心騎士団って……随分と」

「古い呼び名ですな。しかし、現在は自由騎士団(フリーダン)です」


 っ!?


「な、何者ですの!!」


 わたくしとした事が、突然現れた黒い甲冑に驚き、思わず聖女の杖を向けてしまいました。


「待って、リファ……じゃなくてシスター! この人……じゃなくてこの方は怪しい方では在りませんわ!」


 え?


「これはこれは、聖女様を驚かせてしまったようで、申し訳ございません」


 黒い甲冑の騎士様は、優雅に一礼なさいます。


「い、いえ、わたくしこそ、はしたない姿をお見せして申し訳ございませんでした」


 わたくしもシスターとして、きちんと答礼致します。


「私は自由騎士団で斥候長を務めている者にございます」


 自由騎士団の斥候。確かに黒い鎧は、斥候部隊だけに許される色ですわね。


「騎士団長の命により、我等自由騎士団が訪問する旨をお伝えするようにと、こうして伺った次第」


「それはご苦労様です……が」


 わたくしは再び聖女の杖を向け、黒い騎士様の眉間前で止めます。


「わたくしを含め、この聖リファリス礼拝堂にはか弱き女性しか居りません。そのような場所に気配を遮断してまで気取られぬように近付くなど、何か邪な心持ちが有って……と疑われても仕方ありませんわよ」


「……申し訳ございませんでした。そこの見習いのシスターより、底知れぬ剣気を感じましたので」


「……聖女の咎『茨』」


 バシュッ シュルル 


 わたくしの言葉に反応して、地面から茨が伸びて黒い騎士を絡めます。


「こ、これは……」


「申し訳ありませんが、わたくしは貴方を信用する事はできません。よって、魔術により暫く拘束させて頂きます」


「う、動けない……」


 その『茨』は邪な心が強い程に、拘束力が強まります。つまりこの方には、わたくし達に対する何かしらの企みがあるのでしょう。



 ……ガチャガチャガチャ

 カッカッカッ


 鎧の当たる音と、馬の蹄の音。


「……いらっしゃいましたわね」

「そうだね」


 黒い騎士様を拘束してから五分くらいで、銀に輝く騎士様の一団が現れました。


「そこに居るのは聖女と呼ばれるシスターで相違ないか!」


「わたくしは聖女ではありませんわ」


「そうか。邪魔したな」


 ガチャガチャ カッカッカッ……


 ……え?


「き、騎士団長! 聖女様です! この方が紛れも無く聖女様です!」


 カツッ


「何? と言うより、何故貴様はそこで座り込んでいるのだ?」


「わ、私の事より、この方が聖女様で間違いありませぬ!」


「そうか、聖女なのか」


 …………あの方が、騎士団長なんですの?



 ふうむ、どこか毛が一本抜けたような雰囲気の騎士団長じゃが……大丈夫なのじゃろか?



「我が自由騎士団長で自治領主である、アレックス・フリードである」


「……シスター・リファリスでございます」


 答礼をしながらも、団長を名乗られる方を値踏みしてしまいます。自分の部下が捕らわれているのが分かっているでしょうに、解放を要求しないのはどういう事でしょうか。


「団長、騎士団員が捕まっておりますぞ」

「そのようであるな」

「…………っ」


 副団長らしき方が、団長様に詰め寄られますが、相手にされません。


「誤解の無いように、言わせて頂きます。この方は気配を消されてわたくし達に近付いてこられました。故に我が身を守る為に拘束させて頂いております」


「気配を消して、とな?」


「はい」


 それを聞いた副団長様は、小さく溜め息を吐かれました。口の動きからして「またか」と仰ったようです。


「その、でしたら私から説明致します。その者は優秀な斥候なのですが……強い者を見つけると、戦いを仕掛けようとする悪癖がございまして……」


 強い者…………ああ、リブラですわね。かなりの剣の使い手の筈です。


「成る程、そういう事でしたの。わたくし達に対して、何か邪な欲望を抱かれたのかと」


「私からよく指導しておきますので、今回はお許し頂けないでしょうか?」


 まあ、それが一番良いでしょうね。このまま拘束を続ける訳にもまいりませんし。


「分かりましたわ。今回は」

「そうか、ならば処断せねばな」

 ドスゥ!

「ぐああああ!」


 …………え?


「団長!? な、何を為さっているのですか!!」


 わたくしが振り返りますと。


「……ふんっ」

 

 剣に付いた血を振り払う騎士団長と。


 ブシュウウゥゥ……

 バタッ


 激しい血飛沫を撒き散らしながら、倒れていく黒い騎士様が見えました。

この騎士団長怖え、と思われる方は、高評価・ブクマを頂ければ、シスターが直々に成敗致します。


……たぶん。

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