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秘密の部屋と撲殺魔っ

リブラ視点。

「はあ……この部屋で最後か」


 例の〝埃高き〟魔王夫人のせいで、汚れに汚れきった聖リファリス礼拝堂。日にちをかけてゆっくりと掃除していき、最後に残された部屋がリファリスが書庫として利用している物置部屋だ。


『リブラにだけは教えて差し上げますわ。その書庫の奥には、わたくしの秘密の部屋がありますの』


 秘密の部屋の内容までは教えてくれなかったけど、これはリファリスと私だけが知っている秘密だ。

 え? どこでそれを聞いたのかって? それは寝物がた……コホン。


「リファリスが帰ってくるまでに、この部屋の掃除を終わらせておこう」


 何故かベアトリーチェを連れて出掛けたリファリス。理由は聞いてないけど、どこかへ遠出するのだろう。


「近場だったら日帰りもあり得る。だったら、今日のうちに片付けておこう」


 あわよくば好感度アップ……という下心はあったけど、普段から何かと忙しいリファリスを手助けしたいのは本音だ。


「ではご開帳……ゲホっ!?」

 むわわんっ


 扉を開いた途端、綿埃の群れが大挙して私に迫ってきた。


「いや、待って待って。この部屋もリファリスは普段から掃除してた筈だけど……」


 そうは言っても、火事でも起きたんじゃないかと誤解されても仕方無いくらい、埃が濛々と舞っているのは事実。


「はあぁ……半日で終わるかな……」


 でもやるしかない。決意を新たに、口を布で覆い袖を捲って煙……いえ、埃の中に入っていった。



 ポンッポンッ


「本はこれで全部かな。結構な量だったわ」


 最近覚え始めた魔術で風を起こし、開けた窓から煙……もとい埃を吹き出す。


 パンパンパン!


 ハタキを二刀流で使いこなし、窓枠や本棚に積もった埃を容赦無く落としていく。

 それと同時進行で、日当たりの良い屋根下に埃を払った本を並べて虫干しも行う。


「それにしても、ほとんどが聖心教関連の本ばっかり。他は読まないのかな?」


 教典である福音書を始め、学術的に論じた研究書から歴代の聖人の伝記、果ては子供用に編纂された絵本まである。敬虔と言うか熱心と言うか……。


「ん? この本棚はちょっと毛色が違うわね」


 少し派手な装飾が施されたそれは、巷で流行している恋愛小説だった。


「へ~、リファリスってこういうのも読むんだ…………って、ヒロインがシスターだしっ」


 他にも「明日から役立つ節約術」や「些細な悩みよ、さようなら」とかいう本もあるけど、両方とも著者は牧師さん。


「何かしら聖心教が関わってるって…………徹底してるわねぇ……」


 ここまでくると感心するってレベルじゃなく、引く。


「…………エロ本の一つくらいあったって……」


 うん、無い。流石に聖女認定のシスター、そういう類のものは一切合切見当たらない。


「……ちぇ。ラブリの部屋には結構隠してあったのに」


 全て姉妹同士の百合系だったのは怖かったけど。


「まあ、仕方無い。今回は掃除した事で好感度アップ……で我慢しとこ」


 

 日が傾き始めた頃、虫干ししていた本を集めて本棚に仕舞う。


「ふー、ふー。結構疲れたわぁ」


 量が量だけに、流石に体力を使う。好感度アップの為とは言え、なかなかにこれは堪える。


「はあ、これで最後っと」

 ストンストンストン


 元通りに並べていくものの、疲れのせいかちょっと間違えた。


「あ、一巻と二巻が逆だった」


 直さなくちゃならないけど、後回しにして持っていた本を片付ける方を優先。


 ストン

「はい、終わり。後は一巻と二巻を」

 ズズズズズズ……

「……え?」


 何かがズレた音が聞こえてきた。大きい物を引き摺ったような……。


「……確認しとこ」


 好奇心に駆られて音がした方へ行ってみる。すると、左隅の本棚が動いてるではないか。


「……扉?」


 そこには隠されていた扉があった。うん、リファリスが言っていた秘密の部屋だろう。


「……ここも……掃除しないと駄目かな?」


 適当な理由を言いつつも、結局好奇心が勝った私は、その隠し扉を思い切って開く。



 ギギィ……


 その先には……。



「……う゛っ」


 薄暗い部屋にぶら下がる、無数の鎖。夥しい血の跡。

 そして隅に置かれた本棚には「撲殺名鑑」と題された本がズラーッと……。


「ご、拷問部屋……?」

「違いますわ」


 ひぃ!?


「ただいま戻りました……が、よく封印術式を解いたものです」


 薄暗い部屋に入ってきたリファリスの顔は黒く染まり、紅い三つの月が煌々と浮かび上がって……!


「ここはわたくしの趣味の部屋。撲殺研究室ですわ」


 ……………………は?


「撲殺もただ鈍器を振り下ろせば良いというものではありません。鈍器の主さ、速さ、角度。色々な要素が混じり合い、一撃必殺が成立するのです」


 え、えっと……?


「それを研究し、実践しているのがこの部屋ですわ」


「け、研究はまだしも、実践って?」


「まあ大体は、巷に溢れています屑さんや塵さんを捕まえてきて、協力をお願いしています」


 ク、クズさんやゴミさんって、要は犯罪者連中だよね?


「そ、その、協力してもらった後って……?」


「はい? 皆さん改心なさって、世の為人の為に働かれてますわよ?」


 生粋の悪がボランティアに励むくらいの何かが、ここで行われてるっての!?


「ではリブラ、貴女も協力して下さいます?」


 え!?


「昨日の夜、同意無しで【パヤパヤ】に及んだ罪は、重くてよ?」


 ひ、ひいいいい!!



 好感度アップに…………なったのでしょうか。

クリスマス閑話として、真っ赤に染まった服を着たリファリスが、ベアトリーチェが引くソリに乗って悪い子を撲殺する話を書こうと思ったけど、止めた。

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