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お散歩する元獣王っ

 みゅ~~ん……


 教会の裏庭にある物置が寝床なベアトリーチェですが、巡礼の旅から帰ってきて以降、元気がありません。


「どうかしましたか? もしかして、ご飯がお口に合わなくて?」

 みゅんみゅん!


 それは違う、それは無い! と仰っているようです。


「でしたら、どうしたんですの? 明らかに様子がおかしいですわよ」


 ……みゅ~ん……


 ……実は?


 みゅんみゅみゅんみゅ~ん……


 え? 毎日そこの裏道を通る、あの子のように?


 みゅみゅーーーんん!


 自由に歩き回ってみたい……と仰ってるのですか?


「自由に……は流石に。ファンシー化してるとは言え、やはり熊一匹で街中を歩き回らせる訳には……」


 みゅみゅん! みゅーん!


 それは分かってる! だけど、それらを解決する画期的方法を見つけた……と仰ってます。


「画期的な方法って……あ、夜にお散歩?」

 みゅーん……


 眠たいの……と仰ってます。流石の元獣王も眠気には勝てないようです。


「では、どのように?」

 みゅん、みゅみゅんみゅんみゅん、みゅーん♪


 え、ええ? お昼頃に毎回通っている、老婦人の……ええ?


「おやまあ、聖女様、ご機嫌良う」


 え?


「あ……これはご丁寧にありがとうございます」

「ベアちゃんも、こんにちは」

 みゅん!


 右前足をサッと挙げてベアトリーチェは応えます。わたくしも噂の老婦人の登場に驚きつつも、どうにか挨拶を自然に返せました。


「お散歩ですか?」

「ええ。最近はこの子との散歩が日課になってますの」

 ワン!


 あら、可愛いワンちゃん…………って、何か咥えていますわね。


「あら、気付きました? この子、買い物鞄を咥えて持ってくれるんですの」


 ワンちゃんが鞄を咥えて………………ま、まさか?


 みゅーん!


 ……ベアトリーチェ、買い物鞄を咥えさせる、という理由で、自分をお散歩に連れて行け……と仰りたいんですの?



 明くる日。


 デンデンデンデン

 みゅんみゅんみゅんみゅん♪


 ……一応試してみましたが……。


「ひぃぃ!?」

「うああああ!!」

「きゃああ!」


 ……当たり前ではありますが、熊を見て逃げていく町の人々……。


「ベアトリーチェ、やはり鞄を咥えていても、熊は恐怖の対象でしかありませんわ」

 みゅーん!?


 そんなまさか!? と仰られても……。


「せ、聖女様! 何故ベアトリーチェを連れて街中を歩いてらっしゃるのですか!?」


 あああ……やはり警備隊の皆様が……。


「団長? ちょーっと人騒がせじゃないか?」


 あああ……自由騎士団(フリーダン)まで……。


「何やってるのリファっち! ベアトリーチェは街中NGでしょ!」


 ああああああ……ルディまでえええ!



 三方から散々お叱りを頂き、この日はお散歩断念となりました。



 みゅうん……


 私のせいでご主人様が怒られちゃって、ごめんなさい……と仰ってます。


「気にしないで下さいまし。ベアトリーチェの不満を汲んであげられなかったわたくしの落ち度ですわ」


 確かにベアトリーチェにとって、柵に囲まれた裏庭では狭すぎるかもしれません。それを解消するには、やはりお散歩が一番なのですが……。


「ワンちゃんみたいに紐で繋いでの散歩は以ての外、先日の買い物鞄作戦も駄目……残る手は……」


 セントリファリスに戻ってきた時、ベアトリーチェが騒がれる事は一切ありませんでした。ですから、あの方法ならば……。



 明くる日。


 デンデンデンデン

 みゅんみゅんみゅんみゅん♪

 ガラガラガラガラ


「あ、シスター、お出かけですか?」

「はい、市場へお買い物に」

「そうですか…………え、馬車で?」


「お、団長。どっかに出掛けるのか?」

「はい、市場へお買い物に」

「ふーん…………は? 馬車で?」


「にゃは~、リファっち、また遠出?」

「いえ、市場までお買い物に行くだけですわ」

「そっかそっか~…………ん? 馬車で?」



 ガラガラガラガラキキィィ

 みゅーん!


 はい、着きましたわ。馬車を駐車場に停めて、ベアトリーチェを繋いでおいて……。


「じゃあベアトリーチェ、少し待っていて下さい」

 みゅん!


 右前足を器用に挙げ、わたくしに応えてくれます。これならば大丈夫でしょう。



「毎度ありぃ!」

「またお願いします」


 これで必要なものは全て買いました。


「さて、ベアトリーチェも待ちくたびれているでしょうから、そろそろ戻りましょうか」


 流石に馬車でお買い物はやり過ぎだった気はしますが、ベアトリーチェの息抜きになるのでしたら、たまには良いでしょう。


「…………あら?」


 繋いでいたベアトリーチェの周りに、何故か人集りが……?


「わーい、べあたーん!」

「べあたん、べあたん!」

「べあたん、たかいたかーい!」

 みゅううん!


 こ、子供の声?


「ちょ、ちょっと通して下さいまし!」

「ああん!? うっせえな」

 ドズゥン!

「このモーニングスターの錆になりたければ、そのまま邪魔していて下さい」

「し、失礼しました!」


 割れるかのように人集りに道ができ、その先には……。


「ベ、ベアトリーチェ?」


 いつぞやの託児施設のお子さん達と戯れるベアトリーチェが居ました。


「あ、聖女様。ベアトリーチェちゃんを申し訳ありません」


 あら、先生まで。


「い、いえ……それよりお子さん達、ベアトリーチェが怖くありませんの?」


「ベアトリーチェちゃんが? まさか。子供達には大人気なんですよ」


 い、いつの間に?


「あの、もう少し遊ばせてもよろしいですか?」


「え、ええ、構いませんわよ」


 と、言うより。


「もし宜しければ、定期的に託児施設に連れて行っても?」

「え、ベアトリーチェちゃんをですか!? こちらとしては大歓迎です! 子供達も喜びますわ!」


「「「べあたん、べあたん!」」」

 みゅううん!



 こうして、ベアトリーチェの息抜きは意外なところで実現しました。

子供に大人気でした。

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