うんちくを語る撲殺魔っ
カーン……カーン……
再び荘厳に鳴り響く教会の鐘。不思議な事に、今まで綺麗な音を奏でていた筈ですのに、何故かサビサビになって使えなくなっていたのです。
「言いたくないけど、魔王の奥様って、何かの呪い持ちなの?」
……否定できません。
ヒュッ
「え、呪い、呪い?」
どこからともなく現れるリジーは、もはや予想通りです。
「いえ、実際の呪いでは無く、そうかもしれない……という話ですわ」
「……何だ」
ヒュッ
再び消えました。呪い以外は興味無いのが見え見えですわね。
「……あのさ、リファリス」
するとリブラが、おずおずと。
「凄く凄く凄く今更なんだけどさ…………呪いって、一体全体何なの?」
本当に今更な事を尋ねてきました。
「…………リブラ、呪いを解く事も重要な奉仕ですのよ?」
「分かってる。分かってるんだけど……なかなか言い出せなくて」
まあ……なかなか言い出せない空気を作ってしまったわたくしにも、責任の一端があるのでしょう。
「分かりましたわ。軽く解説して差し上げますわ」
「あ、ありがとう……だけど程々でお願いします」
「…………リブラ、習う側からのそのような要望は、大変な失礼に当たりますわよ?」
「軽い質問から一日が終わった事って、一度や二度じゃないでしょ? それが原因で、朝の奉仕が真夜中の奉仕になった事って、一度や二度じゃないでしょ?」
こ、こほん……。
「良いですか? そもそも呪いとは、属性的には闇属性となります。それは分かりますわね?」
「でしょうね。それ以外の属性の枠には収まらないし」
「ええ。ですので対抗属性である聖属性が有効なのです」
「……あれ? でも呪いって『身体が焼ける呪い』とか『毒に侵される呪い』だとか、他の属性効果が出るのも多いよね?」
「そうです。そこが呪いの特殊なところでもあり、厄介な部分でもあるのです」
「ふむふむ」
「まず呪いとは、一言で言えば『生命活動の阻害』です」
「生命活動の阻害って、また小難しい……」
「小難しくはありませんわ。呪いとは即ち、生きる事の妨害を目的とした術式なのですから」
どうにも理解し難いようで、微妙な表情をしています。
「そうですわね、もっと噛み砕いた言い方をするならば…………一撃で倒すのではなく、ジワジワと苦しみを与えながら死に近付けていく……それが呪いでしょうか」
「あ、つまり毒みたいなもの?」
「そうですわね、毒に近いですわね」
「あー、成る程」
最初からそう言った方が早かったでしょうか。
「で、呪いの効果が多岐に渡るのは、知っての通りですわね?」
「うん、無論」
「えーっと……少々お待ちを」
確か胸の谷間に…………ありましたわ。
グイイイ……ドスゥン!
仕舞ってあった黒板を取り出し、図に書いて説明します。
「まず呪いは、先程も言った通りに闇属性になります。ですが他の属性効果が出るのが分からない、というのがリブラの質問だった訳ですが……」
黒板に聖属性と闇属性を分けて書き、矢印によって対立構造を示します。
「実は聖属性と闇属性には、よく似た性質があるのです」
「よく似た……性質?」
「はい。それが先程のリブラの質問の答えとなりますわ」
「よく似た性質……全く違うものなのに、似た性質?」
「そもそも聖と闇とは何ですか?」
「へ?」
「聖の象徴とは光で、闇は闇そのもの。ですが、お昼が聖属性で夜が闇属性という訳ではありません」
「ま、まあ、そうね」
「即ち聖と闇は『概念』と言って良いでしょう」
「概念?」
「はい。他の属性のように、象徴となるものが固定されていない属性。つまり、形が無い」
「は、はあ……」
「ですから、どんなものにも乗せられる……つまり属性に属性を重ねる事が可能なのです」
「はいい?」
「一番分かり易いのは聖火でしょうか」
「聖火……ああ!」
「火属性の筈ですのに、聖属性も持っていますわね? このように、聖と闇は他の属性と重なる事が可能なのです」
「あ、そっか。呪いによる毒も、土や木属性と闇属性とのハイブリッドなんだ」
ハイブリッド。そう言った方が分かり易いですわね。
「そうです。つまり呪いとは『闇と他属性とのハイブリッド』の総称なのですわ」
「つまり呪いの反対の祝福は『聖と他属性とのハイブリッド』なのね」
「はい。但し祝福も呪いも、瞬時に発動させるには術式の組み立てが難解なのです。ですから武器や防具に付与する形で使うのが一般的になったのですわ」
「そうか、それが呪具なのね」
理解できたようですわね。
「あ、ですが聖属性と闇属性のハイブリッドは不可能です」
「それはそうね。打ち消し合うものなんだし」
「ですが、聖と闇が極限まで打ち消しあった末に、もう一つの属性があるらしいのです」
「え?」
「それは『虚無』です。今のところ、誰も再現できていないのですが」
「虚無……か」
「あの~……」
「あ、はい?」
「鐘を聞いてお祈りに来たのですが……まだ始まらないのですか?」
え、えええ!?
「もうお昼なんですが……」
「早くして頂けるとありがたいのですが……」
きゃあああああああああ!
「し、失礼しました! 今すぐ始めますので、少々お待ちを!」
「やっぱりこうなったわね」
「リブラ、貴女も動きなさい!」
「あーはいはい」
結局今日は、夕方の奉仕が真夜中の奉仕となりました。
語りすぎました。




