三百話達成記念閑話 露出狂vs撲殺魔っ
一話ずれましたが、番外編をアップ。
ここは……どこでしょうか……? 先程までわたくしは教会でお祈りをしていた筈なのですが……?
「あ、あっれー? 何で急に周りが真っ白になっちゃったわけ……?」
あら? 霧の向こうから、誰かいらっしゃるようです。
「もっしもーし、そこに誰かいるのはわかってんだから、さっさと出てきなさーい」
……わたくしの事でしょうか?
「そう仰る貴女こそ、姿を見せて頂けませんか?」
「あーはいはい。今行きますよ」
ちょっとイラッとしたらしく、小さく舌打ちが聞こえた気がしました。
「……やっぱりデカいんでやんの」
ゾクッ
「……っ!?」
突然耳元で声がしたので驚いて振り向くと、そこには黒髪の美少女が立っていました。
「あ、貴女、い、一体!?」
「あー、ビックリしちゃった? ごめんごめん」
素晴らしい括れを見せつけるかのように、大胆なビキニアーマーを装着した美少女は、猫を思わせる顔立ちをニッコリと微笑ませました。
「あんた、誰?」
「……人に名を問うのでしたら、まずは自ら名乗るのが礼儀でしょう?」
「あはは、確かにそうね……でもどうしようかな。私、仲間になりそうな娘と殺す相手にしか名乗らないって決めてんだけど」
「貴女……殺し屋ですの?」
「元、だけどね」
道理で。先程から一切足音が聞こえないのです。
「で、あんたは、私に敵対するつもりなのかしら? だったら……」
美少女の頭に付いている赤い鬼の面から禍々しい魔力が立ち上り、それが形になって両手に現れました。
「殺り合っちゃう?」
いつの間にか円形の刃を両手に持った美少女は、スゥと目を細めます。
「……本来でしたら殺生は慎むべきなのですが……何故でしょうか、貴女とはこうならざるを得ない運命なのでしょうね」
わたくしもモーニングスターを胸の谷間から取り出し、構えます。
「っ…………嫌みか! それ、嫌みか!」
はい?
「そのムダにデカいの、削ぎ落としてやる!」
シュタ!
っ!?
シュパパパパパ!
ジャララッ ゴト
「な……モーニングスターが、いつの間に……」
鎖を断ち切られたモーニングスターの先が地面に落ちました。
「そんな大振りの武器じゃ、私には勝てないわよ。さっさと降参しなさい」
そう言って銀のメッシュが入った髪を振り払います。
「……モーニングスターでは……勝てませんわね」
再び胸の谷間に手を突っ込み、聖女の杖を取り出します。
「……あらあら、シスターにしては、物騒な武器ばかりお使いのようで」
「貴女はそう仰いますが、シスターに相応しい武器なんて、あり得ないのではなくて?」
「それはまあ、確かにそうだけど」
スンッ
「どっちにしても、そんな大振りの武器じゃ、私は捉えられないわ」
い、いつの間にわたくしの背後に!?
「さようなら」
ザクン!
……斬撃が、わたくしの頸動脈を通過し。
ブシュウウウ!
赤い飛沫が、辺り一面を染めていきます。
「勝負あり、ね。言っちゃ悪いけど、あんた私の足元にも及ばない」
「そうですか。ですが……『癒せ』」
パアアア……
傷が塞がり、失った血液も再生されます。
「なっ!?」
「これぐらいで、わたくしを殺せるとでも?」
しばらく口をパクパクさせていた美少女は、大きなため息を吐かれました。
「何て規格外な回復魔術よ……致命傷を一瞬で治しちゃうだなんて」
「あら、規格外なのは貴女も同じでしょう? わたくしも戦い慣れているつもりですが、何度も背後を取られてしまうなんて初めてですわ」
「はああ……ゾンビアタックリアル版か……まあ、それならそれで、殺り方はあるけどね!」
ッタン!
再び消えた美少女は、再びわたくしの背後に……。
「甘いわ」
っ!? こ、今度はわたくしの懐に……!
「だったら痛みで回復魔術に集中できなくすればいい。はあああっ!」
シュパパパパパパパ!
ブシュウウウ!
わたくしの腕、足、胸元、お腹。あちこちに切れ込みが入り、血を吹き出します。
「魔術にとって集中力の阻害は致命的。これだけの傷を負って、まだあれだけの回復魔術が使えるかしら?」
血塗れになりながらも、わたくしは首を傾げざるを得ませんでした。
「この程度で、魔術が阻害されますの?」
「この程度って……一番痛みを感じるとこばっか斬ったんだけど!?」
「別に問題ありませんわ……『癒せ』」
パアアア……
再び塞がっていく傷を見ながら、唖然とする美少女。
「……信じらんない。あんた、痛みを感じないの?」
「これも武術における到達点の一つでしょう?」
「確かにそうだけど……あははは、回復魔術士との組み合わせって反則よね」
「あら、負けを認めますの?」
「まさか。ていうか、あんたの大振り攻撃なんか、絶対に私には当たらないんだから」
「そうですか。でしたら貴女の攻撃は、わたくしを絶対に殺せませんわよ」
無限に思える時間の中、結局わたくしは一撃も与える事ができず、あの美少女もわたくしを殺す事はできませんでした。
「あら? どうやら終わりのようですわね」
「はあ、はあ……やっと終わりかぁ。ていうか、斬り疲れた」
「勝負は……引き分けですわね」
「……そうね。戦い自体は私の圧勝だけど、殺すことはできなかったわけだし」
「うふふ、次に逢えましたら必ず撲殺して差し上げますわ」
「いや、私はもう願い下げなんだけど……」
「……んう……」
あら……ここは……。
「くかーくかー」
「すー……すー……」
リジーに……リブラですわね。
「…………夢……だったのでしょうか」
夢にしては、リアルだったような……?
パラッ
「あら?」
傷一つ無い身体から、何故か寝間着だけが細切れになって落ちたのでした。
わかる方にはわかって頂ける、あり得ない戦いでした。




