おねむの撲殺魔っ
サッサッサッサッ
パタパタパタパタ
ゴシゴシゴシゴシ
「ケホケホ……凄まじい汚れだな」
「仕方ありませんわ。これも主がわたくし達に課した試練なのでしょう」
「嫌がらせみたいな試練だよなあ……」
モリーの口からは愚痴しか出てきませんが、それでもちゃんと手が動いていますので、結構手早く片付いてはいきます。
「あとは床掃除でお仕舞いですわ」
「あとは床掃除……か。だけどまだ一部屋目だもんなぁ」
ここはわたくしの部屋です。ひとまず礼拝堂やキッチン、トイレといった重要なところの掃除を優先的に終わらせ、次にようやく自分達の寝る部屋に取り掛かったのですが……。
「リファリス、シーツも全部煤まみれだよ」
洗濯をお願いしたリブラの悲しいお知らせにより、今日中に全ての部屋を終わらせる事は難しくなり……。
「仕方ありませんわ。とりあえず最低一枚だけでも、使えるように致しましょう」
……という訳で、今夜は掃除が完了していますわたくしの部屋で四人で寝る事になりました。
「なあ、冷静に考えてみればさ、今までずっと野営してきたんだから」
「「「ベッドで寝たくありませんの?」」」
「そ、そりゃあ、まあ……つーかよ、何で姉御達までシスターの口調?」
「それはわたくしに言われましても」
わたくしのベッドはキングサイズですので、無理をすれば三人くらいは寝られます。
「いや、俺はキッチンで寝るわ。流石にまだ女子会の雰囲気には慣れてねーし」
そう言ってモリーは寝袋を手にし、サッサと退散していきました。
「私はベッドを選ぶ」
「私は抱き枕としてリファリスを選ぶ」
「うぇ!? な、なら私も抱き枕として」
「わたくしは断固拒否しますが何か?」
「「い、一緒に寝るだけで充分です、はい」」
そう言い合いながらもベッドメイキングを終わらせ、ようやくわたくしの部屋が整いました。
「それにしてもリファリス、意外に大きいベッド使ってるんだね」
「元々は孤児院で使わなくなっていたベッドを、わたくしが引き取って修理したのです」
「再利用品かあ……でも割としっかりしてるわね」
「まあ、教会のあれこれを自分で直しているいれば、そのくらいは朝飯前ですわ」
「いやいや、充分にプロ顔負けだと思うけど」
お褒め頂き恐縮ですわ。
「さて、今日は早めに休むようにしましょうか……夕ご飯も早くて良いですわね?」
「「異議無ーし」」
リブラとリジーには他の用事を頼み、わたくしはキッチンに向かいます。
「あれ、シスター。もう晩飯か?」
「ええ。今日は皆さんお疲れでしょうから、早めに休んだ方が良いかと」
「そうだな。俺も自分の寝るとこ準備できたら、料理手伝うよ」
「お願い致します」
少し早めの夕ご飯を終え、手早く入浴も済まし、夕方のお祈りもちゃんと捧げました。
「ふわぁぁ……眠たくなってきましたわ」
「そうだな。俺ももう寝るわ」
キッチンにある大きめのソファを仮の寝床としたモリーは、早々に寝袋に潜り込んで寝息を立て始めました。
「モリーも疲れたんだね」
「ではわたくし達も寝ましょうか」
「「はーい」」
寝間着に着替え、最初にわたくしがベッドに入ります。
「真ん中はリジー、その次はリブラで」
つまりリブラ・リジー・わたくしという並びです。
「えええ!? 私、リファリスと離れちゃうの!?」
「……何か不都合でも?」
「えー、だってさー、夜は長いんだしー」
「……何か不都合でも?」
「別に不都合は無いんだけどさー、せっかく一緒に寝るんだしさー」
「ですから、わたくしの隣じゃなくて、何か不都合でもありますの?」
「だってさー、夜は長」
「あらあああ、そんなに夜がお好きなのでしたら、永遠の闇の底に沈めて差し上げましょうか?」
ジャララッ ズシィン!
モーニングスターを目にしたリブラは、一気に静かになり。
「リジーの隣で無問題でございます、はい」
素直にリジーの隣に寝転んだのでした。
「すぅ……すぅ……」
「くーくーくー」
「ふ……ふっふっふ……やっと寝たわね、二人とも」
ゆっくりと起き上がると、隠しておいたロープを取り出す。
「まだリファリスみたいな戒め魔術は使えないけど、この程度だったら…………蛇の戒『代替』」
本当なら水や空気のような形の無いものを蛇に見立てて相手を束縛する魔術なんだけど、今回はロープを代わりに使用する。
スルスル……ギュッ
スルスル……ギュッ
シュシュシュ……ギュウウッ
よし、上手くいった! 形がある分、やっぱりやりやすい!
「あとは目隠しをギュッと…………よし、完璧!」
これでリファリスと何かしてても、リジーは何もできない。
「うふふふ、久し振りにリファリスを頂きまーす!」
邪魔なリジーを床に転がす。
グルルル……
……つもりだったんだけど。リジー、妙に身体がゴツゴツしてるような?
「え、え、ええ?」
グルルル……ガブゥ!
「いったああああああああいい! な、何なの!?」
グルルル……ガウウ!!
「な、何でこんなところにリザードが!? ひえええ!!」
ガウガウガウウ!
ガブゥ!
「いったああああああいい!」
「ふわぁぁ……よく眠れましたわ…………あら?」
グルルル……
「しくしくしくしく……」
何故かわたくしの部屋にリザードが居て、リブラの上に乗っかって……?
「あ、痴漢対策呪具が発動してる」
これまた何故か縛られているリジーが、器用に紐を焼き切っています。
「痴漢対策呪具?」
「邪な心の輩が近付くと、凶悪リザードに変身して襲いかかる腕輪型呪具」
もはや何でもありですわね、呪具。
「ごめんなさいいい……助けてえええ」
さて、邪な心持ちのリブラには……モーニングスターで良いかしら。
三百話達成。




