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懺悔と撲殺魔っ

 えー、おっほん。取り乱してしまい、申し訳なかったのう。

 では話の続きをしようかの……そうじゃな、とりあえずシスターの普段の生活を紹介するとしよう。



「この世界に光が溢れん事を……」


 わたくしの一日は明朝のお祈りから始まります。


「……ふう。では今日も一日献身致します」


 お祈りが終わると、ホウキを手に教会前の表通りへと移動し。


 サッサッ ザッザッ


 熱心に落ち葉やゴミを掃き集めます。これをわたくしは毎朝の習慣にしております。


「聖女様、おはようございます。朝から精が出ますね」


 そんなわたくしを「聖女」と呼ぶ声がします。顔馴染みの衛兵さんですわね。


「おはようございます。それと、毎回訂正しますが……」

「わたくしは聖女ではありません、ですか?」

「……その通りですわ」


 何故かわたくしを聖女として奉ろうとする方々が多くて困っているのです。毎回訂正するのですが。


「毎度の事ですがね、聖女様以上に聖女様らしい聖女様はいらっしゃいませんよ?」


「聖女様以上の聖女様と言われましても、比較対照できますの?」


「あははは、そりゃ無理だ」


「うふふ、面白い方ですわね」


「はふっ!?」


「はふっ? 何ですの、それは?」


「なななな何でもありませんです、はい!」



 突然割り込んでしまうがの、ちぃと説明させてもらおうかの。

 この衛兵、シスターにぞっこんでの。毎朝見回りの振りをしてここを通り、会話する事を毎日の糧としておるのじゃ。ワシは直接教会に行った方が早いと思うのじゃが……。



「で、ではまた!」


「はい、見回りご苦労様です」


 何故か顔を赤く染められたまま、走っていく衛兵さん。忙しいのでしょうね。


「あああ、そうだったそうだった!」


 それが何かを思い出したらしい衛兵さん、急停止と急反転を同時に行って戻ってらっしゃいました。


「あ、足首は大丈夫ですの?」


「大丈夫です大丈夫です!」


 本人は大丈夫だと仰ってますが……念の為に。


「白魔術『回復の奇跡』」

 パアアアア……

「あ……」


 わたくしの手から放たれた魔力が衛兵さんの足に絡み、異常がある箇所を修復していきます。


「やはり今の急激な動きは、足首にかなりの負担だったようです。あまり無理は為さらないように」

「あ、はい! ご面倒をおかけしました!」


 更に顔を赤くしながら、深々と頭を下げられます。あら、耳まで真っ赤。


「お熱、あるんじゃありませんの?」


 おでこに手のひらを当ててみます。


「ひうっ!」


 あら……熱いですわね。


「あ、でもわたくしの手のひら、冷たくなっているかもしれませんわね」


 全身真っ赤になりつつある衛兵さんに近付き。


 ピトッ

「ひぃああああああ!?」


 おでことおでこをくっつけて…………あら、やっぱり熱いですわね。


「少しお休みになった方が宜しいのでは?」

「は、はひ!」

「教会にはベッドが一つしかありませんが、横になりたければ使って頂いて構いませんわよ?」

「きょ、教会に一つしか無いベッドって……」

「わたくしが普段使っているベッドですわ」


 それを聞いた衛兵さん、何故か突然飛び上がり。


「だだだ大丈夫でございまする! 全然全然ぜんぜぜん平気でござりまする!」


 そのまま全速力で走り去ってしまわれました。


「……どうかしたのでしょうか……まあ、あれだけ速く走れるのでしたら、体調は悪くなさそうですわね……」


 わたくしは再び普段の日課に戻りました。


「そう言えば、何か用事があったのでは?」



 このシスター、見てわかるであろうが天然での、ああやって男達の純粋な心を弄んでおるのじゃ。

 あくまで天然で、自覚無くじゃが。



 朝の奉仕が終わり、軽く朝食を終えてから。


 ギィィ……


「皆様、お待たせ致しました。本日のお務め、始めさせて頂きます」


 聖心教の重要な教義である懺悔の奉仕を行います。


「聖女様、オレの罪をお許し下さい」

「聖女ではありませんが、主の威光によって貴方の罪が浄化されん事を」


 人々が生きている中で起こしてしまった些細な過ち、心に刺さったままの「罪」という名の棘を抜いて差し上げる。それもわたくしの重要なお務めなのです。


「い、妹に意地悪しちゃってごめんなさい!」

「はい、主はお許し下さいますわ。意地悪した分、今度は一緒に遊んであげましょう」


 人々の懺悔を聞き、許し、諭す。それを繰り返す事が、わたくし自身を陶冶していくのです。これも神にお仕えするわたくしの、修業の一環なのです。



 このシスター、綺麗な見た目以上に清らかな心が人を呼び、午前のお務めの間に三桁の人々が押し寄せるそうじゃ。いやはや、まさしく聖女様じゃの。



 お昼近くに差し掛かり、最後の方が礼拝堂に入っていらっしゃいました。


「……あんたが聖女様か?」


「違います。わたくしは聖女を名乗る資格はありません。一介のシスターに過ぎませんわ」


「……成る程、聖女が自らを聖女だと名乗るはずが無いか……」


 そう言うとわたくしの前に進み、突然片膝を着きます。


「ど、どうかなさいましたの!?」


「頼む、オレの罪を聞いてくれ!」


「わ、わかりましたわ。ですからお立ちになって下さいな」


「いや、このままでいい。本来なら、俺のような穢れた存在が来ていい場所じゃ無い」


「そのような事はございませんわ。どうか、自身を卑下なさらないで下さい」


 数分間の会話の後、少しだけ表情が明るくなった男性は、椅子に腰掛けて下さいました。


「さて、これで落ち着いて話ができますわね……では懺悔の奉仕を始めましょう」


「そ、そうだ。俺は、俺は、何という罪深い事を……!」


「大丈夫ですわ、わたくしが出来る限りお助け致します」


 少し涙目になりつつある男性は、ポツリポツリと罪の告白をなさいました。


「お、俺は、ワット食肉店に勤めていまして」


 ワット食肉店。この町で一番大きいお肉屋さんですわね。


「そ、そこの大将の片棒を担ぎ、俺はとんでもない事を……ぉぉぉぉぉぉ!!」


 ついに堪えきれなくなり、涙を流される男性の背中を、わたくしはさする事しか出来ませんでした。



 さてさて、この男が持ち込んだ懺悔。これを聞いたシスターがどのような反応をするか……それを見ていけば、このシスターが何故あのような行いをするのか、解るかもしれぬの。



「落ち着きましたか?」


「はい、はい……すみませんでした」


「いえ。で、貴方をそこまで追い詰めてしまった罪とは、一体何なのですか?」


「うぅ……俺は……俺は……大将に言われるがまま…………女を」


 女性を?


「女を……誑かして」


 まあ。


「店に連れてって………………その……集団で……」


 ……まさか。


「ふ、普段から店に来るお客さんの中から、大将の好みに合う女をピックアップして」


「どういう手段で誑かしたか、は結構ですわ。結論をお願いします」


「……俺が誘い出して、大将が裏で男達を集め、金を取って……」


 …………。


「その……無理矢理……」

「手込めにした…………のですね」


 それを聞いた男性は、頷いてから、再び泣き崩れました。



「……そのお肉屋さん……天罰が落ちて然るべき、ですわね……」



 普段は優しい聖女の顔に、鬼が姿を現しておった。

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